第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

健康増進・予防12

2014年5月30日(金) 16:15 〜 17:05 ポスター会場 (生活環境支援)

座長:澤田小夜子(新潟労災病院)

生活環境支援 ポスター

[0543] 地域高齢者の尿失禁に関する認知状況と特徴

松谷綾子1, 安村明子2, 青田絵里1, 山田実3 (1.甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法学科, 2.神戸総合医療専門学校, 3.京都大学大学院医学系研究科人間健康科学系専攻)

キーワード:尿失禁, メンズヘルス, ウィメンズヘルス

【はじめに,目的】尿失禁は,尿意切迫感が主体の切迫性尿失禁と,膀胱支持組織の脆弱化などが主体の腹圧性尿失禁など原因別に分類される。また,尿道の長さ等の構造や妊娠出産時に骨盤底に負担がかかるという性差から,女性の尿失禁が問題とされやすい。しかしながら,前立腺肥大症を原因とする切迫性尿失禁は男性に多く生じることから,男女ともに対応する必要があると考えられる。尿失禁等の排尿トラブルは,周囲に相談することが少ないため早期治療の機会を逃しやすいと考えられる。そこで,本研究では地域高齢者の尿失禁に関する認知状況調査し,その結果から早期治療につなげるための方策を検討した。
【方法】対象は,A町における体力測定会に参加した65歳以上の男女174名(男性:82名,女性:92名)とした。調査は2012年11月10日~11日に実施した。調査内容は,尿失禁に関する情報の入手状況,尿失禁治療の認知状況,治療の実施経験とした。さらに,尿失禁の保有状況にInternational Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form日本語版(以下,ICIQ-SF),尿失禁が生活に与える影響にはIncontinence Impact Questionnaire Short Form日本語版(以下,IIQ-7)を用いた。得られた結果は性別ごとに分析した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,甲南女子大学研究倫理委員会にて承認を受け実施した。対象者には書面および口頭にて説明し,同意を得られた上で調査を行った。
【結果】対象者の平均年齢は男性73.9±4.6歳,女性73.5±4.2歳であった。体格は男女それぞれ身長162.5±5.7cm,149.7±4.8cm,体重61.5±9.3kg,51.3±6.8kg,BMI23.3±3.1,22.9±2.8であった。尿失禁に関する情報を聞いたことがある人は男性では全体の58.5%,女性では78.3%であり,情報の入手元は男女ともにマスコミ,尿失禁経験者の友人の順で多かった。尿失禁の治療法を聞いたことがある人は男性では全体の25.6%,女性では58.7%であった。治療内容の上位2項目は,男性では処方薬,市販薬,女性では骨盤底筋体操,処方薬であった。治療の実施経験のある人は,男性では全体の12.2%,女性40.2%であった。実施経験は男性では処方薬,骨盤底筋体操,女性では骨盤底筋体操,処方薬の順に多かった。尿失禁を有する人は,男性が全体の13.4%,女性は38.0%であった。尿失禁を呈する場面は,男性ではトイレに行く前,次いで理由不明であった。女性では咳・くしゃみ時,運動時の順で多かった。尿失禁を有する人において影響のある活動は,男性では緊張やうつ状態などの心理面や家事動作が多く,女性では身体的レクリエーション,家事動作,社会活動が多くなった。
【考察】結果より地域高齢者は男女ともにマスコミから尿失禁に関する情報を得ていることが分かった。マスコミによる情報提供は,入手する人が受け身となることから周囲に相談することの少ない排尿トラブルを持つ人への情報提供には有用であると考えられる。また,尿失禁を経験した友人から情報を得ていることから,身近な経験者からの話を聞く機会を設けることは,受け入れやすく尿失禁を自分自身の健康問題として自覚する方策であると考えられる。知っている尿失禁の治療法は,男性では薬物治療,女性では骨盤底筋体操が多く性差が見られた。これは,男性では前立腺肥大症等による切迫性尿失禁,女性では骨盤底筋の弱化による腹圧性尿失禁が多いといった性別での特徴を反映していると考えられる。実施経験のある治療法は,男女ともに骨盤底筋体操が最も多かったことから,骨盤底筋体操は高齢者においても試みやすい治療法であることが示唆された。また,実際に尿失禁を自覚している人は,女性のみではなく男性にも存在することが明らかとなった。症状を呈する場面は男女で異なることから,性別に応じた尿失禁へのアプローチを用意することが必要であると考えられる。その一方で,男女共通して制限された活動は家事動作であったことから,性別に関わらず日常生活活動の維持に対するアプローチが必要であると考えられる。尿失禁と活動制限との関連は明らかにされておらず,今後尿失禁を有することによる身体運動能力への影響を明らかにすることが必要であると考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の結果は,尿失禁に対して早期にかつ症状に合わせた情報提供や指導に寄与し,尿失禁による生活活動制限を予防し,健康な排尿機能の維持に寄与すると考えられる。