[0580] 不動化が関節構成体の強度と伸張性におよぼす影響
Keywords:関節構成体, 拘縮, 強度
【はじめに,目的】
関節の不動化により拘縮は発生し,関節包をはじめとした関節構成体に起因した制限は不動期間の長期化に伴い顕著になるとされ,理学療法の対象となることも少なくない。不動により関節包はコラーゲン線維の増生と密性化,老化架橋の増加が引き起こされることが報告されている。しかし,これらの組織学的な変化が,強度や伸張性といった機能にどのような影響をおよぼしているのかは,十分に検討されているとは言い難い。そこで本研究では実験動物による拘縮モデルを用いて,関節構成体の強度および伸張性がどのように変化するのか明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象として9週齢のWistar系雄ラット13匹を用いた。無作為に通常飼育のみを行う対照群(n=4)と実験群(n=9)にわけ,実験群は右後肢を股関節最大伸展,膝関節最大屈曲,足関節最大底屈位でギプス固定を行った。さらに両群ともに飼育期間を2週間とする群(2WC群:n=2,4肢と2WE群:n=5,5肢)と4週間とする群(4WC群:n=2,4肢と4WE群:n=4,4肢)に振り分けた。各群とも飼育期間終了後,腹腔麻酔下で膝関節可動域を測定したのち,安楽死させ,股関節離断により下肢を採取した。それらを慎重に皮膚と膝関節にまたがる筋をすべて除去し,脛骨近位部の矢状面中央付近に垂直にキルシュナー鋼線を挿入した。大腿骨を測定台の上に固定し,膝関節90°屈曲位となるよう位置させ,脛骨近部腹側面に,アタッチメントをとりつけた変位変換器(DTH-A-5,共和電業)を設置した。その上で,挿入した鋼線にデジタルpush-pullゲージ(WPARX-10,シロ産業)を用いてゆっくりと関節面を離解する方向に牽引負荷を加えた。牽引は関節構成体が破断されるまで実施した。両測定機器のモニターをデジタルビデオカメラで撮影し,牽引力と変位距離を記録した。
関節可動域は伸展制限角度として示し,2WE群と4WE群の比較にはt検定を用いた。破断時の強度および変位距離の比較には2元配置分散分析を用い,有意水準は全て0.05とした。なお,統計処理にはR2.8.1を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は動物実験規定に準拠し,同大学が定める倫理委員会の承認のもとに飼育・実験を行った。
【結果】
膝関節伸展制限可動域は2WE群で17.3±4.7°,4WE群で47.4±5.4°であり,4WE群で伸展制限は顕著であった。破断時の強度はそれぞれ2WC群40.0±6.21N,2WE群27.9±3.84N,4WC群68.8±11.83N,4WE群41.3±5.44Nとなり,関節不動化の有無と飼育期間の違いのそれぞれで有意差を認め,交互作用も有意であった。一方,変位距離はそれぞれの条件間で有意差を認めなかった。
【考察】
関節不動化により関節構成体の強度は低下した。靭帯の強度を計測した報告(Wooら;1987)においても関節不動化により強度が低下するとされており,類似した結果が得られた。これはこれまでに報告されている組織学的な変化が同様に生じ,それが機能的側面に影響を与えたことを示したものと考えられた。不動期間での比較においては,期間の長い方でより強い強度を示したが,これは本研究で用いた9週齢ラットの膝関節が成熟していなかった事(萩原ら;2010)が原因と考えられた。本研究では3つの計測機器を同期させて実施出来ておらず,精度に課題を残している。今後測定方法を見直し,改めて不動期間と機能の関係を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
関節拘縮による筋・関節の変化を形態学的・生化学的に検証した報告に比べ,機能的な側面から検討した報告は少ない。中でも特定の靭帯や関節包の一部を対象とせず,関節構成体の複合体として検証した報告は見当たらない。我々理学療法士が長期間不動化に晒された関節に治療を行う際,経験的に力加減を配慮しているが,本研究はその根拠を限定的ではあるが示すものであり,重要な意義があると考える。
関節の不動化により拘縮は発生し,関節包をはじめとした関節構成体に起因した制限は不動期間の長期化に伴い顕著になるとされ,理学療法の対象となることも少なくない。不動により関節包はコラーゲン線維の増生と密性化,老化架橋の増加が引き起こされることが報告されている。しかし,これらの組織学的な変化が,強度や伸張性といった機能にどのような影響をおよぼしているのかは,十分に検討されているとは言い難い。そこで本研究では実験動物による拘縮モデルを用いて,関節構成体の強度および伸張性がどのように変化するのか明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象として9週齢のWistar系雄ラット13匹を用いた。無作為に通常飼育のみを行う対照群(n=4)と実験群(n=9)にわけ,実験群は右後肢を股関節最大伸展,膝関節最大屈曲,足関節最大底屈位でギプス固定を行った。さらに両群ともに飼育期間を2週間とする群(2WC群:n=2,4肢と2WE群:n=5,5肢)と4週間とする群(4WC群:n=2,4肢と4WE群:n=4,4肢)に振り分けた。各群とも飼育期間終了後,腹腔麻酔下で膝関節可動域を測定したのち,安楽死させ,股関節離断により下肢を採取した。それらを慎重に皮膚と膝関節にまたがる筋をすべて除去し,脛骨近位部の矢状面中央付近に垂直にキルシュナー鋼線を挿入した。大腿骨を測定台の上に固定し,膝関節90°屈曲位となるよう位置させ,脛骨近部腹側面に,アタッチメントをとりつけた変位変換器(DTH-A-5,共和電業)を設置した。その上で,挿入した鋼線にデジタルpush-pullゲージ(WPARX-10,シロ産業)を用いてゆっくりと関節面を離解する方向に牽引負荷を加えた。牽引は関節構成体が破断されるまで実施した。両測定機器のモニターをデジタルビデオカメラで撮影し,牽引力と変位距離を記録した。
関節可動域は伸展制限角度として示し,2WE群と4WE群の比較にはt検定を用いた。破断時の強度および変位距離の比較には2元配置分散分析を用い,有意水準は全て0.05とした。なお,統計処理にはR2.8.1を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は動物実験規定に準拠し,同大学が定める倫理委員会の承認のもとに飼育・実験を行った。
【結果】
膝関節伸展制限可動域は2WE群で17.3±4.7°,4WE群で47.4±5.4°であり,4WE群で伸展制限は顕著であった。破断時の強度はそれぞれ2WC群40.0±6.21N,2WE群27.9±3.84N,4WC群68.8±11.83N,4WE群41.3±5.44Nとなり,関節不動化の有無と飼育期間の違いのそれぞれで有意差を認め,交互作用も有意であった。一方,変位距離はそれぞれの条件間で有意差を認めなかった。
【考察】
関節不動化により関節構成体の強度は低下した。靭帯の強度を計測した報告(Wooら;1987)においても関節不動化により強度が低下するとされており,類似した結果が得られた。これはこれまでに報告されている組織学的な変化が同様に生じ,それが機能的側面に影響を与えたことを示したものと考えられた。不動期間での比較においては,期間の長い方でより強い強度を示したが,これは本研究で用いた9週齢ラットの膝関節が成熟していなかった事(萩原ら;2010)が原因と考えられた。本研究では3つの計測機器を同期させて実施出来ておらず,精度に課題を残している。今後測定方法を見直し,改めて不動期間と機能の関係を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
関節拘縮による筋・関節の変化を形態学的・生化学的に検証した報告に比べ,機能的な側面から検討した報告は少ない。中でも特定の靭帯や関節包の一部を対象とせず,関節構成体の複合体として検証した報告は見当たらない。我々理学療法士が長期間不動化に晒された関節に治療を行う際,経験的に力加減を配慮しているが,本研究はその根拠を限定的ではあるが示すものであり,重要な意義があると考える。