第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節12

Fri. May 30, 2014 4:15 PM - 5:05 PM ポスター会場 (運動器)

座長:山元貴功(宮崎県立延岡病院リハビリテーション科)

運動器 ポスター

[0553] 大腿骨近位部骨折における術前情報から歩行能力に影響を与える因子

久場美鈴1, 諸見里恵一2, 下里綱1, 新里光1 (1.大浜第一病院, 2.沖縄リハビリテーション福祉学院)

Keywords:大腿骨近位部骨折, 併存疾患, 血液データ

【目的】
大腿骨近位部骨折に対する理学療法の実践において,全身状態の管理は重要であり,血液データは全身状態を把握するうえでの指標となる。血液データは栄養状態の指標となり栄養状態が不良な場合,歩行能力に影響を及ぼす報告も散見されている。本研究の目的は,大腿骨近位部骨折術後の歩行能力低下は術前情報から予測可能であるか否かについて,併存疾患などを含む術前情報と術前血液データに着目し,退院時の歩行能力低下に与える因子について検討することである。
【方法】
2009年4月から2012年3月に大腿骨近位部骨折に対し手術を施行された103名(女性78例,男性25例),在宅生活中に受傷し,受傷前に室内・外歩行自立していた症例を対象とした。退院時に受傷前歩行を維持した群(以下,維持群:61例,在院日数43±15日)と歩行が低下した群(以下,低下群:42例,在院日数54±20日)に分け比較検討した。維持群と低下群の分類方法は,退院時に室内・外歩行自立していた群を維持群とし,退院時に室内歩行介助を要した群や車椅子移動となった群を低下群とした。診療記録から術前情報として年齢,併存疾患の数(糖尿病,高血圧,脳血管疾患,骨関節疾患,心疾患,呼吸器疾患,腎疾患,肝疾患),Body Mass Index(以下,BMI),術前血液データ(Hb,Alb,CRP,eGFR),認知症の有無を調査した。統計学的処理には二群間(維持群/低下群)の比較でstudent-t検定を行い,歩行能力項目(維持群/低下群)を従属変数として,2群間で統計的な有意差を認めた年齢,認知症,併存疾患,Hb,eGFR,BMI,CRPを独立変数としたロジスティック回帰分析を実施,年齢,併存疾患とeGFRの関係についてSpearmanの順位相関係数の検定を実施し,有意水準を5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究を行うにあたり,個人情報の取り扱いは当院の規定に従った。
【結果】
2群間の比較では(維持群vs低下群),年齢(維持群78±7歳vs低下群87±7歳 P<0.01),併存疾患(維持群1±1vs低下群3±1P<0.01),BMI(維持群23±5kg/m2vs低下群21±4 kg/m2 P<0.05),Hb(維持群男性13±1g/dl・女性12±1g/dlvs低下群男性11±2 g/dl・女性11±2g/dl P<0.05),CRP(維持群1±2mg/dlvs低下群3±3 mg/dl P<0.05),eGFR(維持群64±17mL/分/1.73m2vs低下群55±20 mL/分/1.73m2 P<0.05),認知症(有/無)は(維持群13/48人vs低下群29/13人 P<0.01)と有意差を認めた。Alb(維持群4±0.3g/dlvs低下群4±0.3g/dl P=0.064)は有意差を認めなかった。ロジステック回帰分析の結果,併存疾患(OR=2.041 P<0.01),年齢(OR=1.144 P<0.01),認知症(OR=0.277 P<0.05)が歩行維持に有意な因子として検出された。半別的中率は79%であった。Spearmanの順位相関係数の結果,年齢とeGFR(相関係数-0.26 P<0.01),併存疾患とeGFR(相関係数-0.33 P<0.01)では有意に負の相関関係を認めた。
【考察】
術前の情報収集において併存疾患数増加,高年齢,認知症有無,BMI低値,Hb低値,eGFR低値,CRP上昇が存在すれば歩行能力低下する可能性が高いということが示唆された。BMI・Hb・eGFR低下は受傷前より食生活の歪みや運動習慣がなかった可能性があることから,歩行獲得に影響を及ぼしたと考えられる。腎機能は加齢に伴い低下し貧血などの合併によって酸素運搬能力の低下に加え,運動耐容能低下,骨格筋変性,身体不活動に起因する筋力低下などに影響があることが報告されている。今回の調査からロジスティック回帰分析で有意な関連を認めた年齢,併存疾患はeGFRと有意な単相関を示しており,併存疾患,年齢,eGFRの関連因子は歩行の予後予測ができることが示唆された。歩行低下した群に対して運動の効果を効率良いものとするためには,他職種との連携による栄養状態の管理,身体活動量の維持・向上を図り,廃用を予防していく必要があると考える。今後の展望として理学療法士として予防医療に目をむけ,疾病を予防していく活動を行っていく必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
大腿骨近位部骨折術後において,歩行低下した群では併存疾患,年齢,認知症が関係しており,さらに,BMI,Hb,eGFR低下,CRP上昇が関与していることが示唆された。術後のリハビリテーションを進めていく中で,併存疾患,年齢,認知症の情報や血液データが予後予測の1つの指標となり得ることが考えられる。効果的な理学療法を実践していく上では,医師や看護師,管理栄養士と連携し術後の血液データの経過を追いながら,栄養状態の評価,介入などの取り組みが必要であると考える。大腿骨近位部骨折における歩行予後の検討は理学療法を進めていくうえで意義深いものと考える。