第49回日本理学療法学術大会

Presentation information

発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

呼吸6

Fri. May 30, 2014 4:15 PM - 5:05 PM ポスター会場 (内部障害)

座長:瀬崎学(新潟県立新発田病院リハビリテーション科)

内部障害 ポスター

[0532] 消化器がん患者の手術前腹部骨格筋断面積

原毅1, 佐野充広1, 四宮美穂1, 市村駿介1, 中野徹1, 松澤克1, 石井貴弥1, 松本恭平1, 吉田智香子1, 櫻井愛子1, 草野修輔2, 久保晃3 (1.国際医療福祉大学三田病院リハビリテーション室, 2.国際医療福祉大学三田病院リハビリテーション科, 3.国際医療福祉大学保健医療学部理学療法学科)

Keywords:消化器がん患者, 運動機能, 筋断面積

【はじめに,目的】
昨今がん生存者は,がん医療の発展により増加傾向にある。この変化に伴いわが国では,がん患者リハビリテーション(以下リハ)料が新設され,対象疾患の8項目中5項目が周術期がん患者に定めている。しかしリハ分野では,周術期がんリハ関連の報告が少なく,早急に検討すべき課題と考える。消化器がん患者の手術前の腹部骨格筋断面積(以下筋断面積)に着目した研究は,国外より報告されている。手術前筋断面積が少ない患者は,他の患者と比較して手術後合併症の発症リスクが高く,積極的治療後の高再発率,低生存率が明らかとなっている。リハ分野においても消化器がん患者の骨格筋量など体格は,臨床現場で手術後経過を推測する一指標として重要視しているが,双方の関連性など客観的に検討した報告はない。そこで本研究では,消化器がん患者の手術前筋断面積と周術期運動機能変化,手術後Quality of Life(以下QOL)の関連性について予備的に検討した。
【方法】
対象は,手術前運動機能および認知機能障害が認められず日常生活が自立し,手術後経過が良好で自宅退院された周術期消化器がん患者33例(男性20例,女性13例,平均年齢62.1±11.6歳)とした。対象者の手術部位は,胃9例,肝臓11例,膵臓1例,結腸7例,直腸5例であった。筋断面積計測には,手術前に主疾患の確定診断目的で撮影された腹部CT画像を使用した。腹部CT画像は,最も左右横突起がクリアに写るL3レベルの画像を採用した。筋断面積の計測には,ImageJ1.47を使用した。計測された筋断面積は,「筋断面積(mm2)/身長2(m2)」の式に挿入し,正規化した。運動機能評価には,6分間歩行距離(以下6MD)を使用した。6MDの測定動作は,対象者に勾配のない50mの歩行路を最大努力下で可能な限り往復することとした。検査者は,対象者の後方から歩行距離測定器(セキスイ樹脂,SDM-1)を用いて追跡し,歩行距離(m)を計測した。計測時期は,手術日より1日以上前の時期(以下手術前),手術後10前後経過した時期(以下術後10),手術後28日前後経過した時期(以下術後28)の3つの時期としたQOL評価には,Short-Form 36-Item Health Survey version 2のアキュート版(以下SF36)を使用した。SF36は,術後28の時期に自己記入式の質問用紙を対象者に記入してもらい,認定NPO法人健康評価研究機構iHope Internationalが推奨しているSF36v2TM日本語版スコアリングプログラムを使用して得点化した。QOL評価値には,算出された8つの下位尺度得点を採用した。統計学的処理では,まず反復測定一元配置分散分析と多重比較検定(Bonferroni法)を使用し,各計測時期間の6MDの差について比較した。手術前筋断面積と周術期運動機能変化の関係には,予め多重比較検定の結果より有意差が認められた計測時期間の6MDのみ「後計測時期の6MD/前計測時期の6MD×100%」の式に挿入して6MD変化比(%)を算出し,Pearsonの積率相関係数を用い,筋断面積と6MD変化比の相関を検討した。手術前筋断面積と手術後QOLの関係には,Spearman順位相関係数を用い,筋断面積と術後28の各下位尺度得点の相関を検討した。有意水準は,全て5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,国際医療福祉大学三田病院倫理委員会の承認を受けて実施した。
【結果】
6MDは,計測時期要因に有意な主効果が認められ,多重比較検定の結果より手術前と術後10(6MD変化比:89.4±15.4%),術後10と術後28(6MD変化比:111.9±19.2%)に有意差が認められた。また,筋断面積は,手術前と術後10の6MD変化比のみ有意な相関関係(r=0.350)が認められた。
【考察】
周術期消化器がん患者は,手術治療に伴い免疫機能が活性化し,エネルギー源として骨格筋内で蛋白異化が発生する。この蛋白異化は,手術侵襲の大きさと関連することが報告されている。本研究の対象者は,全例手術治療を受けており,手術後骨格筋に蛋白異化が発生することが推察され,手術後一時的な運動機能低下が起きた可能性がある 先行研究より手術前筋断面積は,周術期消化器がん患者の手術後合併症の発症リスクと関連することが報告され,手術侵襲に対する予備力の指標として可能性が示唆されている。本研究の結果より手術前筋断面積は,手術後一時的に起こる運動機能低下に対する予備力の指標としても関連する可能性が示唆される。一方で積極的治療を終えた消化器がん患者の自覚的健康感には,手術前筋断面積のみではなく他の要因が関連する可能性が示唆される。
【理学療法学研究としての意義】
消化器がん患者の手術前筋断面積は,周術期運動機能変化に関連することが明らかとなり,周術期がんリハ実施に際し把握すべき一情報と考える。今後は,さらに対象者増加,層別化し,より一層検討が必要と考える。