第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 セレクション » 運動器理学療法 セレクション

徒手療法

Fri. May 30, 2014 5:40 PM - 6:55 PM 第12会場 (5F 502)

座長:亀尾徹(新潟医療福祉大学医療技術学部理学療法学科)

運動器 セレクション

[0604] 筋膜リリースと筋再教育運動が筋筋膜の伸張性および筋力に与える経時的変化

勝又泰貴1, 竹井仁2, 堀拓朗1, 林洋暁1, 天羽君枝1 (1.医療法人社団苑田会苑田第一病院, 2.首都大学東京人間健康科学研究科理学療法科学域)

Keywords:筋膜リリース, 持続効果, 筋再教育運動

【目的】
我々は過去の日本理学療法学術大会において,筋膜リリース(Myofascial Release:以下MFR)の持続効果と,筋再教育運動が与える影響について報告してきた。本研究では,筋再教育運動がMFRの効果に与える影響を,再教育する筋の違いと,経時的変化の違いを調査・検討することを目的とした。
【方法】
対象は,体幹・下肢に既往がなく自動下肢伸展挙上(straight leg raising:以下SLR)70°未満の成人30名(男性18名:平均年齢27.3歳,女性12名:平均年齢24.6歳)とした。対象者を準無作為に,①両脚のハムストリングスにMFRを180秒行う群10名(MFR群),②両脚のハムストリングスのMFR後に大腿四頭筋の筋再教育運動を行う群10名(MFR-quad群),③両脚のハムストリングスのMFR後にハムストリングスの筋再教育運動を行う群10名(MFR-ham群)に分けた。筋再教育運動は1 repetition maximumの40%の負荷にて,膝関節屈曲30-90°の範囲内で,2秒に1回の速さで膝関節伸展あるいは屈曲を40回行った。測定項目は,背臥位での自動・他動運動によるSLR(active・passive SLR:以下ASLR・PSLR)の角度,端座位での膝関節30°屈曲位と90°屈曲位における膝関節屈曲・伸展時の1 isometric maximum(トルク値で算出)とした。各測定項目の結果は,介入後以降のそれぞれの値と介入前の値との変化率で解析した。なお,各測定は3人で行い,測定者が割り付けられた群を知らないPROBE法を用いた。測定は,介入前・介入後・2日後・4日後・6日後に実施した。分析方法は,年齢・性別・身長・体重・介入前の各測定項目で調整した反復測定による共分散分析を行った。各測定項目の左右差は対応のあるt検定を行いその影響について検討した。その後,各測定時期における群間の差と,各群における各測定時期の差を分散分析後に多重比較検定を行い解析した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,研究代表者が所属する倫理審査委員会の承認を受け,各対象者に十分な説明をした後,同意を得て行った。
【結果】
各群のベースラインおよび,各測定項目の左右差に有意な差はなかった。ASLRは,MFR-ham群のみ6日後まで,他の2群は4日後まで有意に増加し,6日後はMFR-ham群がMFR群に比べ有意に高値であった。PSLRは,全ての群で6日後まで有意に増加し,6日後のMFR-ham群の値は他の2群よりも有意に高値であった。屈曲トルク値は,30°位と90°位ともに,MFR-ham群のみ6日後まで,MFR群は4日後まで有意に増加し,MFR-quad群に有意な変化はなかった。また,6日後のMFR-ham群の値は他の2群よりも有意に高値であった。伸展トルク値は,30°位と90°位ともに,MFR-quad群のみ6日後まで有意に増加し,MFR-ham群に有意な変化はなかった。MFR群は30°位では介入後,90°位では2日後まで有意に高値であった。6日後のMFR-quad群の値は30°位でMFR群よりも,また,90°位で他の2群よりも有意に高値であった。
【考察】
MFRにより筋膜に制限をもたらしていた深筋膜と筋外膜の高密度化を解消し,筋外膜が連続する筋周膜と筋内膜の筋膜制限の解消にも効果を与えたと考える。これらの膜制限が解消することで,深筋膜と筋外膜間の滑走,さらには筋周膜が包む筋束間,筋内膜が包む筋線維間の滑りが円滑になり,筋筋膜の伸張性が改善したと考える。また,高密度化の解消は,ガンマ運動ニューロンから筋紡錘への入力を正常化することで,協調性を改善して正しい筋力を発揮しやすくし,筋収縮の効率化を図ることができたと考える。特に,ハムストリングスに対してはMFR後に筋再教育運動を実施したことで,筋と筋膜の滑走の改善が円滑な筋収縮と弛緩を生じさせ,PSLRの改善角度を経時的に維持しただけでなく,ASLR時にも過剰な遠心性の筋収縮を抑制し,大腿四頭筋が働きやすくなり,6日後にもMFR-ham群が有意な改善を示していたと考える。一方で,今回,SLRの動筋である大腿四頭筋の再教育運動を実施したMFR-quad群では,MFR-ham群よりもASLRの持続期間が短かった。これは,ハムストリングスにMFRしか実施していなかったことと,大腿四頭筋に対してはMFRを実施せずに筋再教育のみを実施したので,大腿前面の筋膜の高密度化が解消されていなかった可能性があることが関与していると考える。よって,SLRの動筋の大腿四頭筋の機能をさらに向上させるためには,ハムストリングスにMFRに加えて筋再教育運動を実施しておくこと,さらに大腿四頭筋に事前にMFRを実施しておく必要性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
治療目的に応じたMFRと運動療法の選択を明確にすることができる。また,効果の増大と延長は治療回数の減少,円滑な治療の進行,ホームエクササイズ効果の向上などが見込めるようになる。