第49回日本理学療法学術大会

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脳損傷理学療法12

2014年5月30日(金) 16:15 〜 17:05 ポスター会場 (神経)

座長:長野毅(柳川リハビリテーション学院理学療法学科)

神経 ポスター

[0563] 回復期リハビリテーション病棟における脳卒中患者の歩行獲得と栄養状態の関連について

辰巳祐理1, 武原格2, 平野正仁1, 増田司1, 溝口あゆ実1, 廣澤全紀1, 小山麻希1, 米本祐樹1, 大場秀樹3, 清野佳代子3, 村井希3, 松尾温子3, 菊池望3, 山崎穣3, 平井佑希3 (1.東京都リハビリテーション病院理学療法科, 2.東京都リハビリテーション病院リハビリテーション科, 3.東京都リハビリテーション病院作業療法科)

キーワード:脳卒中, 歩行獲得, 栄養状態

【はじめに】
近年,リハビリテーション(以下リハ)と栄養状態との関連性が指摘されている。特に脳卒中低栄養患者は退院時の日常生活の自立度が低く,転帰に関しても血清アルブミン(Alb)が低いほど自宅退院よりも介護施設への入所割合が高くなると報告されている。また,低栄養はサルコペニアを助長する因子であり,サルコぺニアは歩行能力に関与すると言われている。そのため,脳卒中患者の歩行獲得には栄養状態が影響すると思われる。しかし,歩行獲得に関連する因子として,運動麻痺,バランス能力,高次脳機能障害,認知機能などが影響するとの報告はあるが,栄養状態との関連についての報告は少ない。そこで今回は,当院回復期リハ病棟における脳卒中患者の歩行獲得と栄養状態の関連について調査したので報告する。
【方法】
対象は,2012年5月1日から2013年9月17日に当院回復期リハ病棟に入院した脳卒中患者52名とした。このうち,退院時のFIM歩行項目で5点(見守り)以上を獲得群,4点(軽介助)以下を非獲得群とした。測定は,栄養指標であるAlb,CRP,BMI,筋肉量とし,筋肉量は二重エネルギーX線吸収法(DXA)にて四肢筋量を計測後骨格筋指数(SMI)を算出し,これらを入院時および退院時に実施した。調査項目は,①両群間の栄養状態の比較(入院時・退院時),②各群における栄養状態の改善の有無,と設定し,獲得群と非獲得群における栄養状態の特長について調査した。統計学的分析は,①の両群間の比較では,年齢・Alb・BMI・SMIは2標本t検定,CRPはMann-WhitneyのU検定を行い,②の栄養状態の改善の有無では,年齢・Alb・BMI・SMIは対応のあるt検定,CRPはWilcoxsonの符号付き順位検定を行い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮】
本研究は,当院倫理委員会の承認の下,患者に対し書面と口頭による説明を行い,同意を得た上で実施した。
【結果】
対象は,状態悪化による転院などでデータが欠損した12名を除く40名,獲得群23名(男性15名・女性8名),非獲得群17名(男性12名,女性5名)であった。診断名は獲得群(脳梗塞15名,脳出血5名,くも膜下出血3名),非獲得群(脳梗塞9名,脳出血6名,くも膜下出血2名),麻痺側は獲得群(右11名,左11名,両側1名),非獲得群(右5名,左9名,両側3名)であった。運動麻痺は退院時の下肢がBrunnstorom Recovery Stageにて,獲得群(III2名,IV3名,V10名,VI9名),非獲得群(III6名,IV3名,V4名,VI4名)であった。平均年齢は,獲得群65.4±12.4歳,非獲得群72.0±8.4歳と有意差はみられなかった。①両群間の比較では,入院時Alb(獲得群4.1±0.6mg/dl,非獲得群3.6±0.5mg/dl),CRP(獲得群0.58±1.21mg/dl,非獲得群0.79±1.12mg/dl),BMI(獲得群22.3±4.4,非獲得群19.8±3.7),SMI(獲得群6.38±1.33kg/m2,非獲得群5.40±0.75kg/m2)であり,Alb,SMIで非獲得群が有意に低かった。退院時はAlb(獲得群4.1±0.4mg/dl,非獲得群3.8±0.5mg/dl),CRP(獲得群0.27±0.39mg/dl,非獲得群0.15±0.28mg/dl),BMI(獲得群22.9±4.4,非獲得群20.5±2.7),SMI(獲得群6.61±1.38kg/m2,非獲得群5.80±0.62kg/m2)であり,SMIで非獲得群が有意に低かった。②栄養状態の改善の有無では,獲得群はSMI,非獲得群はAlb,CRP,SMIに退院時有意な改善がみられた。
【考察】
非獲得群は獲得群と比較し,入院時Albと入退院時SMIが有意に低かった。Albの低下は栄養状態だけでなく,肝疾患・腎疾患,炎症といった代謝状態の影響も受ける。しかし,今回CRPは有意差がみられなかったことから,入院時非獲得群のAlbの低下は悪液質を除いた低栄養の影響が大きいことが予測される。SMIは年齢,Alb,BMIと関連があると言われている。今回,年齢やBMIにおいて有意差はみられなかったためSMIの低下はAlbの低下が影響していると思われる。また,非獲得群は退院時Alb,SMIに改善がみられ,栄養状態の改善および筋肉量の増加がみられた。しかし,SMIについて筋肉量の増加は獲得群と同程度であったが,筋肉量は有意に少なかった。つまり,歩行獲得のためには更なる筋肉量の増加が必要であり,そのためにはAlbを含めた栄養状態に考慮することが重要であると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
今回の研究から回復期脳卒中患者において,歩行獲得と栄養状態には関連があると考える。理学療法効果を高めるために,栄養状態を考慮しながら理学療法を行うことが重要である。