第49回日本理学療法学術大会

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脳損傷理学療法11

2014年5月30日(金) 16:15 〜 17:05 ポスター会場 (神経)

座長:松葉好子(横浜市立脳血管医療センターリハビリテーション部)

神経 ポスター

[0562] 脳梗塞患者の離床期の症状増悪例の特徴

寺尾詩子1, 眞木二葉2, 伊佐早健司2, 山徳雅人2, 鶴岡淳2, 長谷川泰弘2, 笠原酉介3, 小野順也3, 八木麻衣子4 (1.聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーション部, 2.聖マリアンナ医科大学病院神経内科, 3.聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院リハビリテーション部, 4.聖マリアンナ医科大学東横病院リハビリテーション室)

キーワード:脳梗塞, 離床, 症状増悪

【はじめに,目的】
当院では,臥床期間の短縮を目的に急性期脳梗塞患者の離床プロトコールを利用してきた。プロトコールの内容は,症状増悪のリスクを想定し,ラクナ梗塞例は離床が早いコース,主幹動脈の高度狭窄例は遅いコース,その他は普通コースの3つのコースを設定し,ギャッチアップや車いすでの座位負荷試験を段階的に行うものである。プロトコールの利用を開始して5年が経過し,当初の目標通り増悪例を増やすことなく臥床期間は短縮し,多職種で離床方法や状況を共有できる利点があった。しかし,座位負荷試験で血圧基準をクリアーし,安静度を拡大した後に症状増悪をきたした症例もあり,プロトコールの妥当性を検証してきた。本研究では,現離床プロトコール下に経験された離床期の症状増悪例の特徴を明らかにして離床方法との関連を考察した。
【方法】
2012年10月から2013年10月まで脳卒中リハチームで担当した急性期脳梗塞患者173例のうち,離床期(入院から1週間以内)に症状が増悪,変動した患者を抽出し,病型,病巣,入院から症状増悪までの日数,増悪・変動の期間,座位負荷試験の実施状況をカルテより後方視的に調査した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院生命倫理委員会の承認(2157号)を得て実施した。
【結果】
該当症例は173例中19例(11%)に見られ,年齢は56~90歳(平均74.2歳),男女比11:8であった。病型はアテローム血栓性脳梗塞(以後,ATBI)10例,Branch Atheromatous Disease(以下,BAD)5例,心原性脳塞栓症(以後,心原性)4例であった。責任血管は内頚動脈の狭窄・閉塞3例,中大脳動脈の狭窄・閉塞8例,椎骨・脳底動脈の狭窄2例,主幹動脈の明らかな狭窄・閉塞なし6例であった。病巣は中大脳動脈領域13例(穿通枝領域6例,皮質枝+穿通枝領域4例,分水嶺領域3例),橋5例,小脳半球1例であった。また,主幹動脈の高度狭窄や閉塞を認める症例においても広範囲脳梗塞の症例はなく,散在性の小梗塞あるいは,穿通枝領域の梗塞であった。12例で症状の増悪に伴い病巣の拡大が確認されていた。入院時National Institute of Health Stroke Scale(以下,NIHSS)スコアは平均4.7点で5点以内の軽症例が16例を占め,1~13点(平均5.4点)の増悪を認めた。入院後の症状の増悪日は入院1日目が2例,2日目が15例,3日目が2例,4日目が1例で2日目が最も多く,最終増悪日は入院2日目が3例,3日目が5例,4日目が3例,5日目が3例,6日目が2例,7日以上が4例で最長は13日目であった。増悪日の安静度設定はギャッチアップ不可2例,30度まで許可4例,60度まで許可3例,車椅子まで許可9例,歩行許可2例であった。座位負荷試験にて安静度拡大後の増悪例は7例,座位負荷試験で症状増悪し臥位にて症状の改善を認めた症例は1例であった。
【考察】
従来から言われているように,症状増悪で離床に難渋するのは,ATBIやBADの症例が多い結果となった。また,心原性の4例中3例は中大脳動脈領域の起始部(M1あるいはM2)の閉塞を認めるものの梗塞巣は穿通枝領域に留まり,症状が軽症あるいは改善傾向にあった症例である。これらの症例は座位負荷試験の結果に関わらず,また安静度の状況に関わらず増悪を示しており,座位負荷試験中の症状の変化や血圧変動をもとにした離床基準の再考が必要と考えられた。特に,症状が軽度であっても,主幹動脈の狭窄,閉塞を示す症例や,狭窄・閉塞血管がなくても病巣が橋傍正中動脈領域やレンズ核線条体動脈領域にある脳梗塞患者では,増悪の可能性があるハイリスク症例とする必要があると考えられた。増悪をきたす時期は入院後2日目に最も多く,離床の時期を考慮する材料の一つとして,今後病型,病態を含めて検討していく必要がある。一方,内頚動脈高度狭窄の増悪,進行が,座位負荷試験で確認し得た症例もあり,座位負荷試験の有用性が期待できる症例と考えられた。内頚動脈高度狭窄例による座位負荷時の症状増悪はこれまでにも経験しており,血管病変や病巣によるリスクについて更に症例を集積し,急性期のより安全かつ有効な離床方法を模索していく必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
急性期脳梗塞患者に対する理学療法のリスク管理に役立つ。