第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 セレクション » 運動器理学療法 セレクション

骨・関節2

Fri. May 30, 2014 4:55 PM - 6:55 PM 第11会場 (5F 501)

座長:柿崎藤泰(文京学院大学保健医療技術学部理学療法学科), 横山茂樹(京都橘大学健康科学部理学療法学科)

運動器 セレクション

[0596] 変形性膝関節症罹患者の疼痛の予後予測は可能か?

南有田くるみ1,2, 田中亮3, 木藤伸宏3 (1.広島国際大学大学院医療・福祉科学研究科, 2.医療法人あずさ会森整形外科リハビリテーション科, 3.広島国際大学総合リハビリテーション学部リハビリテーション学科)

Keywords:変形性膝関節症, 疼痛, メタアナリシス

【はじめに,目的】疼痛は変形性膝関節症(以下,膝OA)の主症状であり,多くの罹患者を悩ませる問題の一つでもある。疼痛緩和を目的に理学療法が選択されることは臨床現場において珍しくない。しかしながら,その一方で,疼痛を有する膝OA罹患者の29%は疼痛が自然回復することが報告されている(Peters and Sanders,2005)。それにもかかわらず,どのような膝OA罹患者であれば疼痛が自然回復するのか,あるいは持続したり悪化したりするのかは明らかにされていない。患者の病歴や検査から進行の予後指標を同定することは,医療従事者が疾患進行の可能性をより正確に予測し,患者を適切な介入へと向かわせることを可能にする(Chapple et al 2011)。本研究の目的は,膝OA罹患者の疼痛の予後予測要因を明らかにすることである。
【方法】本研究のデザインは,観察研究のメタアナリシスとした。論文の適格基準は,膝OA罹患者が対象に含まれている,評価項目に疼痛が含まれている,臨床現場で簡便かつ容易に実施できる検査項目が含まれている,疼痛と検査項目との関連性が統計学的に分析されている,研究デザインが観察研究である,とした。文献検索には,PubMed,the Cochrane Library,CINAHLを使用した。適格基準に合致した複数の論文で同一の効果量が記載されていれば,その効果量を統合した。統合効果量とその95%信頼区間を算出し,統合効果量の有意水準をp<0.05とした。統合効果量の異質性を示すI²値を算出して効果量のばらつきを評価した。
【結果】抽出された576編の論文のうち,適格基準に合致した論文は22編であった。疼痛との関連性が検討された項目を国際生活機能分類に準じて分類すると,心身機能13目,身体構造2項目,活動と参加7項目,個人因子・その他6項目であった。このうち,データの統合が可能であった項目は,膝関節屈曲可動域,膝関節伸展筋力,下肢アライメント,BMI,階段昇段,階段降段,活動全般,年齢,性別の9項目であった。データの統合は,ピアソンの積率相関係数のみ可能であった。データを統合した結果,統計学的に有意であった項目の統合相関係数(95%信頼区間およびI²値)は,膝関節屈曲可動域-0.272(-0.402~-0.133,0%),膝関節伸展筋力-0.302(-0.510~-0.06,63%),BMI 0.228(0.070~0.375,56%),階段昇段0.439(0.259~0.590,0%),階段降段0.447(0.268~0.596,0%)であった。データの統合に含まれた研究は全て横断研究であり,膝OA罹患者の疼痛の予後予測要因を明らかにしている縦断研究はみあたらなかった。
【考察】膝OA罹患者の疼痛の予後予測要因は明らかにされていなかったが,疼痛と関連のある要因として膝関節屈曲可動域,膝関節伸展筋力,BMI,階段昇段,階段降段が示された。Belo et al(2007)は,膝OAの進行と強く関連のある要因として,多関節に及ぶOA,ヒアルロン酸注射,身体活動への参加,筋力,過去の膝関節受傷歴を挙げ,Chapple et al(2011)は,これら以外に,膝関節マルアライメント,年齢,レントゲン特性を挙げている。しかしながら,これら先行研究は膝OAの進行を疼痛だけでなく,レントゲン特性や身体機能の変化も含めて定義している。そのため,疼痛の予後を必ずしも予測しない要因が上記に含まれている可能性がある。それに対して本研究は,膝関節屈曲可動域,階段昇段,階段降段が疼痛と関連のある要因として示された。これらは,Belo et al(2007)やChapple et al(2011)が挙げた要因に含まれておらず,疼痛に固有の予後予測要因であるかもしれない。ただし,本研究のメタアナリシスは横断研究のデータに偏っているため,これらの項目で将来の疼痛の変化を予測できるとまでは言い切れない。また,交絡要因の影響が調節されていないデータを扱っていることや,データの統合結果に及ぼす一次研究のバイアスの影響が評価されていないことも,本研究の限界として指摘できる。したがって,膝OA罹患者の疼痛の予後予測が可能かどうか判断するためには,これらの要因を扱った縦断研究を行い,交絡要因の影響を調節した分析を実施したうえで,疼痛が持続する患者や悪化する患者の特徴を検討する必要がある。
【理学療法学研究としての意義】未だ明らかにされていない膝OA罹患者の疼痛の予後予測について,今後の研究で扱われるべき潜在的要因の一部が示された。今後,疼痛の予後予測に対する臨床研究を実施した際,アウトカムの設定で効果判定の指標として使用することが期待できる。