[0589] 長期的なデイケア利用による脳卒中者の歩行能力と下肢筋力への効果
キーワード:通所リハビリテーション, 歩行速度, 後方視的研究
【はじめに,目的】
脳卒中者におけるデイケアの利用目的に,回復期病院で獲得した身体能力や動作能力を長期的に維持・向上し,日常生活活動(ADL)を確保することが挙げられる。脳卒中発症後のADL低下には,歩行能力の低下が強く関連すると報告されている(Wade et al.,1992)。また,歩行能力には下肢筋力との関連が示唆されている(菅原ら,1993)。よって,ADLに関連する歩行能力の維持・向上には,下肢筋力が影響する可能性がある。デイケア利用による歩行能力と下肢筋力の長期的な変化の理解は,デイケアの効果を示すだけでなく,理学療法介入を考えるうえでも重要である。本研究では,当デイケアを2年間利用した脳卒中者の歩行能力と下肢筋力に着目し,デイケア利用の効果を検討した。
【方法】
対象は,2007年5月から2011年9月の間に,当院併設のデイケアを利用した脳卒中者104名(男性54名,女性50名)である。平均年齢は,64.3±10.2歳(平均±標準偏差)であり,発症後日数は182日(中央値,最小90日-最大4720日)であった。選択基準は,初回発作の脳梗塞および出血,経時的に評価が可能,利用開始時の歩行能力が監視以上,指示理解が良好な者とした。除外基準は,著明な疼痛や拘縮があり歩行が困難な者とした。
評価項目は,歩行速度,下肢筋力とし,デイケア利用開始時,利用後3ヶ月,6ヶ月,12ヶ月および24ヶ月に測定した。歩行は,10m歩行を快適速度にて2回測定し,平均値から歩行速度(m/s)を求めた。下肢筋力は,多機能エルゴメーター(三菱電機エンジニアリング社製)を用い,筋力測定モード(50r/min)にて,麻痺側,非麻痺側の下肢最大伸展トルクを5回転分測定し,体重で除した値(Nm/kg)を用いた。
解析は,利用開始前の歩行能力に着目し,歩行速度と下肢筋力の経時的な変化を検討した。歩行能力の分類には,Perryら(1995)による脳卒中を対象とした歩行速度での活動範囲の3分類(<0.4m/s:household,0.4~0.8m/s:limited community,>0.8m/s:full community)を用いた。歩行能力が向上したか否かの判定は,Pereraら(2006)に基づく臨床的意義のある最小変化量の0.1m/s以上を基準として用いた。さらに,歩行能力の分類ごとに,初回と24ヶ月における歩行速度の改善と下肢筋力の改善の関係をPearson積率相関係数を用いて検討した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
所属施設の倫理審査会で承認後,後方視的研究として行った。
【結果】
利用開始時において,household群が31名,limited群が50名,full群が23名であった。また,それぞれの歩行速度(m/s)は0.27±0.08,0.59±0.11,1.02±0.13であった。24ヶ月においては,それぞれ0.45±0.22,0.74±0.20,1.03±0.18と改善を認めた。最小変化量を基準として,初回と比較し歩行速度が向上した割合は3ヶ月,6ヶ月,12ヶ月,24ヶ月の順にhousehold群は32%,45%,48%,61%,limited群は38%,54%,54%,62%,full群は21%,30%,39%,34%であった。
下肢筋力では,household群は初回,3ヶ月,6ヶ月,12ヶ月,24ヶ月の順に,麻痺側は12.2±9.3,15.4±11.0,17.2±10.9,20.4±14.2,24.0±15.1,非麻痺側は33.5±23.6,31.1±20.3,31.7±17.0,36.6±22.7,37.9±25.4であった。limited群では,麻痺側は24.3±15.0,27.7±15.5,28.4±16.0,30.0±17.5,35.4±19.8,非麻痺側は41.3±26.7,42.4±24.1,43.3±24.5,43.7±25.5,49.4±28.4であった。full群では麻痺側は38.6±15.0,43.3±17.7,45.8±18.8,47.0±18.9,49.8±19.6,非麻痺側は52.4±17.8,53.3±19.6,55.0±22.2,58.0±22.5,59.5±24.7であった。
24ヶ月における歩行速度と下肢筋力の改善の関係は,麻痺側,非麻痺側の順に,household群でr=0.62,r=0.58,full群でr=0.46,r=0.57であり,有意な正の相関を認めた(全てp<0.01)。一方,limited群ではp>0.05であり,麻痺側,非麻痺側ともに有意な相関を認めなかった。
【考察】
脳卒中者において2年間のデイケア利用は,持続的に歩行能力および下肢筋力を維持・向上させることが明らかとなった。特に利用開始時の歩行能力が低いhousehold群,limited群において改善を認め,長期的に理学療法を提供する重要性が示唆された。また利用開始後2年における歩行速度と下肢筋力の改善には,household群とfull群で正の相関を認めたことより,密接な関連があることが示唆された。今後,症例を増やし,デイケア利用による効果をさらに検証していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中者の歩行能力別にデイケア利用による長期的な効果を明らかにし,デイケアでの理学療法の重要性を示した。さらに長期的な歩行能力と下肢筋力改善の関係を明らかにし,理学療法介入に示唆を与えた点で意義がある。
脳卒中者におけるデイケアの利用目的に,回復期病院で獲得した身体能力や動作能力を長期的に維持・向上し,日常生活活動(ADL)を確保することが挙げられる。脳卒中発症後のADL低下には,歩行能力の低下が強く関連すると報告されている(Wade et al.,1992)。また,歩行能力には下肢筋力との関連が示唆されている(菅原ら,1993)。よって,ADLに関連する歩行能力の維持・向上には,下肢筋力が影響する可能性がある。デイケア利用による歩行能力と下肢筋力の長期的な変化の理解は,デイケアの効果を示すだけでなく,理学療法介入を考えるうえでも重要である。本研究では,当デイケアを2年間利用した脳卒中者の歩行能力と下肢筋力に着目し,デイケア利用の効果を検討した。
【方法】
対象は,2007年5月から2011年9月の間に,当院併設のデイケアを利用した脳卒中者104名(男性54名,女性50名)である。平均年齢は,64.3±10.2歳(平均±標準偏差)であり,発症後日数は182日(中央値,最小90日-最大4720日)であった。選択基準は,初回発作の脳梗塞および出血,経時的に評価が可能,利用開始時の歩行能力が監視以上,指示理解が良好な者とした。除外基準は,著明な疼痛や拘縮があり歩行が困難な者とした。
評価項目は,歩行速度,下肢筋力とし,デイケア利用開始時,利用後3ヶ月,6ヶ月,12ヶ月および24ヶ月に測定した。歩行は,10m歩行を快適速度にて2回測定し,平均値から歩行速度(m/s)を求めた。下肢筋力は,多機能エルゴメーター(三菱電機エンジニアリング社製)を用い,筋力測定モード(50r/min)にて,麻痺側,非麻痺側の下肢最大伸展トルクを5回転分測定し,体重で除した値(Nm/kg)を用いた。
解析は,利用開始前の歩行能力に着目し,歩行速度と下肢筋力の経時的な変化を検討した。歩行能力の分類には,Perryら(1995)による脳卒中を対象とした歩行速度での活動範囲の3分類(<0.4m/s:household,0.4~0.8m/s:limited community,>0.8m/s:full community)を用いた。歩行能力が向上したか否かの判定は,Pereraら(2006)に基づく臨床的意義のある最小変化量の0.1m/s以上を基準として用いた。さらに,歩行能力の分類ごとに,初回と24ヶ月における歩行速度の改善と下肢筋力の改善の関係をPearson積率相関係数を用いて検討した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
所属施設の倫理審査会で承認後,後方視的研究として行った。
【結果】
利用開始時において,household群が31名,limited群が50名,full群が23名であった。また,それぞれの歩行速度(m/s)は0.27±0.08,0.59±0.11,1.02±0.13であった。24ヶ月においては,それぞれ0.45±0.22,0.74±0.20,1.03±0.18と改善を認めた。最小変化量を基準として,初回と比較し歩行速度が向上した割合は3ヶ月,6ヶ月,12ヶ月,24ヶ月の順にhousehold群は32%,45%,48%,61%,limited群は38%,54%,54%,62%,full群は21%,30%,39%,34%であった。
下肢筋力では,household群は初回,3ヶ月,6ヶ月,12ヶ月,24ヶ月の順に,麻痺側は12.2±9.3,15.4±11.0,17.2±10.9,20.4±14.2,24.0±15.1,非麻痺側は33.5±23.6,31.1±20.3,31.7±17.0,36.6±22.7,37.9±25.4であった。limited群では,麻痺側は24.3±15.0,27.7±15.5,28.4±16.0,30.0±17.5,35.4±19.8,非麻痺側は41.3±26.7,42.4±24.1,43.3±24.5,43.7±25.5,49.4±28.4であった。full群では麻痺側は38.6±15.0,43.3±17.7,45.8±18.8,47.0±18.9,49.8±19.6,非麻痺側は52.4±17.8,53.3±19.6,55.0±22.2,58.0±22.5,59.5±24.7であった。
24ヶ月における歩行速度と下肢筋力の改善の関係は,麻痺側,非麻痺側の順に,household群でr=0.62,r=0.58,full群でr=0.46,r=0.57であり,有意な正の相関を認めた(全てp<0.01)。一方,limited群ではp>0.05であり,麻痺側,非麻痺側ともに有意な相関を認めなかった。
【考察】
脳卒中者において2年間のデイケア利用は,持続的に歩行能力および下肢筋力を維持・向上させることが明らかとなった。特に利用開始時の歩行能力が低いhousehold群,limited群において改善を認め,長期的に理学療法を提供する重要性が示唆された。また利用開始後2年における歩行速度と下肢筋力の改善には,household群とfull群で正の相関を認めたことより,密接な関連があることが示唆された。今後,症例を増やし,デイケア利用による効果をさらに検証していきたい。
【理学療法学研究としての意義】
脳卒中者の歩行能力別にデイケア利用による長期的な効果を明らかにし,デイケアでの理学療法の重要性を示した。さらに長期的な歩行能力と下肢筋力改善の関係を明らかにし,理学療法介入に示唆を与えた点で意義がある。