第49回日本理学療法学術大会

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身体運動学

2014年5月30日(金) 17:10 〜 18:55 第3会場 (3F 301)

座長:市橋則明(京都大学大学院医学研究科人間健康科学系専攻), 藤澤宏幸(東北文化学園大学医療福祉学部)

基礎 セレクション

[0570] 会陰下垂と姿勢の関係

槌野正裕1, 荒川広宣1, 小林道弘1, 中田晃盛2, 西尾幸博2, 中村寧3, 辻順行3, 山田一隆3, 高野正博3 (1.大腸肛門病センター高野病院リハビリテーション科, 2.大腸肛門病センター高野病院放射線科, 3.大腸肛門病センター高野病院外科)

キーワード:骨盤底筋群, 姿勢, 高齢者

【背景】
当院は大腸肛門病の専門病院で,排便障害を主訴とする症例が多く来院する。一方,近年の高齢社会では直腸脱患者が増加している。諸家によると,直腸脱は6対1で女性に多く,男性は年齢による差はないが,女性の多くが高齢者であるとされ,当院でも高齢女性の直腸脱患者が増加している。また,直腸脱患者は排便障害の症状を持つものが多く,半数が排便困難に対する強い怒責の習慣をもち,15%は下痢であるとの報告がある。直腸脱では,このために活動範囲が制限されて生活の質(QOL)が低下する。活動範囲が制限されることで,ますます運動機能が低下するという悪循環に陥ってしまい,理学療法士の関与が必要であると考える。また,高齢直腸脱患者は,変形性脊椎症や圧迫骨折により脊椎のアライメントが崩壊し,腰椎の生理的前彎は消失し,骨盤は後傾している。第48回の当大会で姿勢の違いによる肛門内圧の検討を行い,骨盤が後傾した姿勢では前傾した姿勢よりも肛門内圧が低下することを報告した。そこで,今回は排便造影検査(Defecography)で会陰部の下垂について,姿勢の違いによる影響を前向きに検討したので報告する。
【対象と方法】
2013年4月から6月にDefecographyを施行した症例で,rest,squeezeを前屈座位と直立座位で撮影し,恥骨下端と尾骨先端を結ぶ恥骨尾骨線(PC-line)からの垂線で肛門縁までの距離Perineal Descent(PD),肛門管長軸と直腸長軸とのなす角Anorectal Angle(ARA)の計測が可能であった44例の中から,女性30例(平均年齢69.8±8.2歳)を対象として,姿勢の違いによるPDとARAの変化についてpaired-Tで比較検討した。なお,計測は電子ファイル上で経験のある放射線技師が行い,その結果のみを研究担当者が分析した。
【説明と同意】
臨床研究計画書を作成し,当院倫理委員会の許可を得て研究を行った。
【結果】
前屈座位と直立姿座位でPDは,restが6.8±16.3と29.0±17.5,squeezeで23.0±14.8と19.1±16.0であり,共に前屈座位で有意(p<0.01)にPDは増大した。また,ARAはrestで117.7±19.6と109.9±25.3,squeezeで104.8±22.4と97.6±25.7であり,PDと同じく前屈座位で有意(p<0.01)に鈍化していた。そこで,restとsqueezeにおける姿勢の違いによる差を検討したところ,PDがrestで7.8±6.8,squeezeで3.9±7.4と,restがsqueezeに対して有意(p<0.01)に下垂していたが,ARAはrestで7.7±12.8,squeezeで7.2±8.8と差を認めなかった。さらに,同姿勢におけるrestとsqueezeの差を検討したところ,PDは前屈で13.8±7.2,直立で9.9±5.8となり有意(p<0.01)に前屈座位で下垂していたが,ARAは前屈で12.9±8.4,直立では12.3±7.9と差を認めなかった。
【考察】今回,姿勢の違いによるrestとsqueezeの会陰部への影響を比較検討した。PDとARAは共に前屈座位で会陰部は下垂し,角度は鈍角となっていた。また,姿勢の違いによるPDはrestの方がsqueezeよりも下垂していたが,ARAでは差を認めなかった。更にrestでの姿勢の違いによる差とsqueezeでの差も同様にPDはrestで有意に下垂していたが,ARAでは差を認めなかった。これらの結果から,会陰部の下垂には骨盤底筋群の筋緊張が関与していることが考えられ,直立した骨盤前傾位よりも前屈した骨盤後傾位でより弛緩していることが示唆された。
変形性関節疾患の高齢者では,骨盤が後傾していることが多く,今回の結果から骨盤底筋群の緊張が低下し易いことが考えられる。骨盤底筋群の役割の一つに骨盤内臓器の保持があげられるが,安静時で下垂の程度が大きくなっていることから,骨盤が後傾している姿勢では,荷重負荷が骨盤底に常時加わっていることが考えられる。その機能が低下することで,直腸脱などの骨盤内の臓器脱などを引き起こすことが考えられる。
【理学療法学研究としての意義】理学療法士として,直腸脱など骨盤内臓器脱の症例に対しては,広い視点で全身の姿勢評価を行い,適切なアプローチを行うことで,症状の再発予防だけではなくQOLを高め,運動機能の低下を予防できると考えられる。