第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 セレクション » 運動器理学療法 セレクション

骨・関節2

Fri. May 30, 2014 4:55 PM - 6:55 PM 第11会場 (5F 501)

座長:柿崎藤泰(文京学院大学保健医療技術学部理学療法学科), 横山茂樹(京都橘大学健康科学部理学療法学科)

運動器 セレクション

[0599] 人工膝関節全置換術患者の外出満足度に影響する機能因子の検討

平野和宏1, 鈴木壽彦2, 五十嵐祐介3, 田中真希4, 石川明菜3, 姉崎由佳4, 川藤沙文2, 樋口謙次4, 中山恭秀3, 安保雅博5 (1.東京慈恵会医科大学葛飾医療センター, 2.東京慈恵会医科大学附属病院, 3.東京慈恵会医科大学附属第三病院, 4.東京慈恵会医科大学附属柏病院, 5.東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座)

Keywords:人工膝関節全置換術, 患者満足度, 機能評価

【目的】我々は,2010年4月より本学附属の4病院(以下4病院)にて,人工膝関節全置換術(以下TKA)患者を対象に統一した評価表を用いている。本評価表は患者の5段階による主観的評価を用いた問診票と理学療法士が評価する機能評価とで構成されている。TKA患者の高い活動性を維持するためにも,QOLを高めるためにも,外出が出来るか否かは重要であると考える。そこで我々は,第48回日本理学療法学術大会においてTKA患者が外出できる歩行能力を有しているのかを判断する場合,日本において徒歩何分という表示に用いられる80m/minという歩行速度は1つの判断基準となりうるとの考えから,TKA患者が80m/minの速度で歩行するためのQuick Squat(以下QS)回数とTimed up&Goテスト(以下TUG)のカットオフ値を算出し報告した。しかしながら,実際に患者自身が外出に関して満足するためには,どのような機能が必要かは判断できず,今回,TKA患者の外出に対する主観的評価に影響を及ぼす機能評価を抽出することを目的とした。
【方法】対象は2010年4月から2013年8月までに4病院でTKAを施行し,自宅退院後である術後8週,術後12週のいずれかの時期に調査項目が評価可能であった212名とした。機能評価の調査項目は,5m歩行時間,QS回数,TUG,JOAスコア,膝の疼痛の有無,術側屈曲・伸展可動域,筋力(Nm/kg)として術側膝屈曲・伸展,非術側膝屈曲・伸展の11項目とし,QS回数,TUG,筋力は各々2回測定し,その平均値とした。QSとは,膝関節屈曲60°までのスクワットを10秒間に出来るだけ早く行い,その回数を評価するものである。問診票の調査項目は「外出」とし,患者の主観により外出が「5:楽にできる~1:出来ない」の5段階にて評価し,4・5の群を外出満足群,1・2の群を外出不満足群の2群とした。5段階評価のうち3の群は除外した(n=57)。統計解析としては,2群間における機能評価の測定値を対応のないt検定およびχ2検定にて比較した。さらに,外出の主観的評価にはどの機能評価が影響するのかを検証するために,外出の満足不満足を従属変数,2群間の比較にて有意差を認めた項目を独立変数としたロジスティック回帰分析を行った。有意な変数として抽出された項目については,オッズ比(odds ratio:以下OR)を算出した。統計解析ソフトはSPSS(ver.20)を使用した。
【倫理的配慮】本研究は,当学の倫理委員会の承認を得て施行した。
【結果】外出満足群は141名,外出不満足群は71名であった。2群間で比較したt検定およびχ2検定では,5m歩行時間,QS回数,JOAスコア,疼痛の有無,術側膝屈曲筋力,術側伸展筋力の6項目に有意差が認められた(いずれもp<0.01)。この6項目を独立変数としたロジスティック回帰分析の結果,モデルχ2検定はp<0.01で有意であり,判別的中率は76.4%であった。有意な変数として抽出された項目とそのORを以下に示す。QS回数で1.45(p<0.01),JOAスコアで0.7(p<0.01),膝の疼痛の有無で0.4(p<0.05)であった。
【考察】統計解析の結果,膝の疼痛が無く,JOAスコアが高く,QS回数が多いことが外出の満足度を高めることとなった。TKAは除痛を目的に施行することが多いこと,歩行動作は疼痛の影響を受けると予測されることから疼痛の有無が抽出されたと考える。歩行という動作を含む評価項目はTUG,5m歩行時間,JOAスコアであるが,前者2項目は短距離での評価であるのに対し,JOAスコアは1kmという長距離の評価が含まれるために,外出に影響する因子として抽出されたと考える。QSは伸長-短縮サイクル(stretch-shortening cycle以下SSC)運動であり,SSC運動はスポーツ選手の投擲動作時やジャンプ施行時から健常者の通常歩行時まで幅広い動作において認められている。このため,歩行能力の維持・改善にはSSC運動の遂行能力向上と適切な評価が重要であるとの考えから,4病院ではTKA術後早期からQSをトレーニングとしても取り入れている。我々は第47回日本理学療法学術大会にてTKA患者のQS回数と歩行速度,TUGにおいて相関が認められたことを報告した。さらに今回,高い歩行能力に加え複合的な要素が必要と考えられる「外出」という行動に関してQSが影響する結果になった。これらのことから,QSはTKA患者の歩行能力やバランス能力のみならず幅広い動作能力を反映することが示唆された。また,QSは術後早期から退院後まで長期間において活用でき,簡便で特別な道具を必要とせず,評価とトレーニングを兼ねている点でも有用性が高いと考える。
【理学療法学研究としての意義】TKA患者の外出に対する主観的評価に影響する機能因子として,QS回数,JOAスコア,膝の疼痛の有無が抽出された。QSはTKA患者の動作評価の新しい指標になりうると考える。