[0529] 上腕周径および下腿周径の身体計測と基本動作能力との関係
キーワード:上腕周径, 下腿周径, 基本動作能力
【はじめに】
高齢者に対しては身体計測と日常生活動作(以下;ADL)との関係はしばしば検討されている。身体計測は上肢もしくは下肢での周径を利用し,筋肉量や筋力を含めADLとの関係が報告されている。また,近年上腕および下腿周径を用いて栄養状態との関係も報告されている。しかし,病院を含めた施設等での療養生活を送っている患者については,身体計測とADLとの関係は十分明らかにされていない。一般的に,上腕と下腿では筋肉量・骨格の違いからも下腿での周径が大きいことがわかっているが,病院を含めた施設等での療養生活を送っている患者では,上腕と下腿における周径の差(以下;周径差)に一定の変化が起こると予測された。そこで,本研究では療養病棟入院患者を対象に身体計測を行い,ADLに含まれる基本動作能力(以下;基本動作)に着目し,身体計測と基本動作との関係を検討した。
【対象と方法】
対象は,70歳以上の療養病棟入院患者60名(男性25名,女性35名,平均年齢85.8±8歳,平均入院日数508±328日)。身体計測は,上腕および下腿周径とし同側上下肢で計測が行える患者とした。また,明らかな麻痺のある側での測定は行わなかった。計測は,上腕周径(以下;上腕)を上腕膨隆部位,下腿周径(以下;下腿)を下腿膨隆部位にてその最大周径を測定した。測定した計測値は,上腕と下腿との周径差を算出し,評価した。基本動作は,3群に分類した。1群は,立ち上がり動作で下肢支持がわずかにでも行えない群を立位不可群(以下;立位不可)。2群は,立ち上がり動作で下肢支持がわずかにでも行える群を立位可群(以下;立位可)。3群は,介助量を問わず歩行ができる群(以下;歩行可)とした。基本動作で3群間に分類し,上腕と下腿の周径差から算出した測定値との比較を一元配置の分散分析を行い,比較検討した。なお,統計学的処理はSPSSver16を使用し,有意水準は危険率1%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院,永生病院倫理委員会の承認を得て実施した。対象者(家族含む)に倫理的配慮について文書および口頭にて説明し,研究参加の同意を得た。
【結果】
身体計測の上腕と下腿の周径差の平均値は,3群でそれぞれ立位不可1.5±1.2cm,立位可4.1±1.3cm,歩行可6.4±1.8cmであった。身体計測の上腕と下腿の周径差と3群に分類した基本動作において有意差を認めた(p<0.001)。結果,上腕と下腿の周径差が基本動作に関係していることが示唆された。
【考察】
本研究においては,療養病棟入院患者の身体計測での上腕と下腿の周径差が基本動作能力に関係していることが示唆された。このことにより,上腕および下腿の身体計測により,簡易的に基本動作能力を予測できると考えられた。本研究の対象は,平均年齢85歳,平均入院日数1年~1年半と長期療養生活を送っている高齢患者であることもあり,上下肢の周径に与える影響は,廃用症候群の進行の有無が関係していることも考えられた。立位可群と歩行可群では,上腕と下腿の周径差が保たれていた。立ち上がりや歩行における下肢での支持が下肢筋力の維持として働き,下腿周径が保たれたと考えられる。しかし,上腕と下腿では筋肉量・骨格の違いからも下腿での周径が大きいことがわかっている中,立位不可群では上腕と下腿の周径差がほとんどなくなっていた。それは,長期療養生活において廃用症候群が進行し,下腿の筋肉量の低下よりも上腕の筋肉量の低下の進行が少なく周径差に影響がみられないことも示唆された。今後は,長期療養生活高齢患者による廃用症候群が,上腕および下腿の周径にどのくらい影響するのか,明らかにしていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
上腕と下腿の周径差が基本動作能力に関係していることが示唆されたことは,同部の周径の計測が簡易的に基本動作能力を予測する一指標となる点で理学療法研究として意義があると考えられる。
高齢者に対しては身体計測と日常生活動作(以下;ADL)との関係はしばしば検討されている。身体計測は上肢もしくは下肢での周径を利用し,筋肉量や筋力を含めADLとの関係が報告されている。また,近年上腕および下腿周径を用いて栄養状態との関係も報告されている。しかし,病院を含めた施設等での療養生活を送っている患者については,身体計測とADLとの関係は十分明らかにされていない。一般的に,上腕と下腿では筋肉量・骨格の違いからも下腿での周径が大きいことがわかっているが,病院を含めた施設等での療養生活を送っている患者では,上腕と下腿における周径の差(以下;周径差)に一定の変化が起こると予測された。そこで,本研究では療養病棟入院患者を対象に身体計測を行い,ADLに含まれる基本動作能力(以下;基本動作)に着目し,身体計測と基本動作との関係を検討した。
【対象と方法】
対象は,70歳以上の療養病棟入院患者60名(男性25名,女性35名,平均年齢85.8±8歳,平均入院日数508±328日)。身体計測は,上腕および下腿周径とし同側上下肢で計測が行える患者とした。また,明らかな麻痺のある側での測定は行わなかった。計測は,上腕周径(以下;上腕)を上腕膨隆部位,下腿周径(以下;下腿)を下腿膨隆部位にてその最大周径を測定した。測定した計測値は,上腕と下腿との周径差を算出し,評価した。基本動作は,3群に分類した。1群は,立ち上がり動作で下肢支持がわずかにでも行えない群を立位不可群(以下;立位不可)。2群は,立ち上がり動作で下肢支持がわずかにでも行える群を立位可群(以下;立位可)。3群は,介助量を問わず歩行ができる群(以下;歩行可)とした。基本動作で3群間に分類し,上腕と下腿の周径差から算出した測定値との比較を一元配置の分散分析を行い,比較検討した。なお,統計学的処理はSPSSver16を使用し,有意水準は危険率1%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
当院,永生病院倫理委員会の承認を得て実施した。対象者(家族含む)に倫理的配慮について文書および口頭にて説明し,研究参加の同意を得た。
【結果】
身体計測の上腕と下腿の周径差の平均値は,3群でそれぞれ立位不可1.5±1.2cm,立位可4.1±1.3cm,歩行可6.4±1.8cmであった。身体計測の上腕と下腿の周径差と3群に分類した基本動作において有意差を認めた(p<0.001)。結果,上腕と下腿の周径差が基本動作に関係していることが示唆された。
【考察】
本研究においては,療養病棟入院患者の身体計測での上腕と下腿の周径差が基本動作能力に関係していることが示唆された。このことにより,上腕および下腿の身体計測により,簡易的に基本動作能力を予測できると考えられた。本研究の対象は,平均年齢85歳,平均入院日数1年~1年半と長期療養生活を送っている高齢患者であることもあり,上下肢の周径に与える影響は,廃用症候群の進行の有無が関係していることも考えられた。立位可群と歩行可群では,上腕と下腿の周径差が保たれていた。立ち上がりや歩行における下肢での支持が下肢筋力の維持として働き,下腿周径が保たれたと考えられる。しかし,上腕と下腿では筋肉量・骨格の違いからも下腿での周径が大きいことがわかっている中,立位不可群では上腕と下腿の周径差がほとんどなくなっていた。それは,長期療養生活において廃用症候群が進行し,下腿の筋肉量の低下よりも上腕の筋肉量の低下の進行が少なく周径差に影響がみられないことも示唆された。今後は,長期療養生活高齢患者による廃用症候群が,上腕および下腿の周径にどのくらい影響するのか,明らかにしていきたい。
【理学療法学研究としての意義】
上腕と下腿の周径差が基本動作能力に関係していることが示唆されたことは,同部の周径の計測が簡易的に基本動作能力を予測する一指標となる点で理学療法研究として意義があると考えられる。