第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 内部障害理学療法 口述

呼吸7

2014年5月30日(金) 17:10 〜 18:00 第5会場 (3F 303)

座長:田中貴子(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻理学・作業療法学講座)

内部障害 口述

[0586] GOLDの重症度分類(2011年改訂版)からみた慢性閉塞性肺疾患患者の身体機能

松嶋真哉1, 武市梨絵2, 横山仁志2, 渡邉陽介2, 笠原酉介1, 大森圭貢1, 笹益雄1, 駒瀬裕子3 (1.聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院リハビリテーション部, 2.聖マリアンナ医科大学病院リハビリテーション部, 3.聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院呼吸器内科)

キーワード:慢性閉塞性肺疾患, 重症度, 身体機能

【はじめに,目的】
慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:COPD)患者は,労作時の呼吸困難感を主症状とし,筋力や運動耐容能などの身体機能が低下することが知られている。COPD患者に対するリハビリテーション(リハ)の効果は数多く報告され,現在リハはCOPD治療の重要な役割を担っている。2011年にGlobal Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease(GOLD)にてCOPDの診断,治療,予防に関するストラテジーが改訂され,従来の気流障害のみではなく増悪リスク(%FEV1.0<50%もしくは急性増悪≧2回/年)と症状レベル(修正MRCグレード≧2もしくはCOPD Assessment Testスコア≧10)を基準とした新たな重症度分類が提唱された。今後はこの分類にてCOPD患者を評価し,リハを実施していく必要があるが,重症度別に身体機能を検討した報告はなく,重症度別のリハプログラムを作成するまでには至っていない。そこで我々は,GOLDが提唱した新たな重症度別にCOPD患者の身体機能を比較し,各重症度における身体機能の特徴を明らかにすることを目的とした。
【方法】
対象は,2013年1月から10月までに当院の呼吸器内科に外来受診した男性COPD患者のうち,中枢神経系および運動器疾患を有していない連続60例(平均年齢75.2±8.2歳,平均%FEV1.0 79.1±31.4%)とした。GOLDの重症度分類を用いて対象者をGroup A(増悪リスクおよび症状レベルがともに低い),Group B(増悪リスクが低く,症状レベルは高い),Group C(増悪リスクが高く,症状レベルは低い),およびGroup D(増悪リスクおよび症状レベルがともに高い)の4群に分類した。調査測定項目は,患者背景として年齢,身長,体重および%理想体重を診療記録より調査し,身体機能に関しては下肢筋力の指標として等尺性膝伸展筋力,上肢筋力の指標として握力,運動耐容能の指標として6分間歩行距離(6 Minute Walk Distance:6MWD)を測定した。等尺性膝伸展筋力はアニマ社製の徒手筋力測定器を用いて測定し,その最大値の左右平均値を体重で除した値(kgf/kg)を算出した。握力はJamar社製の油圧式握力計を用いて測定し,その最大値の左右平均値(kgf)を算出した。最後に,6MWDは平地を6分の間に最長距離歩くよう指示し,その歩行距離(m)を測定した。統計解析は,各Group間の患者背景と身体機能を一元配置分散分析を用いて比較し,多重比較にはTukey法を用いた。なお,危険率5%未満を有意差判定の基準とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
倫理的配慮として,当院における臨床試験審査委員会の承認を得た(承認番号:第369号)。ヘルシンキ宣言に沿って,すべての対象者に本研究の評価の趣旨,方法,およびリスクを説明し,同意の得られたものみを対象とした。
【結果】
対象はGroup A 17例,Group B 26例,Group C 8例,およびGroup D 9例に分類され,患者背景の年齢,身長,体重および%理想体重にはGroup間で有意差を認めなかった。なお,1年間に急性増悪にて2回以上入院歴がある者はGroup Dに3名のみであった。等尺性膝伸展筋力の平均値はGroup A,B,C,Dの順に0.58±0.11kgf/kg,0.48±0.11kgf/kg,0.63±0.18kgf/kgおよび0.42±0.15kgf/kgであり,Group間に有意差を認めた(F=6.0,p<0.05)。多重比較よりGroup Bの等尺性膝伸展筋力はGroup A,Group Cと比較して有意に低値を示し(p<0.05),同様にGroup DもGroup A,Group Cと比較して有意に低値を示した(p<0.05)。握力の平均値は,順に33.7±5.9kgf,27.2±10.9kgf,33.0±6.7kgfおよび26.7±8.9kgfであり,Group間に有意差を認めなかった。最後に,6MWDの平均値は,順に399.8±86.0m,344.5±124.2m,355.0±131.1mおよび253.1±92.5mであり,Group間に有意差を認めた(F=3.4,p<0.05)。多重比較によりGroup Dの6MWDはGroup Aに比較して有意に低値を示した(p<0.05)。
【考察】
本研究の結果から,Group Bでは下肢筋力が低下しており,Group Dでは下肢筋力と運動耐容能が低下していることが明らかとなった。一方,Group Cに関してはその他のGroupと比較して有意な身体機能低下は認めず,Group Aと比較的近い身体機能を示した。これらのことより,COPD患者の身体機能低下には症状レベルの高さが関連していることが示唆された。症状レベルの高いGroup BとGroup DのCOPD患者は,症状レベルの低いGroup AとGroup Cに比較して,筋力向上や運動耐容能向上を目的としたリハプログラムの必要性が高いと考えられた。ただし,本研究では増悪リスクの判断基準のひとつである増悪歴を有する症例が少ないため,増悪歴と身体機能の関連は今後さらなる検討が必要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,COPD患者を新たな重症度分類ごとに身体機能を比較した報告である。これは,重症度別のリハプログラムを作成する際の一助となると考える。