[0530] 消化器癌患者に対する肺合併症予防のための新たな周術期リハビリテーション
キーワード:周術期入院リハビリ, 心肺機能強化運動, 術後肺合併症
【はじめに,目的】
日本では年間約40万件もの消化器外科手術が行われている。そのうち9~40%は無気肺,術後肺炎,肺水腫,急性呼吸不全といった術後肺合併症(Postoperative pulmonary compulications:PPCs)を併発すると報告されている。PPCsは病院滞在期間,他の術後合併症罹患率,死亡率を増加させ患者のADLおよびQOLを大幅に低下させる。手術手技の進歩や術後栄養管理等の発達によりPPCs発生頻度は減ってきているが,その反面で高齢者や全身状態不良者等に対する手術件数の割合が年々増えてきている。近年,術前の最高酸素摂取量(Peak VO2)を増加させることはPPCs発生の低下に関連すると報告されており,周術期の心肺機能強化運動(Cardiopulmonary fitness:CPF)が推奨されている。当院では2013年1月よりPPCs発生リスクの高い患者を,外科入院前にリハビリテーション科に1週間入院させCPFを施行するといった取り組みを行っている。今回,当院の通常の周術期リハビリ(外来紹介時に行うオリエンテーション,外科入院時から開始するCPFと筋力増強運動,術後翌日からの椅子座位と歩行訓練)に加え,手術待機期間を利用した短期間の周術期入院リハビリを行うという取り組みが,PPCs発生リスクが高い患者に対しPeak VO2を増加させ,PPCs発症予防に関与するか検討することを目的とした。
【方法】
対象は2013年1月から2013年11月までの期間に当院消化器外科で全身麻酔下での手術予定の12名(男性8名,女性4名,平均年齢81±6.4歳)とし,対象者全員が術前の呼吸不全リスク指数(Respiratory failure risk index:RFRI)がclass3以上で,PPCs発症率が高いと主治医により判断され今回の試行に参加している。測定項目は①体重②Peak VO2③肺機能(%VC,FEV1.0%)④6分間歩行試験で,リハビリ科入院時と退院時に測定し,術後PPCs発症の有無,術後在院日数,転帰について調査した。Peak VO2は呼気ガス分析装置を用いて,米国胸部学会(ATS)のガイドラインを基にランプ負荷法を実施し算出している。CPFは米国スポーツ医学会(ACSM)が推奨している有酸素運動を基に,リハビリ科入院時にCPET後,60~70%Peak VO2の運動強度で自転車エルゴメーターを毎分50~60回転で連続30分以上,午前と午後の1日2回施行した。統計学的検討はpaired t-testを用いリハビリ科入院時と退院時の値を比較し,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者全員に口頭および文章にて本研究に対するインフォームド・コンセントを行い,署名と同意を得ている。本研究は,当院倫理委員会の承認を得て実施している。
【結果】
リハビリ科入院時と比較し退院時の体重(57.3±7.9kg vs 55.5±7.3kg;p<0.05)は有意に低下し,Peak VO2(16.5±3.1ml/kg/min vs 18.0±3.6ml/kg/min;p<0.05)と6分間歩行距離(342±94m vs 404±101m;p<0.05)は有意に増加した。しかし%VC(74.0±5.1% vs 74.1±7.7%;p=0.97)およびFEV1.0%(90.0±9.2% vs 91.1±11.0%;p=0.37)は有意差を認めなかった。術後平均在院日数は13.1±7.3日で,術翌日に全ての対象者が歩行訓練を実施し,PPCsの発生0名,自立歩行で自宅退院となった。なお,同時期に通常の周術期リハビリを行った患者86名の術後平均在院日数は14.3±8.0日で無気肺1名,肺炎1名のPPCsを認めた(2名ともRFRI class2以下)。
【考察】
PPCs発生リスクが高い患者に対し,1週間という短期間であっても術前にCPFを科学的根拠に基づき実施することで,Peak VO2を増加させることが可能であり,PPCs発生の低下に関与する可能性を認めた。悪性腫瘍の場合,疾病の進行が懸念され,より早期に手術に臨むことが望ましいとされている。短期間にPPCs発生予防に効果のある介入をすることが,PPCs発生リスクの高い癌患者に対しての周術期リハビリテーションで最も重要であり,今回の我々の検討においてそれが可能であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
DPC制度の導入や手術対象者が増加した現在では,経営や病床管理上の都合により外科入院日が手術日の数日前になることも多いため,今回の我々の試行は特定機能病院において特に有意義なものであると考える。また,疾病予防といった観点からみても理学療法の有用性について意義があるものと考える。
日本では年間約40万件もの消化器外科手術が行われている。そのうち9~40%は無気肺,術後肺炎,肺水腫,急性呼吸不全といった術後肺合併症(Postoperative pulmonary compulications:PPCs)を併発すると報告されている。PPCsは病院滞在期間,他の術後合併症罹患率,死亡率を増加させ患者のADLおよびQOLを大幅に低下させる。手術手技の進歩や術後栄養管理等の発達によりPPCs発生頻度は減ってきているが,その反面で高齢者や全身状態不良者等に対する手術件数の割合が年々増えてきている。近年,術前の最高酸素摂取量(Peak VO2)を増加させることはPPCs発生の低下に関連すると報告されており,周術期の心肺機能強化運動(Cardiopulmonary fitness:CPF)が推奨されている。当院では2013年1月よりPPCs発生リスクの高い患者を,外科入院前にリハビリテーション科に1週間入院させCPFを施行するといった取り組みを行っている。今回,当院の通常の周術期リハビリ(外来紹介時に行うオリエンテーション,外科入院時から開始するCPFと筋力増強運動,術後翌日からの椅子座位と歩行訓練)に加え,手術待機期間を利用した短期間の周術期入院リハビリを行うという取り組みが,PPCs発生リスクが高い患者に対しPeak VO2を増加させ,PPCs発症予防に関与するか検討することを目的とした。
【方法】
対象は2013年1月から2013年11月までの期間に当院消化器外科で全身麻酔下での手術予定の12名(男性8名,女性4名,平均年齢81±6.4歳)とし,対象者全員が術前の呼吸不全リスク指数(Respiratory failure risk index:RFRI)がclass3以上で,PPCs発症率が高いと主治医により判断され今回の試行に参加している。測定項目は①体重②Peak VO2③肺機能(%VC,FEV1.0%)④6分間歩行試験で,リハビリ科入院時と退院時に測定し,術後PPCs発症の有無,術後在院日数,転帰について調査した。Peak VO2は呼気ガス分析装置を用いて,米国胸部学会(ATS)のガイドラインを基にランプ負荷法を実施し算出している。CPFは米国スポーツ医学会(ACSM)が推奨している有酸素運動を基に,リハビリ科入院時にCPET後,60~70%Peak VO2の運動強度で自転車エルゴメーターを毎分50~60回転で連続30分以上,午前と午後の1日2回施行した。統計学的検討はpaired t-testを用いリハビリ科入院時と退院時の値を比較し,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者全員に口頭および文章にて本研究に対するインフォームド・コンセントを行い,署名と同意を得ている。本研究は,当院倫理委員会の承認を得て実施している。
【結果】
リハビリ科入院時と比較し退院時の体重(57.3±7.9kg vs 55.5±7.3kg;p<0.05)は有意に低下し,Peak VO2(16.5±3.1ml/kg/min vs 18.0±3.6ml/kg/min;p<0.05)と6分間歩行距離(342±94m vs 404±101m;p<0.05)は有意に増加した。しかし%VC(74.0±5.1% vs 74.1±7.7%;p=0.97)およびFEV1.0%(90.0±9.2% vs 91.1±11.0%;p=0.37)は有意差を認めなかった。術後平均在院日数は13.1±7.3日で,術翌日に全ての対象者が歩行訓練を実施し,PPCsの発生0名,自立歩行で自宅退院となった。なお,同時期に通常の周術期リハビリを行った患者86名の術後平均在院日数は14.3±8.0日で無気肺1名,肺炎1名のPPCsを認めた(2名ともRFRI class2以下)。
【考察】
PPCs発生リスクが高い患者に対し,1週間という短期間であっても術前にCPFを科学的根拠に基づき実施することで,Peak VO2を増加させることが可能であり,PPCs発生の低下に関与する可能性を認めた。悪性腫瘍の場合,疾病の進行が懸念され,より早期に手術に臨むことが望ましいとされている。短期間にPPCs発生予防に効果のある介入をすることが,PPCs発生リスクの高い癌患者に対しての周術期リハビリテーションで最も重要であり,今回の我々の検討においてそれが可能であることが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
DPC制度の導入や手術対象者が増加した現在では,経営や病床管理上の都合により外科入院日が手術日の数日前になることも多いため,今回の我々の試行は特定機能病院において特に有意義なものであると考える。また,疾病予防といった観点からみても理学療法の有用性について意義があるものと考える。