第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脳損傷理学療法12

Fri. May 30, 2014 4:15 PM - 5:05 PM ポスター会場 (神経)

座長:長野毅(柳川リハビリテーション学院理学療法学科)

神経 ポスター

[0564] 回復期における脳血管障害患者の歩行速度には麻痺側の股関節外転筋力・下肢荷重率が影響する

河田英登1, 長縄幸平1, 平林孝啓1, 白上昇1, 長谷川大祐2, 内山靖3 (1.医療法人愛生会愛生会上飯田リハビリテーション病院リハビリテーション科, 2.社会福祉法人聖霊会聖霊病院リハビリテーション科, 3.名古屋大学大学院医学系研究科)

Keywords:脳血管障害, 麻痺側の股外転筋力, 麻痺側の荷重率

【はじめに,目的】
脳血管障害(以下,CVD)患者における歩行能力はADL自立に大きな影響を与える。現在までに歩行能力は,麻痺の重症度だけでなく,BohannonによるCVD患者の歩行能力と麻痺側と非麻痺側下肢筋力の関連についての報告や,菅原らによる歩行能力と麻痺側荷重率(以下,WBR)についての報告がある。また体幹機能が歩行能力に影響していることも示されている。しかし,これらの項目を一括して歩行能力に影響しているかを相互に検討した報告はみられない。そこで,本研究ではCVD患者を対象とし,麻痺側および非麻痺側下肢筋力,麻痺側WBR,体幹機能と歩行能力との関連について明らかにすることを目的とする。
【方法】
対象は2012年12月から2013年10月の間に当院に入院したCVD患者54名(男性36名,女性18名,年齢67.3±12.2歳,BRSVI:31名,V:15名,IV:2名,III:6名)であった。除外基準は,Functional Independence Measureの歩行点数が4点未満の者,くも膜下出血,頭部外傷患者,入院期間中に再発や新たな疾患を発症した者,指示理解が困難な者,著しい整形外科疾患や内部疾患により検査が困難な者,安静度に制限がある者,本研究に同意が得られなかった者とした。
調査項目は,退院時の10mの歩行速度,麻痺側および非麻痺側の股関節外転筋力(以下,股外転筋力)・膝関節伸展筋力(以下,膝伸展筋力),麻痺側WBR,体幹機能とした。股外転筋力は,加藤・山崎らの方法を参考にベッド上背臥位で股関節内外転中間位での等尺性筋力を測定し,膝伸展筋力は柏・山崎らの方法を参考に椅子座位下腿下垂位での等尺性筋力を固定用ベルト使用にて測定して,いずれも体重(kg)で除した値(kgf/kg)を算出した。WBRの測定は,山崎らの方法を参考に2台の体重計を使用して立位にて測定し,最大荷重量を体重(kg)で除した値(%)を用いた。体幹機能は,Trunk Impairment Scale(以下,TIS)を使用した。歩行速度は定常状態の10m最適歩行速度を算出した。
解析は,Spearman順位相関係数を用いて歩行速度と各調査項目との相関係数を求めた。さらに,歩行速度を説明変数とし,各調査項目を独立変数としてステップワイズ法による重回帰分析を行った。統計学的有意水準は5%とし,データは平均値と標準偏差で示した。
【倫理的配慮,説明と同意】
所属施設の倫理委員会の承認を得て実施した。すべての対象者に文書と口頭にて十分な説明をし,文書による同意を得た。
【結果】
退院時において従属変数である歩行速度は50.3±20.2(m/min),各独立変数の麻痺側股外転筋力0.23±0.10(kgf/kg),非麻痺側股外転筋力0.27±0.09(kgf/kg),麻痺側膝伸展筋力0.32±0.15(kgf/kg),非麻痺側膝伸展筋力0.44±0.16(kgf/kg),麻痺側WBR 76.9±16.8(%),TIS 16.4±4.4(点)であった。歩行速度との相関は,麻痺側股外転筋力(r=0.665),非麻痺側股外転筋力(r=0.382),麻痺側膝伸展筋力(r=0.619),麻痺側WBR(r=0.552),TIS(r=0.609)との正の有意な相関がみられた。他方,非麻痺側膝伸展筋力との相関(r=0.126)はみられなかった。重回帰分析の結果,第1要因として麻痺側股外転筋力(β=0.476),第2要因として麻痺側WBR(β=0.357)が採択された。歩行速度の予測式は-5.022+0.984×麻痺側股外転筋力(kgf/kg)+0.428×麻痺側WBR(%)であり,自由度調整済み決定係数は0.494であった。
【考察】
歩行速度と麻痺側下肢筋力,麻痺側WBR,TISについては先行研究と同様に有意な相関が認められた。歩行速度に影響する因子として,麻痺側股外転筋力と麻痺側WBRが採択されたことから,歩行速度には体幹機能や非麻痺側筋力よりも麻痺側下肢機能が影響している可能性が示唆された。Bohannonの研究では,最適歩行速度と麻痺側股外転筋力を含む下肢筋力とはr=0.73-0.83,非麻痺側においてはr=0.34-0.57の相関と報告されており,麻痺側下肢筋力の重要性がうかがわれる。本研究から,とくに股外転筋力が選択された要因としては,一般的に歩行立脚中期の筋活動には股外転筋の関与が知られており,最適歩行速度においては前後方向の推進力そのものよりも側方安定性の制御に必要な股外転筋力が歩行速度に貢献している可能性が推察される。
【理学療法学研究としての意義】
歩行速度に影響する因子として体幹機能や非麻痺側下肢筋力に加えて,麻痺側筋力にも注目した理学療法を展開していく必要が示唆された。