[0534] 当院の肝移植患者周術期に対する理学療法介入の現状
Keywords:肝移植, 周術期, 移動能力
【はじめに,目的】
肝移植は末期肝不全患者に対する治療手段の一つである。肝移植レシピエントの特徴として,重度の肝障害に伴う低栄養,胸腹水,筋力低下,高アンモニア血症に伴う意識障害などが挙げられる。さらに,移植待機期間が長期にわたる場合もあり,これらの結果生じる肝移植術前のディコンディショニングから不活動状態に陥り,術後の早期離床が困難となる。また,肝移植手術は侵襲度が高いことから,肺炎など術後合併症を併発するリスクが高く,離床のさらなる長期化につながりうる。肝移植周術期における理学療法は,術後の早期離床を促し,呼吸器合併症を減少させる効果を期待される。さらに,術前から理学療法介入を行うことで,身体機能を維持し,術後離床の促進につながる可能性も期待される。本研究では,当院における肝移植レシピエントに対する理学療法介入状況と術後経過について検討した。
【方法】
2012年4月から2013年9月までに当院において肝移植手術を施行され,理学療法が処方された成人17例(男性9,女性8例,平均年齢45.4歳)の臨床情報をカルテより後方視的に調査した。入院後,術前から処方のあった症例に対する理学療法として,オリエンテーション,呼吸・排痰法指導,ADL指導,歩行練習を行った。術前および術後からの処方例ともに術後は可及的早期に離床を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理委員会の承認を得た上で行った。
【結果】
移植術前の肝障害重症度MELD scoreは平均21.3(7-47)点であった。生体肝移植は13例であり,そのうち術前から理学療法介入が行われていたのは10例であった。脳死肝移植は4例で全例術後からの介入であった。術前に独歩自立していたのは11例(術前理学療法6例)で,修正自立やベッド上安静が6例(術前理学療法4例)であった。術後理学療法開始までの期間は平均3.3(1-13)日,術後歩行練習開始までは平均16.3(2-84)日,術後在院日数は平均60.8(30-204)日であった。移植前独歩可能群(11例)において修正自立またはベッド上安静群(6例)より術後歩行練習開始までの期間が短くなる傾向が見られたものの,統計学的には有意ではなかった(p=0.085)。術後歩行練習開始までの期間と有意な正の相関を示した項目は手術時間,術中出血量,挿管日数,ICU滞在日数,術後在院日数であった。4例(23.5%)で術後肺炎を発症した。6例に術後歩行練習開始までに10日以上の遅延が認められ,その要因には術前歩行手段が修正自立以下(4例),術後肺炎(3例),急性拒絶反応によるショック(1例)が含まれた。転帰は全例生存で,自宅退院14例,転医3例,転帰時の移動能力は独歩14例,修正自立2例,車椅子1例であった。
【考察】
術前に独歩可能であった症例では,移動能力が修正自立またはベッド上安静であった症例に比べ術後の歩行練習開始が早い傾向がみられた。すなわち,術前移動能力が術後離床の重要な要素であると推測され,今後生体肝移植については,積極的に術前介入を行っていく必要がある。また術後肺炎を発症した4例中3例において歩行開始が遅延しており,うち2例が術後全身状態不良のため術直後から理学療法を開始できていなかった。ICU滞在日数も長期化しており,ベッド上安静を余儀なくされ,離床不可能な状態であったと推測される。離床が行えないような状態にある時期においては,コンディショニングを中心とした呼吸理学療法が術後呼吸器合併症の発生予防に重要であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
肝移植の周術期理学療法介入の効果は十分明らかにされておらず,諸外国における報告は散見されるものの,歩行開始時期,在院日数などは社会的背景などの違いにより,一概には比較できない。本研究で現在の介入状況と術後の経過を把握することは,本邦における肝移植レシピエントの理学療法プログラムを立案する上での有用な情報になりうると期待される。
肝移植は末期肝不全患者に対する治療手段の一つである。肝移植レシピエントの特徴として,重度の肝障害に伴う低栄養,胸腹水,筋力低下,高アンモニア血症に伴う意識障害などが挙げられる。さらに,移植待機期間が長期にわたる場合もあり,これらの結果生じる肝移植術前のディコンディショニングから不活動状態に陥り,術後の早期離床が困難となる。また,肝移植手術は侵襲度が高いことから,肺炎など術後合併症を併発するリスクが高く,離床のさらなる長期化につながりうる。肝移植周術期における理学療法は,術後の早期離床を促し,呼吸器合併症を減少させる効果を期待される。さらに,術前から理学療法介入を行うことで,身体機能を維持し,術後離床の促進につながる可能性も期待される。本研究では,当院における肝移植レシピエントに対する理学療法介入状況と術後経過について検討した。
【方法】
2012年4月から2013年9月までに当院において肝移植手術を施行され,理学療法が処方された成人17例(男性9,女性8例,平均年齢45.4歳)の臨床情報をカルテより後方視的に調査した。入院後,術前から処方のあった症例に対する理学療法として,オリエンテーション,呼吸・排痰法指導,ADL指導,歩行練習を行った。術前および術後からの処方例ともに術後は可及的早期に離床を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院倫理委員会の承認を得た上で行った。
【結果】
移植術前の肝障害重症度MELD scoreは平均21.3(7-47)点であった。生体肝移植は13例であり,そのうち術前から理学療法介入が行われていたのは10例であった。脳死肝移植は4例で全例術後からの介入であった。術前に独歩自立していたのは11例(術前理学療法6例)で,修正自立やベッド上安静が6例(術前理学療法4例)であった。術後理学療法開始までの期間は平均3.3(1-13)日,術後歩行練習開始までは平均16.3(2-84)日,術後在院日数は平均60.8(30-204)日であった。移植前独歩可能群(11例)において修正自立またはベッド上安静群(6例)より術後歩行練習開始までの期間が短くなる傾向が見られたものの,統計学的には有意ではなかった(p=0.085)。術後歩行練習開始までの期間と有意な正の相関を示した項目は手術時間,術中出血量,挿管日数,ICU滞在日数,術後在院日数であった。4例(23.5%)で術後肺炎を発症した。6例に術後歩行練習開始までに10日以上の遅延が認められ,その要因には術前歩行手段が修正自立以下(4例),術後肺炎(3例),急性拒絶反応によるショック(1例)が含まれた。転帰は全例生存で,自宅退院14例,転医3例,転帰時の移動能力は独歩14例,修正自立2例,車椅子1例であった。
【考察】
術前に独歩可能であった症例では,移動能力が修正自立またはベッド上安静であった症例に比べ術後の歩行練習開始が早い傾向がみられた。すなわち,術前移動能力が術後離床の重要な要素であると推測され,今後生体肝移植については,積極的に術前介入を行っていく必要がある。また術後肺炎を発症した4例中3例において歩行開始が遅延しており,うち2例が術後全身状態不良のため術直後から理学療法を開始できていなかった。ICU滞在日数も長期化しており,ベッド上安静を余儀なくされ,離床不可能な状態であったと推測される。離床が行えないような状態にある時期においては,コンディショニングを中心とした呼吸理学療法が術後呼吸器合併症の発生予防に重要であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
肝移植の周術期理学療法介入の効果は十分明らかにされておらず,諸外国における報告は散見されるものの,歩行開始時期,在院日数などは社会的背景などの違いにより,一概には比較できない。本研究で現在の介入状況と術後の経過を把握することは,本邦における肝移植レシピエントの理学療法プログラムを立案する上での有用な情報になりうると期待される。