[0551] 腰椎椎間板ヘルニア術前患者の不安と抑うつ因子の推定
Keywords:不安と抑うつ, 腰椎椎間板ヘルニア, MicroEndoscopic Discectomy
【はじめに,目的】当院では腰椎椎間板ヘルニア(以下LDH)に対して,MicroEndoscopic Discectomy(以下MED)を施行している。MED術後において,原因部位の処置は適切に行われているにも関わらず疼痛が残存し慢性疼痛へ移行する症例が存在する。様々な疾患の術後においても,慢性疼痛の発生と術前の不安や抑うつが関係しているとされる報告が散見される。今後,術前での患者教育を行うことで,不安や抑うつが軽減し,術後の慢性疼痛への移行を予防できないかと考えた。しかし,不安や抑うつは生活障害と関連している報告されているが,どのような日常生活動作が不安や抑うつに関与しているかは明らかでない。不安や抑うつと特定の生活障害の関係が明らかになれば,術前においてアプローチする問題が明確になる。そこで,本研究の目的は,LDH術前患者においてどの生活障害が不安や抑うつと関連があるか検討することである。
【方法】対象はLDHによりMED施行予定の患者54名(男性42名 女性12名 平均年齢46.4±18.6歳)であった。なお重篤な合併症,同部位の再発や他部位で腰椎の手術歴のある症例は除外した。また,全症例手術前日に調査を実施し,全症例翌日に手術を施行されている。調査項目は,術前の安静時,運動時の疼痛の強さをNumeric Rating Scale(以下安静時-NRS,運動時-NRS),不安と抑うつをHospital Anxiety and Depression scale(以下HADS),腰痛における生活障害をOswestry disability index(以下ODI)で評価した。安静時-NRS,運動時-NRS,ODIの総合スコアとHADSの関連性をスピアマンの相関係数で検討した。その後,ODIの各項目(疼痛の強さ,性生活を抜いた8項目)を用いて主成分分析を行った。なおスピアマンの相関係数については危険率5%未満とした。主成分分析は累積寄与率が70%を超えるまでの成分,また固有値1以上のものを抽出した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究の目的等に関しては,当院倫理委員会の承認を得た。その後,対象者に研究目的・方法,個人情報の保護,調査結果による加療への不利益がないことを十分に説明し,同意を得て実施した。
【結果】安静時-NRS,運動時-NRSとHADSとの優位な相関はなかった。ODIとHADSとは優位な正の相関(r=0.43)が認められた。主成分分析において,第1主成分は寄与率67.4%,第2主成分は寄与率9.1%であった。第1主成分はODIの総得点に対する影響度である。第2主成分から,主成分負荷量の高いものとして,睡眠(0.58),座ること(-0.38),乗り物での移動(-0.33)であった。
【考察】先行文献においても,痛みの強さと不安と抑うつの関連性は低いと指摘されており,本研究でも同様の結果であった。一方,ODIで示される生活障害と不安と抑うつに関連性があることが示された。主成分分析の結果,LDH術前患者は,睡眠に障害が強いパターンと,座位姿勢に障害が強いパターンに分類された。つまり,LDH術前においては生活障害の中でも特に睡眠困難,座位姿勢保持困難の2つが,不安と抑うつとの関連性が高いことが示唆された。座位姿勢保持については,LDH患者にとっては椎間板内圧上昇に伴い,髄核の後方突出による下肢痛増強姿勢であることは一般的である。睡眠に関しては,抑うつ状態から起こる睡眠障害の可能性がある一方,臥位姿勢や寝返り動作によって下肢痛が増強することが,睡眠困難を引き起こす要因となることが予測される。患者は,上記2動作が術前で困難であること,更には術後に疼痛なく行うことができるのかということに不安を抱いていると考えられる。今回の研究結果よりLDH術前では,上記2つの日常生活動作に対して術前,術後の患者教育を実施することで,不安や抑うつを軽減できる可能性があると考える。
【理学療法研究としての意義】LDH術前患者の不安と抑うつには,座位姿勢保持と睡眠の障害が関連していることが示唆された点。
【方法】対象はLDHによりMED施行予定の患者54名(男性42名 女性12名 平均年齢46.4±18.6歳)であった。なお重篤な合併症,同部位の再発や他部位で腰椎の手術歴のある症例は除外した。また,全症例手術前日に調査を実施し,全症例翌日に手術を施行されている。調査項目は,術前の安静時,運動時の疼痛の強さをNumeric Rating Scale(以下安静時-NRS,運動時-NRS),不安と抑うつをHospital Anxiety and Depression scale(以下HADS),腰痛における生活障害をOswestry disability index(以下ODI)で評価した。安静時-NRS,運動時-NRS,ODIの総合スコアとHADSの関連性をスピアマンの相関係数で検討した。その後,ODIの各項目(疼痛の強さ,性生活を抜いた8項目)を用いて主成分分析を行った。なおスピアマンの相関係数については危険率5%未満とした。主成分分析は累積寄与率が70%を超えるまでの成分,また固有値1以上のものを抽出した。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究の目的等に関しては,当院倫理委員会の承認を得た。その後,対象者に研究目的・方法,個人情報の保護,調査結果による加療への不利益がないことを十分に説明し,同意を得て実施した。
【結果】安静時-NRS,運動時-NRSとHADSとの優位な相関はなかった。ODIとHADSとは優位な正の相関(r=0.43)が認められた。主成分分析において,第1主成分は寄与率67.4%,第2主成分は寄与率9.1%であった。第1主成分はODIの総得点に対する影響度である。第2主成分から,主成分負荷量の高いものとして,睡眠(0.58),座ること(-0.38),乗り物での移動(-0.33)であった。
【考察】先行文献においても,痛みの強さと不安と抑うつの関連性は低いと指摘されており,本研究でも同様の結果であった。一方,ODIで示される生活障害と不安と抑うつに関連性があることが示された。主成分分析の結果,LDH術前患者は,睡眠に障害が強いパターンと,座位姿勢に障害が強いパターンに分類された。つまり,LDH術前においては生活障害の中でも特に睡眠困難,座位姿勢保持困難の2つが,不安と抑うつとの関連性が高いことが示唆された。座位姿勢保持については,LDH患者にとっては椎間板内圧上昇に伴い,髄核の後方突出による下肢痛増強姿勢であることは一般的である。睡眠に関しては,抑うつ状態から起こる睡眠障害の可能性がある一方,臥位姿勢や寝返り動作によって下肢痛が増強することが,睡眠困難を引き起こす要因となることが予測される。患者は,上記2動作が術前で困難であること,更には術後に疼痛なく行うことができるのかということに不安を抱いていると考えられる。今回の研究結果よりLDH術前では,上記2つの日常生活動作に対して術前,術後の患者教育を実施することで,不安や抑うつを軽減できる可能性があると考える。
【理学療法研究としての意義】LDH術前患者の不安と抑うつには,座位姿勢保持と睡眠の障害が関連していることが示唆された点。