第49回日本理学療法学術大会

講演情報

発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節12

2014年5月30日(金) 16:15 〜 17:05 ポスター会場 (運動器)

座長:山元貴功(宮崎県立延岡病院リハビリテーション科)

運動器 ポスター

[0557] 転倒による大腿骨近位部骨折受傷患者の転帰要因について

嶋村剛史, 今村健二 (社会保険大牟田天領病院)

キーワード:大腿骨近位部骨折, 転倒, 日常生活指導

【はじめに,目的】
近年では長期療養型病院への入院の主因は転倒であり,高齢者が社会復帰できない一つの要因と考えられている。当院回復期病棟においても全体の約28%が転倒起因による受傷入院であり,運動器疾患の約7割を占めており,その中でも大腿骨近位部骨折が約64%を占めている。そこで今回,転倒により大腿骨近位部骨折を受傷した患者の転帰に関連する因子を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は2010年4月から2013年3月の36カ月間に当院入院し,回復期病棟に転棟されリハビリテーション(以下リハビリとする)を受けた受傷機転が転倒の大腿骨近位部骨折受傷患者86名(内訳は大腿骨頚部骨折32名,大腿骨転子部骨折32名,大腿骨頚基部骨折1名)を対象とした。適格基準として全対象者は入院前の状態として居宅で自立歩行可能であったこと,重篤な合併症がないこととした。
内容はカルテより後方視的調査を実施,86名を自宅退院群65名,転院もしくは施設入所群(以下転院群とする)21名の2群に分類し,年齢(82.0±9.6歳:86,3±7.9歳),在院日数,入院前Functional Independence Measure(以下FIMとする),リハビリ開始時FIM,退院時FIM,FIM改善度(退院時FIM-リハビリ開始時FIM),一日あたりのFIM改善度(FIM改善度÷在院日数),家族との同居の有無,退院時における歩行自立の有無,退院時における排泄動作の自立の有無について比較した。自宅復帰の要因を抽出するため,転帰(自宅退院または転院)を従属変数,その他全ての変数を独立変数として,多重ロジスティック回帰分析(総当たり法)を適用した。AIC(赤池情報量規準)によるモデル選択結果で得られた項目に対して,cutoff,特異度,感度など統計指標を求めた。統計学的解析はR2.8.1を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究の項目は通常診療で必要な情報であり,観察研究ゆえに実験的介入はないが,ヘルシンキ宣言に基づいて調査を行った。
【結果】
自宅復帰の可否に影響する項目は,退院時FIM,退院時における歩行自立の有無,同居の有無,入院前FIM,退院時における排泄動作の自立の有無であった。cutoff,特異度,感度,の値は順に退院時FIM88,76.2%,92.3%,退院時における歩行自立の有無1.0,85.7%,81.5%,同居の有無1.0,52.4%,73.8%,入院前FIM117,61.9%,72.3%,退院時における排泄動作の自立の有無1,81%,87.7%であった。これらのロジスティック回帰式の誤判別率は0.093で,誤判別された患者8名についてみてみると,自宅退院可能と判別されて転院の方が5名,転院と判別されて自宅退院された方が3名であった。
【考察】
今回,86名の転倒により大腿骨近位部骨折受傷患者の転帰を追跡した。もともと居宅で自立生活を送っていた方が,転倒することで24.4%が自宅退院できない状況であった。転院となった患者は大腿骨頚部骨折患者15名(人工骨頭置換術12名,骨接合術2名,保存1名),大腿骨転子部骨折患者6名(骨接合4名,保存2名)であった。大腿骨頚部骨折を転倒受傷した患者の転院は約32%(15/47),大腿骨転子部骨折を転倒受傷した患者の転院は16%(6/38)であった。その中でも大腿骨頚部骨折に対して人工骨頭置換術を施行された患者は40%(12/30)自宅退院できない状況であった。
自宅退院可能と判別されて転院と誤判別された5名のうち1名は歩行,排泄自立していたが,独居で本人の希望を兼ねて転院となっていた。他の内3名は同居者がいたが社会的理由で転院となっていた。転院と判別されて自宅退院と誤判別された3名のうち,2名はADL能力低く,介助を要するが家族の支援にて自宅退院されていた。もう1名はFIM等cutoffラインで同居人無しであったが,自宅復帰への意欲が高く,退院前訪問指導後住宅改修等行い自宅退院されていた。同居の有無は大きな影響を与える項目として特定されたが,日常生活指導を含めた居住環境の整備など外的因子を強化することで,自立歩行に向けての運動機能向上など内的因子の改善が転帰に対してさらに大きな影響を与えるのではないかと考える。加えて,早期から予測を立て,本人,家族への指導を行うことで介護保険等を利用しての生活を提案でき,自宅復帰を促せるのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
様々な因子を考慮した理学療法の展開を進めると同時に,今後も引き続き調査が必要であると考える。加えて,高齢者が転倒受傷することで,住み慣れた自宅へ復帰できない可能性がある現状を直視し,高齢者の転倒・骨折予防に取り組むことが理学療法士の課題であると考える。その現状を患者,家族,スタッフに提示できる意味でこういった手続きが必要であり,介護保険申請,退院前訪問指導等にもつなげていきたい。