[0538] 肩関節外転困難者に対する側方リーチテストの応用
キーワード:側方リーチテスト, 動的バランス, 肩関節外転困難者
【はじめに,目的】
動的バランスの評価の際の指標として多く用いられているFunctional Reach Test(FRT)は,必ずしも歩行能力や転倒予測の指標としては相関しておらず,むしろ側方へのリーチ距離が転倒予測やADL能力に関連しているとの報告がある。一般に高齢者や片麻痺などの障害者の転倒リスクとして側方や後方への転倒が危惧されることからも,側方リーチテスト(以下LRT)が動的バランスの評価としては有効であることが示唆される。しかし,LRTは測定時に肩関節を外転90°位にて行うため,片麻痺などの障害を有する症例の評価には不向きな部分がある。そこで今回,肩関節外転困難な症例を想定し,肩峰を測定指標としたLRTについて検討した。
【方法】
今回,健常な男子学生15名(年齢21.3±1.6歳,身長171.5±5.5cm)を対象とした。計測肢位は,対象者の足幅を肩幅(両肩峰間距離)にした立位とし,側方への最大リーチ距離を計測した。リーチ距離の測定指標は,通常のLRT同様に肩関節90°外転位にて実施した指尖(以下,指尖リーチ),上肢下垂位での肩峰(以下,肩峰リーチ)として,それぞれの指標の最大到達距離を計測した。測定には,三次元動作解析装置(ローカス3D MS-2000アニマ社)を使用し,2回動作練習を行ったあとに,3回の測定を実施,最大値を採用した。さらに,フォースプレート(MG-100アニマ社)にてリーチ動作中の側方への足圧中心移動距離(以下COP移動距離)を測定した。統計解析として肩峰と指尖でのリーチ距離とCOP移動距離との関連についてPearson相関係数を用いて検討した。全ての統計解析には改変Rコマンダーを用いて行い,本研究の統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究に先立ち,被検者には研究内容を説明し,その主旨の理解と同意を得られた上で実施した。また,愛知医療学院短期大学倫理委員会の承認を得て実施された。
【結果】
肩峰リーチ距離は右側19.2±2.7cm,左側16.9±1.9cm,指尖リーチ距離は右側20.3±3.3cm,左側19.7±1.9cmであった。肩峰COP移動距離は右側16.2±1.5cm,左側15.7±2.1cm,指尖COP移動距離は右側15.6±1.9cm,左側15.7±1.8cmという結果であった。肩峰リーチと指尖リーチのリーチ距離の相関では右側r=0.70,左側r=0.60であり左右とも相関がみられた。また,COP移動距離の結果においても右側r=0.52,左側r=0.78と左右のCOP移動距離ともに相関がみられた。また,リーチ距離,COP移動距離ともに左右差はみられなかった。
【考察】
今回の結果では,肩峰と指尖でのリーチ距離,COP移動距離との間に高い相関を得ることができた。また,Brauerは,側方リーチ距離は左右対称性を示すと報告しているが,肩峰を計測指標とした場合にも左右対称性が担保された結果であった。すなわち,LRTを実施するにあたり,その計測指標として指尖のかわりに,肩峰を計測指標にして,その最大到達距離から側方リーチの評価をすることができることが示唆された。このことは,例えば,片麻痺患者に対してLRTを実施する際に麻痺側のリーチ距離を肩峰のリーチ距離から推定することが可能であり,麻痺側方向への動的バランスを評価することができることを示唆している。今後の課題として,実際の片麻痺症例などの肩関節外転困難な症例に対して,この測定方法を実施し,障害の程度と側方リーチ距離の関係を,指尖,肩峰それぞれの計測指標を用いて検証し,より臨床的な有用性について明らかにしていく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
臨床においての様々な検査測定手技は,何らかの障害を想定して実施されなければならない。本研究は,動的バランスや転倒予測としての評価手段の一つとして有用とされているLRTを,上肢機能が障害されている場合を想定して実施する方法を検討し,その可能性を明らかにした。これにより,臨床において上肢障害を有する症例に対しての立位の動的バランスの評価や,転倒予測の一手段として応用できると考えられる。
動的バランスの評価の際の指標として多く用いられているFunctional Reach Test(FRT)は,必ずしも歩行能力や転倒予測の指標としては相関しておらず,むしろ側方へのリーチ距離が転倒予測やADL能力に関連しているとの報告がある。一般に高齢者や片麻痺などの障害者の転倒リスクとして側方や後方への転倒が危惧されることからも,側方リーチテスト(以下LRT)が動的バランスの評価としては有効であることが示唆される。しかし,LRTは測定時に肩関節を外転90°位にて行うため,片麻痺などの障害を有する症例の評価には不向きな部分がある。そこで今回,肩関節外転困難な症例を想定し,肩峰を測定指標としたLRTについて検討した。
【方法】
今回,健常な男子学生15名(年齢21.3±1.6歳,身長171.5±5.5cm)を対象とした。計測肢位は,対象者の足幅を肩幅(両肩峰間距離)にした立位とし,側方への最大リーチ距離を計測した。リーチ距離の測定指標は,通常のLRT同様に肩関節90°外転位にて実施した指尖(以下,指尖リーチ),上肢下垂位での肩峰(以下,肩峰リーチ)として,それぞれの指標の最大到達距離を計測した。測定には,三次元動作解析装置(ローカス3D MS-2000アニマ社)を使用し,2回動作練習を行ったあとに,3回の測定を実施,最大値を採用した。さらに,フォースプレート(MG-100アニマ社)にてリーチ動作中の側方への足圧中心移動距離(以下COP移動距離)を測定した。統計解析として肩峰と指尖でのリーチ距離とCOP移動距離との関連についてPearson相関係数を用いて検討した。全ての統計解析には改変Rコマンダーを用いて行い,本研究の統計学的有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究に先立ち,被検者には研究内容を説明し,その主旨の理解と同意を得られた上で実施した。また,愛知医療学院短期大学倫理委員会の承認を得て実施された。
【結果】
肩峰リーチ距離は右側19.2±2.7cm,左側16.9±1.9cm,指尖リーチ距離は右側20.3±3.3cm,左側19.7±1.9cmであった。肩峰COP移動距離は右側16.2±1.5cm,左側15.7±2.1cm,指尖COP移動距離は右側15.6±1.9cm,左側15.7±1.8cmという結果であった。肩峰リーチと指尖リーチのリーチ距離の相関では右側r=0.70,左側r=0.60であり左右とも相関がみられた。また,COP移動距離の結果においても右側r=0.52,左側r=0.78と左右のCOP移動距離ともに相関がみられた。また,リーチ距離,COP移動距離ともに左右差はみられなかった。
【考察】
今回の結果では,肩峰と指尖でのリーチ距離,COP移動距離との間に高い相関を得ることができた。また,Brauerは,側方リーチ距離は左右対称性を示すと報告しているが,肩峰を計測指標とした場合にも左右対称性が担保された結果であった。すなわち,LRTを実施するにあたり,その計測指標として指尖のかわりに,肩峰を計測指標にして,その最大到達距離から側方リーチの評価をすることができることが示唆された。このことは,例えば,片麻痺患者に対してLRTを実施する際に麻痺側のリーチ距離を肩峰のリーチ距離から推定することが可能であり,麻痺側方向への動的バランスを評価することができることを示唆している。今後の課題として,実際の片麻痺症例などの肩関節外転困難な症例に対して,この測定方法を実施し,障害の程度と側方リーチ距離の関係を,指尖,肩峰それぞれの計測指標を用いて検証し,より臨床的な有用性について明らかにしていく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
臨床においての様々な検査測定手技は,何らかの障害を想定して実施されなければならない。本研究は,動的バランスや転倒予測としての評価手段の一つとして有用とされているLRTを,上肢機能が障害されている場合を想定して実施する方法を検討し,その可能性を明らかにした。これにより,臨床において上肢障害を有する症例に対しての立位の動的バランスの評価や,転倒予測の一手段として応用できると考えられる。