第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 口述 » 生活環境支援理学療法 口述

福祉用具・地域在宅1

Fri. May 30, 2014 5:10 PM - 6:00 PM 第6会場 (3F 304)

座長:小笠原正(近森リハビリテーション病院理学療法科)

生活環境支援 口述

[0587] 移動能力別に見た老人保健施設通所サービス利用者の身体活動の状況

庭田幸治1, 中野晴人2 (1.東北メディカル学院理学療法学科, 2.介護老人保健施設ほほえみ三戸)

Keywords:通所サービス, 身体活動量, 歩行自立度

【はじめに,目的】通所サービス利用者は施設通所日の身体活動量が非通所日よりも低いため,施設利用日の身体活動を促す環境整備,サービスの提供が必要と報告されている。これらの報告は自立歩行が可能な利用者を対象としており,歩行介助者や車椅子利用者の身体活動量が含まれていない。加速度による活動量計測は歩行を前提としているが,車椅子利用者においても,移乗の回数や自操の程度による運動量の差は活動量計測により把握が可能であると考えられる。よって本研究の目的は,車椅子利用者も含めて利用者の移動能力別に施設通所日と非通所日の身体活動量を調べ,歩行能力別に自宅および施設での活動の特徴を検討することとした。
【方法】老人保健施設通所サービス利用者の中から,日常生活に全介助が必要な方を除き,測定装置の管理が可能な14名(平均年齢77.1±7.4歳,男性5名,女性9名)を対象とした。活動量の測定には生活習慣記録機ライフコーダEX(スズケン社製)を用い,腰部にベルトを介して取り付けた。入浴と睡眠時以外は装着したままで生活するよう指導した後,身体活動量を通所日と非通所日がそれぞれ1日以上含まれるよう2~3日間連続して測定した。
対象者の群分けは日常生活での歩行自立度により,歩行補助具の使用に関わらず,日常の歩行に介助を要しない群(歩行自立群)5名,車椅子は使用しないが歩行の際に介助が必要な群(歩行介助群)1名,歩行が困難で車椅子を利用しているが,駆動には介助を要しない群(車椅子自操群)5名,車椅子の操作に介助が必要な群(車椅子介助群)3名の4群に分けた。各群の介護度の内訳は,歩行自立群は要介護1:3名,要介護2:2名,歩行介助群は要介護2:1名,車椅子自操群は要介護1:1名,要介護2:2名,要介護3:2名,車椅子介助群は要介護3:2名,要介護4:1名であった。統計学的な検討は身体活動量(kcal/day),運動量(kcal/day),歩数(steps/day)について,群間の差を1元配置分散分析,通所日と非通所日の差について対応のあるt検定またはウィルコクソン符号付順位和検定により,有意水準を5%として行った。【倫理的配慮,説明と同意】対象者には口頭と書面にて研究内容を説明し,同意を得た上で研究に参加してもらった。
【結果】全対象者の総消費量は通所日(1500±220kcal/day)と非通所日(1364±208kcal/day)の間に有意な差があり,通所日が非通所日より大きかった(P=0.003)。運動量については通所日(28±33kcal/day)と非通所日(26±38kcal/day)には差が見られなかった。
群別に通所日と非通所日を比較すると,有意な差はみられなかったものの,総消費量では全ての群において通所日が大きかったのに対し,運動量では歩行自立群(通所日63.2±32.7,非通所日66.6±34kcal/day),歩行介助群(12,17kcal/day)では非通所日が大きく,車椅子自立群(8±5,3±3kcal/day),車椅子介助群(10±5,2±3kcal/day)では通所日が大きいという違いが見られた。
【考察】総消費量は全ての対象者において通所日が大きく,歩行能力に関わらず通所によって身体活動が促されていることが確認された。老健通所者の身体活動量については,施設内での移動距離の減少や移動の必要性低下のために減少する(片山ら2008)と報告されているが,本研究の結果は通所日の方が大きいという逆の結果となった。これは対象とした施設が中山間地域に位置し,近隣の歩行に適した環境が乏しく,非通所日に外出の機会があまりないためと考えられる。また,車椅子利用者であっても,送迎時や施設内の通所サービス利用に伴う移動や移乗により,通所日の総消費量が大きくなるものと考えられる。
一方,より加速度の大きい運動として捉えられる運動量で見ると,歩行群は歩数と運動量は通所日の方が小さかった。今回の歩行群の歩数は平均2827歩(680-4053歩)と,非常に大きく,このような積極的な歩行が可能な利用者は,施設利用時には環境的要因,歩行の必要性の低さから歩行量が減少し,また,在宅日の方が強度の高い(加速度の大きい)運動を行っているものと考えられる。安全性,転倒リスクといった観点から,今後,運動の具体的な内容を精査する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】今回の結果から,歩行能力に関わらず通所によって身体活動が促されていることが確認された。施設への通所は,要介護高齢者が健康的な生活を送るうえで必須である,身体活動を促す手段として有用であることを示した。