第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 セレクション » 運動器理学療法 セレクション

骨・関節2

Fri. May 30, 2014 4:55 PM - 6:55 PM 第11会場 (5F 501)

座長:柿崎藤泰(文京学院大学保健医療技術学部理学療法学科), 横山茂樹(京都橘大学健康科学部理学療法学科)

運動器 セレクション

[0592] 回復期リハビリテーション病院における大腿骨近位部骨折患者の栄養状態と移動能力回復推移,機能予後との関連性

岡本伸弘1,2, 増見伸1,2, 水谷雅年3, 齋藤圭介3 (1.社会医療法人財団池友会香椎丘リハビリテーション病院, 2.吉備国際大学大学院(通信制)保健科学研究科, 3.吉備国際大学保健医療福祉学部理学療法学科)

Keywords:栄養状態, 大腿骨近位部骨折, 移動能力

【はじめに】
大腿骨近位部骨折患者における機能予後についての報告は,2000年前後を中心に精力的に研究が取り組まれてきた。これら研究により,認知症,脳卒中の既往,年齢,受傷前歩行能力(以下,従来の関連要因)などが機能予後に影響をおよぼすことが明らかにされ,同時期に初めて本邦における高齢者の栄養状態について大規模な調査が実施された。これにより医療施設入院中の高齢者の多くが低栄養状態に陥っていることが明らかとなり社会的な問題として認識されるようになった。
近年,リハビリテーション分野においても患者個々の栄養状態について着目されるようになり様々な報告がされている。大腿骨近位部骨折患者の機能予後と栄養状態について,市村らや古庄らは入院時における栄養状態は歩行自立の予測因子となることを報告している。このように大腿骨近位部骨折患者の機能予後については,従来の関連要因以外にも栄養状態との間に関連性が認められているものの,臨床現場では栄養状態を考慮した理学療法の展開は十分になされてない。
このような問題として,これら栄養状態が提起された研究は,現在と制度的な枠組みの違いを考慮しなければならないことや,従来の関連要因を考慮した検証が行われてない。また,これら分析モデルは入院時における栄養状態が退院時の身体能力とどれほど関連するかというもので,身体能力の回復過程に栄養状態がどのような影響をおよぼすのかについて明確にされていない。本研究の目的は移動能力の回復推移と機能予後の側面から,当該患者集団において栄養状態に注目することの重要性について検討することである。
【方法】
調査対象は福岡県内一カ所の回復期リハビリテーション病院に入院された65歳以上の全大腿骨近位部骨折患者364名とした。対象は初回の大腿骨近位部骨折患者のみとし,除外基準として入院中に容態の悪化を認め転院となった者,データに欠損値があった者を除き,集計対象者は266名とした。調査内容は,基本属性,医学的所見,受傷前環境,栄養状態,移動能力,病棟歩行自立の有無とした。移動能力の測定にはFACを用いた。測定間隔については,入院時より2週間毎の測定結果を用いた。
解析方法に関して,入院時の栄養状態を低栄養判定基準に基づき3群に群別し,栄養状態が経時的な移動能力の回復に影響をおよぼすかについて二元配置分散分析を行い,多重比較検定にはScheffe法を用いて検討を行った。次に退院時の歩行自立に影響する因子についてロジスティック回帰分析を用い検討を行った。従属変数は退院時までの歩行自立の有無とし,説明変数は先行研究で指摘されている関連要因として認知症,脳卒中の既往,年齢,受傷前歩行能力を措定すると共に,栄養状態に関する変数としてアルブミン値(Alb値),Body Mass Index(BMI)を投入した。
【倫理的配慮】
ヘルシンキ宣言を順守し研究計画を立案し,当院の倫理審査委員会(承認番号 第25-1号)の承認を受け実施すると共に,調査にあたっては個人が特定できないよう匿名化し,データの取り扱いに関しても漏洩がないように配慮を行った。
【結果】
二元配置分散分析の結果,それぞれの要因による交互作用は認めなかった。一方,各群内の時点間比較では,低栄養群および低栄養リスク群では入院時より4週目まで有意な回復を示したが(p<0.05),栄養良好群では入院時より6週目まで有意な増加を示した(p<0.05)。また,各測定時期における群間比較では,全ての時期において低栄養群と比較し栄養良好群では有意に移動能力が高値を示した(p<0.05)。次にロジスティック回帰分析を用いた検討の結果では,入院時Alb値(オッズ比5.93,95%信頼区間2.49-14.11),入院時BMI(オッズ比1.11,95%信頼区間1.00-1.22)は有意な変数として採択されたが,先行研究で指摘されている関連要因のうち年齢は棄却された。
【考察】
移動能力の回復推移について,低栄養群では栄養良好群と比べ機能回復が緩徐で,入院中の経時的な身体機能についても栄養良好群と比べ低栄養群は低値であり,機能回復の過程において栄養状態が影響していることが示唆された。また移動能力の回復予後との関連では,先行研究で指摘されている関連要因とともに,入院時Alb値とBMIが影響を与える事が示された。この検討において年齢は棄却されたが,これは栄養状態因子を加えた解析により年齢は交絡として作用し,より身体機能に影響をおよぼす栄養状態因子が選択されたのではないかと推察する。
【理学療法学研究としての意義】
理学療法を展開する上で栄養状態を留意することの重要性を示すと共に,離床や嚥下機能の改善を図るなど栄養状態の改善に向けた介入のあり方を検討する必要性を示唆するものと言える。