[0546] 上肢前方挙上角度に関係する胸椎の動きについて
キーワード:上肢前方挙上, 胸椎, 体幹
【はじめに,目的】
肩関節は胸郭上を浮遊する関節のため,その土台となる体幹の機能の影響を受けやすい。我々は先行研究において,上肢前方挙上時における体幹の動きは屈曲伸展運動のみならず,空間上における前後方向の動きが伴うこと,その動きが上肢挙上動作に影響を及ぼすことを報告した。先行研究では,坐位での上半身質量中心点が位置するとされている第9胸椎(Th9)高位での動きを検討してきたが,その他の部位でも上肢挙上動作に影響を及ぼす動きが生じている可能性がある。本研究では第1胸椎(Th1),第12胸椎(Th12)高位での動きを指標に加え,空間上での胸椎の動きが上肢前方挙上角度に及ぼす影響を検討することを目的とした。また,胸椎を3部位に分け,その角度変化と空間上での胸椎の動きとの関係について検討した。
【方法】
対象は健常成人14名(男性11名,女性3名,年齢:28.8±5.5歳)とした。測定肢位は自然坐位(坐位),坐位での両上肢最大前方挙上位(挙上位)の2肢位とした。被験者に自動で測定肢位を保持させ,スパイナルマウス(インデックス社製)を用いて第7頚椎から第3仙椎までの棘突起上をなぞり,胸椎彎曲角度{Th1と第2胸椎(Th2)間の角度から,第11胸椎(Th11)とTh12間の角度までの合計}を計測した。挙上位ではゴニオメータを用いて右上肢前方挙上角度(上腕骨と垂線とのなす角度)を計測した。計測した数値を基に,上位胸椎角度{Th1とTh2間の角度から,第4胸椎と第5胸椎(Th5)間の角度までの合計},中位胸椎角度(Th5と第6胸椎間の角度から,第8胸椎とTh9間の角度までの合計),下位胸椎角度(Th9と第10胸椎間の角度から,Th11とTh12間の角度の合計)を算出した。スパイナルマウスより出力された画像をパーソナルコンピュータに取り込み,画像解析ソフトScion imageを用いてTh1,Th9,Th12のx座標を計測した。x座標は後に実寸値(単位:cm)に換算した。得られたデータについて,挙上位での値から坐位での値を減じて変化量を算出し,胸椎の角度変化と空間上での移動量を求めた。数値が小さい程,胸椎角度は伸展が大きくなることを示し,x座標は前方への動きが大きくなることを示した。変化量について,上肢前方挙上角度とTh1,Th9,Th12のx座標,およびTh1,Th9,Th12のx座標と上位・中位・下位胸椎角度のPearsonの相関係数を算出し,各々の関係について検討した。なお,統計にはJSTATを用い,危険率5%未満を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には事前に本研究の趣旨と内容,得られたデータは研究の目的以外に使用しないこと,プライバシーの保護には十分留意することを説明し,同意を得た。
【結果】
Th9x座標と上肢前方挙上角度の間に有意な比較的強い相関(r=-0.69,p<0.01)がみられ,Th9の前方への動きが大きくなるほど上肢前方挙上角度が大きくなった。また,中位胸椎角度とTh9x座標との間に有意な比較的強い相関(r=0.54,p<0.05)がみられ,中位胸椎の伸展が大きくなるほどTh9の前方への動きが大きくなった。上肢前方挙上角度とTh1x座標(r=-0.41)およびTh12x座標(r=-0.17)との間に有意な相関はみられなかった。
【考察】
Th9x座標と上肢前方挙上角度の間に有意な相関がみられ,Th9の前方への動きが大きくなるほど上肢前方挙上角度が増大することが示唆された。これにより,Th9の前方への動きの増大が上肢前方挙上角度の増大に関与する可能性が考えられる。また,中位胸椎角度とTh9x座標との間に有意な相関がみられ,Th9の前方への動きの増大には中位胸椎の伸展の増大が関与する可能性が考えられる。Th1およびTh12のx座標と上肢前方挙上角度との間に有意な相関はみられず,Th1およびTh12の空間上での動きと上肢前方挙上角度との関係は被験者により様々であり,Th1およびTh12の前方への動きが大きくても上肢前方挙上角度が小さくなる被験者,前方への動きが小さくても上肢前方挙上角度が大きくなる被験者など,一定の関連性がないことが考えられる。本研究の結果,Th9x座標のみに上肢前方挙上角度との間で有意な相関がみられたことから,上肢前方挙上の際には特にTh9の前方への動きが必要であることが考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
上肢前方挙上角度には特にTh9高位での動きが関係し,Th9高位での動きには中位胸椎の動きが関係することが示された。これらの動きが上肢前方挙上に対する評価,治療を行う際の着眼点になり得ることが示された。
肩関節は胸郭上を浮遊する関節のため,その土台となる体幹の機能の影響を受けやすい。我々は先行研究において,上肢前方挙上時における体幹の動きは屈曲伸展運動のみならず,空間上における前後方向の動きが伴うこと,その動きが上肢挙上動作に影響を及ぼすことを報告した。先行研究では,坐位での上半身質量中心点が位置するとされている第9胸椎(Th9)高位での動きを検討してきたが,その他の部位でも上肢挙上動作に影響を及ぼす動きが生じている可能性がある。本研究では第1胸椎(Th1),第12胸椎(Th12)高位での動きを指標に加え,空間上での胸椎の動きが上肢前方挙上角度に及ぼす影響を検討することを目的とした。また,胸椎を3部位に分け,その角度変化と空間上での胸椎の動きとの関係について検討した。
【方法】
対象は健常成人14名(男性11名,女性3名,年齢:28.8±5.5歳)とした。測定肢位は自然坐位(坐位),坐位での両上肢最大前方挙上位(挙上位)の2肢位とした。被験者に自動で測定肢位を保持させ,スパイナルマウス(インデックス社製)を用いて第7頚椎から第3仙椎までの棘突起上をなぞり,胸椎彎曲角度{Th1と第2胸椎(Th2)間の角度から,第11胸椎(Th11)とTh12間の角度までの合計}を計測した。挙上位ではゴニオメータを用いて右上肢前方挙上角度(上腕骨と垂線とのなす角度)を計測した。計測した数値を基に,上位胸椎角度{Th1とTh2間の角度から,第4胸椎と第5胸椎(Th5)間の角度までの合計},中位胸椎角度(Th5と第6胸椎間の角度から,第8胸椎とTh9間の角度までの合計),下位胸椎角度(Th9と第10胸椎間の角度から,Th11とTh12間の角度の合計)を算出した。スパイナルマウスより出力された画像をパーソナルコンピュータに取り込み,画像解析ソフトScion imageを用いてTh1,Th9,Th12のx座標を計測した。x座標は後に実寸値(単位:cm)に換算した。得られたデータについて,挙上位での値から坐位での値を減じて変化量を算出し,胸椎の角度変化と空間上での移動量を求めた。数値が小さい程,胸椎角度は伸展が大きくなることを示し,x座標は前方への動きが大きくなることを示した。変化量について,上肢前方挙上角度とTh1,Th9,Th12のx座標,およびTh1,Th9,Th12のx座標と上位・中位・下位胸椎角度のPearsonの相関係数を算出し,各々の関係について検討した。なお,統計にはJSTATを用い,危険率5%未満を有意とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には事前に本研究の趣旨と内容,得られたデータは研究の目的以外に使用しないこと,プライバシーの保護には十分留意することを説明し,同意を得た。
【結果】
Th9x座標と上肢前方挙上角度の間に有意な比較的強い相関(r=-0.69,p<0.01)がみられ,Th9の前方への動きが大きくなるほど上肢前方挙上角度が大きくなった。また,中位胸椎角度とTh9x座標との間に有意な比較的強い相関(r=0.54,p<0.05)がみられ,中位胸椎の伸展が大きくなるほどTh9の前方への動きが大きくなった。上肢前方挙上角度とTh1x座標(r=-0.41)およびTh12x座標(r=-0.17)との間に有意な相関はみられなかった。
【考察】
Th9x座標と上肢前方挙上角度の間に有意な相関がみられ,Th9の前方への動きが大きくなるほど上肢前方挙上角度が増大することが示唆された。これにより,Th9の前方への動きの増大が上肢前方挙上角度の増大に関与する可能性が考えられる。また,中位胸椎角度とTh9x座標との間に有意な相関がみられ,Th9の前方への動きの増大には中位胸椎の伸展の増大が関与する可能性が考えられる。Th1およびTh12のx座標と上肢前方挙上角度との間に有意な相関はみられず,Th1およびTh12の空間上での動きと上肢前方挙上角度との関係は被験者により様々であり,Th1およびTh12の前方への動きが大きくても上肢前方挙上角度が小さくなる被験者,前方への動きが小さくても上肢前方挙上角度が大きくなる被験者など,一定の関連性がないことが考えられる。本研究の結果,Th9x座標のみに上肢前方挙上角度との間で有意な相関がみられたことから,上肢前方挙上の際には特にTh9の前方への動きが必要であることが考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
上肢前方挙上角度には特にTh9高位での動きが関係し,Th9高位での動きには中位胸椎の動きが関係することが示された。これらの動きが上肢前方挙上に対する評価,治療を行う際の着眼点になり得ることが示された。