[0536] 地域高齢者における血清IGF-Iと全身筋量との関連
キーワード:サルコペニア, 成長因子, 骨格筋
【はじめに,目的】
加齢に伴う骨格筋量ならびに筋力の低下(サルコペニア)は,高齢期の生活機能を低下させる危険因子であり,その早期発見と予防戦略の確立は重要な課題といえる。サルコペニアの発症機序はいまだ解明されていないが,骨格筋自体の変化だけでなく内分泌系因子の関与が指摘されている。なかでも,インスリン様成長因子I(Insulin-like growth factor I:IGF-I)は筋タンパク質の合成を促進するサイトカインの一種で,筋の再生・肥大にとって重要な役割を担う。過去の縦断研究では,血清IGF-Iがサルコペニアの予測因子となり得る可能性が示唆されており,IGF-Iはサルコペニアのハイリスク者を同定するバイオマーカーとして有効かもしれない。その一方で,IGF-Iの血中濃度は骨格筋量と同様に年齢や性別,人種によって大きく異なることが知られている。過去の知見が日本人高齢者に当てはまるか否か,現在のところ明らかではない。本研究では,日本人高齢者の血清IGF-I濃度と全身筋量を測定し,両者の関連性について検討した。
【方法】
65歳以上の地域在住高齢者251名(男性142名,女性109名;平均73.6±5.7歳)を対象として,二重エネルギーX線吸収法(DXA法)による身体組成の測定と採血を実施した。身体組成の測定にはQDR-4500A(Hologic社)を使用し,全身スキャンの結果は専用の解析ソフトウェア(ver. 9.03D)によって脂肪,除脂肪,骨組織に分類された。これら一連の測定・解析作業は,すべて熟練した同一の放射線技師が実施した。安静状態で採取された血液検体は遠心分離後に冷凍保存され,専用キット(IGF-I(ソマトメジC)IRMA「第一」)を用いた免疫放射定量法によって血清IGF-I濃度を測定した。血清IGF-I濃度と全身除脂肪量との関連性を検討するため,まずはPearsonの相関分析を行った。次に,従属変数に全身除脂肪量,独立変数に血清IGF-I濃度と調整因子(年齢,BMI,血清アルブミン値)を投入した重回帰分析(強制投入法)を行った。すべての統計解析は男女別に行い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は倫理・利益相反委員会の承認とヘルシンキ宣言を遵守して実施した。また,対象者には書面と口頭にて研究の目的・趣旨を十分に説明し,研究に対する参加の同意を得た。
【結果】
単相関分析の結果,血清IGF-I濃度は男女とも年齢(男性:r=-0.37,女性:r=-0.34),血清アルブミン値(男性:r=0.23,女性:r=0.40)と有意に関連した。一方,全身除脂肪量(男性:r=0.38,女性:r=0.01)とBMI(男性:r=0.25,女性:r=-0.01)は,男性のみ血清IGF-I濃度との有意な正の相関を認めた。多変量解析の結果,男性では血清IGF-I濃度およびアルブミン値,年齢,BMIで全身除脂肪量の57%を説明でき,これらの変数で調整しても血清IGF-I濃度と全身除脂肪量との関連性は有意であった(β=0.15,p=0.02)。
【考察】
今回の結果は,年齢や体格,栄養状態の影響を除いてもIGF-Iが全身筋量に独立して関連する可能性を示唆しており,日本人高齢男性におけるサルコペニア対策を考えるうえで,IGF-Iのシグナル系統は重要な役割を果たすものと考える。その一方で,同じような関連性は高齢女性で認められなかった。高齢女性では炎症性サイトカインによるタンパク分解系統がサルコペニアの予測に有効との報告もある。骨格筋における肥大・委縮のメカニズムには,IGF-I以外にも複数の内分泌系因子が関与しており,今後はこれらの影響についても検討する必要があるだろう。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は,サルコペニアの発症機序を理解するうえで有益な知見であり,その早期発見や予防戦略を考える際の重要な手がかりになり得る。我が国の理学療法士が介護予防事業の中心的な役割を担うためには,サルコペニアにおける日本人の特殊性や男女による病態の違いなどを理解する必要があり,今回の研究成果はその一助となるだろう。
加齢に伴う骨格筋量ならびに筋力の低下(サルコペニア)は,高齢期の生活機能を低下させる危険因子であり,その早期発見と予防戦略の確立は重要な課題といえる。サルコペニアの発症機序はいまだ解明されていないが,骨格筋自体の変化だけでなく内分泌系因子の関与が指摘されている。なかでも,インスリン様成長因子I(Insulin-like growth factor I:IGF-I)は筋タンパク質の合成を促進するサイトカインの一種で,筋の再生・肥大にとって重要な役割を担う。過去の縦断研究では,血清IGF-Iがサルコペニアの予測因子となり得る可能性が示唆されており,IGF-Iはサルコペニアのハイリスク者を同定するバイオマーカーとして有効かもしれない。その一方で,IGF-Iの血中濃度は骨格筋量と同様に年齢や性別,人種によって大きく異なることが知られている。過去の知見が日本人高齢者に当てはまるか否か,現在のところ明らかではない。本研究では,日本人高齢者の血清IGF-I濃度と全身筋量を測定し,両者の関連性について検討した。
【方法】
65歳以上の地域在住高齢者251名(男性142名,女性109名;平均73.6±5.7歳)を対象として,二重エネルギーX線吸収法(DXA法)による身体組成の測定と採血を実施した。身体組成の測定にはQDR-4500A(Hologic社)を使用し,全身スキャンの結果は専用の解析ソフトウェア(ver. 9.03D)によって脂肪,除脂肪,骨組織に分類された。これら一連の測定・解析作業は,すべて熟練した同一の放射線技師が実施した。安静状態で採取された血液検体は遠心分離後に冷凍保存され,専用キット(IGF-I(ソマトメジC)IRMA「第一」)を用いた免疫放射定量法によって血清IGF-I濃度を測定した。血清IGF-I濃度と全身除脂肪量との関連性を検討するため,まずはPearsonの相関分析を行った。次に,従属変数に全身除脂肪量,独立変数に血清IGF-I濃度と調整因子(年齢,BMI,血清アルブミン値)を投入した重回帰分析(強制投入法)を行った。すべての統計解析は男女別に行い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は倫理・利益相反委員会の承認とヘルシンキ宣言を遵守して実施した。また,対象者には書面と口頭にて研究の目的・趣旨を十分に説明し,研究に対する参加の同意を得た。
【結果】
単相関分析の結果,血清IGF-I濃度は男女とも年齢(男性:r=-0.37,女性:r=-0.34),血清アルブミン値(男性:r=0.23,女性:r=0.40)と有意に関連した。一方,全身除脂肪量(男性:r=0.38,女性:r=0.01)とBMI(男性:r=0.25,女性:r=-0.01)は,男性のみ血清IGF-I濃度との有意な正の相関を認めた。多変量解析の結果,男性では血清IGF-I濃度およびアルブミン値,年齢,BMIで全身除脂肪量の57%を説明でき,これらの変数で調整しても血清IGF-I濃度と全身除脂肪量との関連性は有意であった(β=0.15,p=0.02)。
【考察】
今回の結果は,年齢や体格,栄養状態の影響を除いてもIGF-Iが全身筋量に独立して関連する可能性を示唆しており,日本人高齢男性におけるサルコペニア対策を考えるうえで,IGF-Iのシグナル系統は重要な役割を果たすものと考える。その一方で,同じような関連性は高齢女性で認められなかった。高齢女性では炎症性サイトカインによるタンパク分解系統がサルコペニアの予測に有効との報告もある。骨格筋における肥大・委縮のメカニズムには,IGF-I以外にも複数の内分泌系因子が関与しており,今後はこれらの影響についても検討する必要があるだろう。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は,サルコペニアの発症機序を理解するうえで有益な知見であり,その早期発見や予防戦略を考える際の重要な手がかりになり得る。我が国の理学療法士が介護予防事業の中心的な役割を担うためには,サルコペニアにおける日本人の特殊性や男女による病態の違いなどを理解する必要があり,今回の研究成果はその一助となるだろう。