第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 生活環境支援理学療法 ポスター

健康増進・予防12

Fri. May 30, 2014 4:15 PM - 5:05 PM ポスター会場 (生活環境支援)

座長:澤田小夜子(新潟労災病院)

生活環境支援 ポスター

[0544] 骨盤底筋トレーニングにおける腹筋および骨盤底筋の選択的収縮の重要性

青田絵里1, 松谷綾子1, 西上智彦1, 辻下守弘1, 服部耕治1, 木村俊夫2 (1.甲南女子大学看護リハビリテーション学部理学療法学科, 2.市立芦屋病院産婦人科)

Keywords:ウィメンズヘルス, 骨盤底筋, バイオフィードバック

【目的】近年,尿失禁や便失禁症状に対する骨盤底筋トレーニングが症状の改善に効果的であることが知られるようになり注目を集めている。骨盤底筋はその解剖学的位置から収縮を目視出来ないという特徴があり,収縮のフィードバックが得られにくいことから腹筋群などの代償性収縮を伴いやすい。代償性収縮を防ぐための方法として,筋電図バイオフィードバック療法(以下,BF療法)があるが,本邦における実践報告は未だ少ないのが現状である。今回,骨盤底機能障害の症状を呈する2症例に対し,BF療法を用いて骨盤底筋トレーニングをおこなった。その結果,腹筋収縮と分離させた骨盤底筋の選択的収縮が症状の改善に有効であったので報告する。
【介入】骨盤底筋と腹筋を選択的に収縮させることを第一目的として,筋電図バイオフィードバック機器(Myotrac3:Thought Technology社製)を用いトレーニングを行った。評価指標として骨盤底筋の最大収縮,10秒および20秒間の持続収縮を測定し,同時に腹筋筋電位も測定した。電極位置は,骨盤底筋はプローブ型電極を膣内に挿入し,腹筋は内外腹斜筋重層部とした。頻度は2週間に1回とし,併行して毎日の自宅トレーニングの指導もおこなった。
【説明と同意】本研究は甲南女子大学倫理委員会において承認を得た上で,対象者に研究について口頭および書面にて説明を実施し,同意を得て実施した。
【結果】症例A:膀胱瘤により骨盤内臓器脱術を受けた70歳女性。術後,下垂症状は改善したが,運動時にガス程度の便失禁を1日4~5回以上みとめ,約3.5ヵ月後よりBF療法を開始した。開始時の筋電図所見は,骨盤底筋の活動電位がとくに持続収縮時に低く,収縮を持続させることが困難で代償的に腹筋の活動電位が上昇する傾向がみられた。骨盤底筋および腹筋の活動電位は,骨盤底筋13.8μV,5.8μV(最大収縮時,持続収縮時),腹筋11.3μV(持続収縮時)であった。16セッション終了後,骨盤底筋および腹筋の活動電位は,骨盤底筋14.7μV,6.8μV(最大収縮時,持続収縮時),腹筋4.1μV(持続収縮時)となり,14セッション以降,完全に失禁症状が解消した。
症例B:膀胱瘤および子宮脱により骨盤内臓器脱術を受けた66歳女性。術後,下垂症状は改善したが,1日数回の軽度の腹圧性尿失禁をみとめ,約3ヵ月後よりBF療法を開始した。開始時の筋電図所見は,骨盤底筋は最大収縮時に約20μVの強い筋収縮が可能であったが,単独での選択的収縮が困難であり,骨盤底筋の収縮と同時に腹筋の高い活動電位が観察された。また,腹筋は安静時にも高い筋活動量を示していた。骨盤底筋および腹筋の活動電位は,骨盤底筋18.9μV,10.5μV(最大収縮時,持続収縮時),腹筋13.2μV,25.6μV(安静時,持続収縮時)であった。8セッション終了後,失禁症状が1日0~1回に減少,1日10回以上であった排尿回数も7~8回程度に減少した。骨盤底筋および腹筋の活動電位は,骨盤底筋22.3μV,17.3μV(最大収縮時,持続収縮時),腹筋3.8μV,5.4μV(安静時,持続収縮時)となった。
【考察】症例Aは骨盤底筋の活動電位が低い症例で,最終評価においてもその値に大きな変化は見られなかったが,代償的な腹筋活動の減少に伴って症状の改善が得られた。一方,症例Bでは骨盤底筋の活動電位自体は高く維持されていたが,同時に腹筋が収縮し尿失禁症状を呈していた。さらに,症例Bは安静時にも腹筋が高い活動電位を示したが,安静時および骨盤底筋収縮時における腹筋の筋活動を抑えることが可能となり,症状が改善されつつある。
このことから,BF療法を用いた骨盤底筋トレーニングにおいて,骨盤底筋単独の筋収縮力増大ではなく,腹筋と分離した骨盤底筋の選択的収縮の習得が骨盤底機能障害の症状改善に有効であることを確認した。また,BF療法により両筋の収縮の様子を同時にフィードバックできたことも選択的収縮の習得に有効であったと考えられた。
【理学療法研究としての意義】本研究の結果から,尿失禁などの骨盤底機能障害の治療には,骨盤底筋体操などのパンフレットを配布するのみではなく,理学療法士の積極的な関わりのもと,その収縮様式の確認が重要であることが示唆された。