[0600] 固有受容性神経筋促通法における骨盤の後方下制に対する抵抗運動がヒラメ筋H波に及ぼす影響
Keywords:PNF, H波, 後効果
【はじめに,目的】
固有受容性神経促通法(PNF)の骨盤パターンである後方下制の中間域での静止性収縮促通(SCPD)手技(低負荷)の上行性の神経生理学的影響を橈側手根屈筋(FCR)H波により検証した結果,抵抗時は抑制し抵抗後に促通効果が認められた(Arai et al. 2012, 2013)。骨盤の抵抗運動の下行性の神経生理学的効果では高負荷での一側骨盤の前方回旋への静止性収縮の促通時と直後では抵抗運動側と対側のヒラメ筋H波は有意な増大が認められているが(大城ら。1991),PNFパターンを用いた低負荷での下行性の生理学的効果の検証はなされていない。本研究の目的は,PNFパターンを用いた低負荷での骨盤の抵抗運動の一つであるSCPD手技の下行性の神経生理学的効果をヒラメ筋H波により検証することである。
【方法】
対象は神経学的既往のない健常者8名(男性4名,女性4名,年齢範囲21-24歳)とした。対象者は右坐骨結節からのSCPD手技と抵抗運動による右足関節の底屈位での静止性収縮促通手技(コントロール手技)を行った。各運動時の対象者の肢位は右を上にした側臥位とした。各運動の抵抗量は体重の1/20の強さで,抵抗の方向は,牽引ロープと上前腸骨棘-坐骨結節を結ぶ線が一直線となる方向とし,頭側方向に牽引し抵抗を行なった。各手技の静止性収縮の時間は20秒とし,同一対象者に無作為に施行した。ヒラメ筋H波は安静時・運動時・運動後に側臥位のままで,誘発筋電図は誘発電位・筋電図検査装置(日本光電社・MEB9100)を用い,左側の膝窩部より脛骨神経を刺激しH波を誘発した。電気刺激は,刺激時間1msの矩形波・刺激頻度は1Hz・刺激持続時間は0.5msecとした。安静時にH波を3回,運動時より運動後3分20秒までH波を誘発し20秒毎に相に分け,各相で運動時H波振幅値と最大M波振幅値を比較した振幅H/M比を求めた。振幅H/M比を指標に,運動と継時的変化(時間)と個人を要因とした三元配置分散分析を行い検証した。また,SCPD手技とコントロール手技の振幅H/M比の継時的変化の予測のため,各々,整次多項式による回帰分析し,自由度修正済み決定係数と回帰のp値を比較した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は倫理審査委員会において承認を得て行い,研究同意書に署名を得た人を対象としたまた。また,対象者には研究同意の撤回がいつでも可能なことを説明した。
【結果】
三元配置分散分析の結果,運動の要因において有意差が認められた(p=0.019,η2=0.99)。また,運動と個人の要因において交互作用が認められた(p=0.049,η2=0.99)。コントロール手技よりSCPD手技において有意にH波の増大が認められた(p=0.02,η2=0.99)。SCPD手技の自由度修正済み決定係数と回帰のp値により,振幅H/M比の整次多項式は線形回帰式y=0.052x+0.255(p=0.017,R2=0.064)のみであった。コントロール手技は有意な整次多項式はなかった。
【考察】
運動と個人に交互作用があるため個人差による影響が示唆されるが,抵抗運動側と対側のヒラメ筋(左)H波はコントロール手技と比較しSCPD手技で対側下肢の有意な漸増的な促通が認められた。FCRのH波ではSCPD手技時に抑制が認められたが,ヒラメ筋H波では抑制が有意に認められなかったのは,コントロール手技でも低下を示す傾向があったためと推定される。SCPD手技の上行性・下行性の神経生理学的効果は上行性・下行性とも運動時抑制し運動後促通するリバウンド効果の可能性が推定できた(Arai et al. 2012)。大城ら(1991)は,一側骨盤の前方回旋運動において対側ヒラメ筋H波で振幅の増大が認めたことより歩行との関連性を示唆しているが,今回のSCPD手技は後方下制方向で(前方回旋と反対方向の運動)促通が認められたので,歩行パターンによる促通効果ではなく特異的な促通効果が生じていることが示唆され,今回のSCPD手技の神経生理学的効果は歩行パターでは説明できない。また,SCPD手技は脳への特異的な賦活・抑制効果もあることより(Shiratani et al. 2012),中枢への特異的効果があり障害の回復へ寄与する可能性が推察される。
【理学療法学研究としての意義】
SCPD手技により脳卒中後片麻痺患者の起き上がり・立ち上がり・歩行能力が改善することや(上広ら。2008,平下ら。2008,国吉ら。2011,柳澤ら。2011),整形外科疾患の膝関節の自動関節可動域が改善されたことが報告されている(Masumoto et al. 2012)。SCPD手技におけるヒラメ筋H波の促通効果は,下肢への遠隔促通による後効果により変化が生じている可能性があり,SCPD手技を用いた理学療法の生理学的根拠の一端を明示することができた。
固有受容性神経促通法(PNF)の骨盤パターンである後方下制の中間域での静止性収縮促通(SCPD)手技(低負荷)の上行性の神経生理学的影響を橈側手根屈筋(FCR)H波により検証した結果,抵抗時は抑制し抵抗後に促通効果が認められた(Arai et al. 2012, 2013)。骨盤の抵抗運動の下行性の神経生理学的効果では高負荷での一側骨盤の前方回旋への静止性収縮の促通時と直後では抵抗運動側と対側のヒラメ筋H波は有意な増大が認められているが(大城ら。1991),PNFパターンを用いた低負荷での下行性の生理学的効果の検証はなされていない。本研究の目的は,PNFパターンを用いた低負荷での骨盤の抵抗運動の一つであるSCPD手技の下行性の神経生理学的効果をヒラメ筋H波により検証することである。
【方法】
対象は神経学的既往のない健常者8名(男性4名,女性4名,年齢範囲21-24歳)とした。対象者は右坐骨結節からのSCPD手技と抵抗運動による右足関節の底屈位での静止性収縮促通手技(コントロール手技)を行った。各運動時の対象者の肢位は右を上にした側臥位とした。各運動の抵抗量は体重の1/20の強さで,抵抗の方向は,牽引ロープと上前腸骨棘-坐骨結節を結ぶ線が一直線となる方向とし,頭側方向に牽引し抵抗を行なった。各手技の静止性収縮の時間は20秒とし,同一対象者に無作為に施行した。ヒラメ筋H波は安静時・運動時・運動後に側臥位のままで,誘発筋電図は誘発電位・筋電図検査装置(日本光電社・MEB9100)を用い,左側の膝窩部より脛骨神経を刺激しH波を誘発した。電気刺激は,刺激時間1msの矩形波・刺激頻度は1Hz・刺激持続時間は0.5msecとした。安静時にH波を3回,運動時より運動後3分20秒までH波を誘発し20秒毎に相に分け,各相で運動時H波振幅値と最大M波振幅値を比較した振幅H/M比を求めた。振幅H/M比を指標に,運動と継時的変化(時間)と個人を要因とした三元配置分散分析を行い検証した。また,SCPD手技とコントロール手技の振幅H/M比の継時的変化の予測のため,各々,整次多項式による回帰分析し,自由度修正済み決定係数と回帰のp値を比較した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は倫理審査委員会において承認を得て行い,研究同意書に署名を得た人を対象としたまた。また,対象者には研究同意の撤回がいつでも可能なことを説明した。
【結果】
三元配置分散分析の結果,運動の要因において有意差が認められた(p=0.019,η2=0.99)。また,運動と個人の要因において交互作用が認められた(p=0.049,η2=0.99)。コントロール手技よりSCPD手技において有意にH波の増大が認められた(p=0.02,η2=0.99)。SCPD手技の自由度修正済み決定係数と回帰のp値により,振幅H/M比の整次多項式は線形回帰式y=0.052x+0.255(p=0.017,R2=0.064)のみであった。コントロール手技は有意な整次多項式はなかった。
【考察】
運動と個人に交互作用があるため個人差による影響が示唆されるが,抵抗運動側と対側のヒラメ筋(左)H波はコントロール手技と比較しSCPD手技で対側下肢の有意な漸増的な促通が認められた。FCRのH波ではSCPD手技時に抑制が認められたが,ヒラメ筋H波では抑制が有意に認められなかったのは,コントロール手技でも低下を示す傾向があったためと推定される。SCPD手技の上行性・下行性の神経生理学的効果は上行性・下行性とも運動時抑制し運動後促通するリバウンド効果の可能性が推定できた(Arai et al. 2012)。大城ら(1991)は,一側骨盤の前方回旋運動において対側ヒラメ筋H波で振幅の増大が認めたことより歩行との関連性を示唆しているが,今回のSCPD手技は後方下制方向で(前方回旋と反対方向の運動)促通が認められたので,歩行パターンによる促通効果ではなく特異的な促通効果が生じていることが示唆され,今回のSCPD手技の神経生理学的効果は歩行パターでは説明できない。また,SCPD手技は脳への特異的な賦活・抑制効果もあることより(Shiratani et al. 2012),中枢への特異的効果があり障害の回復へ寄与する可能性が推察される。
【理学療法学研究としての意義】
SCPD手技により脳卒中後片麻痺患者の起き上がり・立ち上がり・歩行能力が改善することや(上広ら。2008,平下ら。2008,国吉ら。2011,柳澤ら。2011),整形外科疾患の膝関節の自動関節可動域が改善されたことが報告されている(Masumoto et al. 2012)。SCPD手技におけるヒラメ筋H波の促通効果は,下肢への遠隔促通による後効果により変化が生じている可能性があり,SCPD手技を用いた理学療法の生理学的根拠の一端を明示することができた。