第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節12

2014年5月30日(金) 16:15 〜 17:05 ポスター会場 (運動器)

座長:山元貴功(宮崎県立延岡病院リハビリテーション科)

運動器 ポスター

[0555] 大腿骨頸部骨折地域連携パス導入前後3年間の転帰・在院日数・Functional Independence Measureの比較

深谷大輔 (総合守谷第一病院)

キーワード:大腿骨頸部骨折, 地域連携, クリニカルパス

【はじめに】当院は急性期病院であり,2011年度より大腿骨頸部骨折地域連携パス(以下パス)を導入し現在まで運用しているが,パス導入が及ぼす影響については明確ではない。そこで,パス導入前の1年間と導入後の2年間を比較し,パス導入による転帰・在院日数・Functional Independence Measure(以下FIM)の変化を検討した。
【方法】対象は大腿骨頸部骨折にて当院に入院した患者で,2010年度38名(男性11名,女性27名),2011年度43名(同10名,33名),2012年度56名(同14名,42名)である。転帰,年齢,在院日数,退院時FIM,退院時FIMからリハビリテーション(以下リハ)開始時FIMを減じリハ実施期間で除した値(以下FIM改善効率)を各年度間で比較した。次に,転帰別に年齢,在院日数,退院時FIM,FIM改善効率を各年度間で比較した。転帰の比較にはχ2独立性の検定を,それ以外の比較にはSheffe法を用いた。統計ソフトはStatcelを使用し,有意水準を5%とした。
【倫理的配慮】本研究はヘルシンキ宣言に従い,データは匿名化しプライバシーの保護に留意した。
【結果】各項目について2010年度/2011年度/2012年度の順に示す。転帰は自宅退院13/12/19人,回復期病院への転院16/21/19人,療養型病院へ転院および施設入所8/6/16人,死亡退院1/4/2人であり,年度間で有意差は認められなかった。年齢は79.9±11.0/78.9±13.0/82.5±9.6歳,在院日数は31.3±11.8/40.7±31.0/37.8±15.2日,退院時FIMは83.1±29.9/75.1±31.7/70.0±32.8点,FIM改善効率は0.8±0.8/0.6±0.9/0.6±0.6点/日であり,いずれも年度間で有意差は認められなかった。次に転帰別での比較である。自宅退院では,年齢は74.1±13.2/69.9±14.8/78.4±11.0歳,在院日数は28.4±14.1/30.3±15.8/34.8±13.5日,退院時FIMは92.4±33.9/106.6±14.6/96.6±26.3点,FIM改善効率は1.5±1.4/1.5±0.8/1.2±0.9点/日であり,いずれも年度間で有意差は認められなかった。回復期病院への転院では,年齢は80.7±5.4/81.8±11.0/82.8±7.8歳,在院日数は37.1±8.1/39.4±11.1/45.6±10.1日であり,いずれも年度間で有意差は認められなかった。退院時FIMは94.9±11.7/77.8±16.9/70.4±22.4点であり,2010年度と2011年度(p=0.021)および2010年度と2012年度(p<0.001)の間でいずれも後者が有意に低下していた。FIM改善効率は0.9±0.4/0.7±0.4/0.5±0.3点/日であり,2010年度と2012年度の間で後者が有意に低下していた(p=0.023)。療養型病院への転院および施設入所では,年齢は88.6±8.7/83.0±12.2/87.1±8.0歳,在院日数は25.6±10.3/29.3±8.3/27.7±10.1日,退院時FIMは53.4±20.4/52.0±33.7/44.3±23.4点,FIM改善効率は0.3±0.3/0.4±0.5/0.5±0.8点/日であり,いずれも年度間で有意差は認められなかった。
【考察】在院日数は全体および転帰別でも長期化の傾向にあり,パス導入によって診療の効率化が図られているとは言い難いことが明らかとなった。退院時FIMをみると年度を追うごとに低下の傾向にあり,転帰においても療養型病院へ転院および施設入所の患者数が増加していることから患者の重度化が推測され,これが在院日数の長期化の一因になっていると考える。また,パス導入前の2010年度では,自宅退院患者よりも回復期病院へ転院となった患者の退院時FIMが高得点であるという逆転現象が生じていたが,パス導入後には見られなくなった。特に回復期病院へ転院となった患者では,パス導入前と比較しパス導入後の退院時FIMおよびFIM改善効率が統計学的にも有意に低下しているとともに,自宅退院患者においてはパス導入前と比較しパス導入後の退院時FIMが向上している傾向にあることから,パス導入によって日常生活活動レベルに応じた患者の転帰の選別が適切に行われるようになったことが示唆された。しかし転帰の選別は経験的に行われているのが実状であり,急性期を担う当院としては,可及的早期に転帰を予測する手法を確立することが急務であるとともに,院内の診療体制・目標設定を明確にし,後方病院・施設との連携をより密にすることで,在院日数の短縮やそれぞれの病院・施設機能に特化した地域診療体制とパスの運用を確立していく必要性があると考える。
【理学療法学研究としての意義】パス運用の現状を把握し,より有効なパスの運用や多施設間の円滑な連携,転帰の予測などを今後考慮していく際の一資料となりうる点で,本研究は意義があると考える。