第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

健康増進・予防11

Fri. May 30, 2014 4:15 PM - 5:05 PM ポスター会場 (生活環境支援)

座長:山田拓実(首都大学東京大学院人間健康科学研究科理学療法学科)

生活環境支援 ポスター

[0537] 水位(腋窩レベル・臍レベル)の違いが吸気筋疲労に与える影響

山科吉弘1, 青山宏樹1, 横山久代2, 田平一行3 (1.藍野大学医療保健学部理学療法学科, 2.大阪市立大学健康都市・スポーツ研究センター, 3.畿央大学健康科学部理学療法学科)

Keywords:水中運動, 吸気筋筋力, 健康増進

【はじめに,目的】
高齢者の死因として肺炎は大きな割合を占めており,その原因の一つとして咳嗽能力の低下が指摘されている。咳嗽能力は呼吸筋力と相関があるとされ,健康増進において呼吸筋力の維持・向上は不可欠である。また,近年水中運動は水の性質(浮力,抵抗,水圧など)によって持久性や筋力の向上を促すことができることから,中高年者をはじめ各世代で健康増進の手段として注目されている。水中運動は,水の性質により吸気時には抵抗が加わり吸気筋力を増強させる有効な手段となる可能性が考えられるが,呼吸筋に対する影響についての報告はほとんどない。そこで,今回水位(腋窩レベル・臍レベル)の違いが吸気筋に与える影響について検討したので報告する。
【方法】
対象は,喫煙歴がなく呼吸・循環器疾患のない健常成人男性8名(年齢24.2±4.1歳,身長169.6±4.6cm,体重64.1±6.3Kg)とした。水槽はHOKKODENKI水中トレッドミルKRT-2500Pを使用し,水位は臍レベル・腋窩レベルの2条件に設定した。また水温は32±1℃とした。測定項目として吸気筋力(最大吸気圧;maximum inspiratory pressure;以下PImax)をチェスト社製スパイロメーターHI-801にて,下記プロトコールに従って測定した。尚,PImaxは各2回測定し最大値を採用した。
プロトコール:両水位条件ともに,まず被験者は臍レベルの水位で安静椅座位10分後にPImaxを測定し,これを負荷前値とした。次に,各水位レベル(臍・腋窩)で安静椅座位5分後に負荷前値の30%負荷に設定した吸気負荷装置(Threshold IMT)を使用し,吸気負荷呼吸を1分間15回の頻度でメトロノームに合わせ15分間実施した。そして負荷呼吸終了直後のPImaxを両水位条件ともに臍レベルの水位にて計測した。尚,両水位条件は少なくても3日以上間隔をあけて実施した。
統計学的処理:各水位条件における負荷前値および負荷呼吸終了直後のPImax,両水位条件間におけるPImax変化率を対応のあるt検定にて比較した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は大学倫理委員会の承認を得て実施した。尚,被験者には本研究の目的や方法,リスク等を口頭および書面にて十分に説明し,承諾を得た。
【結果】
PImaxは,負荷前値と比べて負荷呼吸後は両水位条件とも有意に低下(p<0.05)を示した。またPImax低下率は,臍レベル水位の方が腋窩レベルより有意に大きかった(臍レベル;4.1±3.3%,腋窩レベル;7.2±2.6%,p<0.05)。
【考察】
一般的に,水中では水深が増すことによって静水圧により胸郭が圧迫・圧縮され肺容量が減少するとされている。今回の結果よりPImaxは腋窩レベル水位の方が臍レベルと比べて有意に低下を示したことから,水圧の影響により圧迫された胸郭を広げるためには,吸気時にさらに筋力が必要となり,呼吸を繰り返すことで吸気筋により疲労を生じさせていると考えられた。これらのことから,横隔膜レベルより上位の水位における水中運動は吸気筋負荷を与え,吸気筋力を増強させる有効的な手段となり得ると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
水中における運動効果についての報告は多数認められているが,呼吸機能の中でも呼吸筋力に対する影響を調べたものは少ない。健康増進において中高齢者の水中運動がよく実施されているが,今回の研究から水中運動は吸気筋にも負荷を与えることが確認され,吸気筋力トレーニングの一手段となる可能性が示唆された。