[0605] 膝疾患既往者へのEMGバイオフィードバックによる内側広筋,外側広筋の筋電活動比および脳循環動態の変化
Keywords:EMGバイオフィードバック, 内側広筋, 運動学習
【目的】バイオフィードバックを用いた選択的筋力増強運動は,膝関節受傷後に筋萎縮が生じる内側広筋(VM)に対して行われている。選択的筋力増強運動の効果は,筋肥大や中枢および末梢神経での運動学習が期待されている。中枢神経での運動学習について,上肢での巧緻性運動を用いた研究で対側一次運動野,両側運動前野,対側補足運動野の運動関連領野の活動が報告されている。一方,下肢では運動強度の変化と運動関連領野についての報告は散見されるが,著明な筋萎縮を生じた筋での選択的筋収縮の運動学習過程における運動関連領野の活動の変化についての報告は少ない。本研究は,EMGバイオフィードバック(E-BF)を用いてVMの課題運動を行い,運動学習過程での運動関連領野の脳循環動態の変化について検討することを目的とした。
【方法】対象は膝疾患既往者7名(男性4名,女性3名)とし,平均年齢25.9±6.5歳であった。下肢筋機能の測定として,等尺性膝伸展筋力はBIODEX SYSTEM3(BIODEX),VMおよび外側広筋(VL)の筋電活動は表面筋電図(Electromyography:EMG)Km-818T(メディエリアサポート)を使用した。測定肢位は,座位で腕を胸の前で組み,膝関節屈曲20°とした。等尺性膝伸展筋力は,収縮時間5秒間で2回測定し,最大値を代表値とした。EMGは,VLおよびVMに電極を接地しRoot Mean Squareを算出し,VLに対するVMの筋電活動の値(VM/VL値)を代表値とした。運動関連領野の酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)は,光トポグラフィー装置(Near-infrared spectroscopy:NIRS)ETG-4000(日立メディコ)を使用した。NIRSの測定は,全44チャネル(左右大脳半球各22チャネル)を国際10-20法のC3,C4を基準として運動関連領野前部(補足運動野,運動前野)と後部(一次運動野)などを覆うように配置し,頭部が動かないように固定した。Oxy-Hbは,安静時5秒間の平均値をベースラインとして加算平均を行い,Oxy-Hbの最大振幅値を代表値とした。E-BFは,筋測くんMA-2000W(追坂電子機器)を用い,膝伸展等尺性収縮時に60~80%MVCを出力するように聴覚および視覚にフィードバックした。課題運動は,端座位から股関節外転20°,外旋20°,足関節背屈の膝伸展位を終了肢位とし,膝伸展2秒間,等尺性収縮6秒間,屈曲2秒間の順で実施した。運動プロトコールは,課題運動5施行を1セットとして,セットごとに3分間の休息をとり4セット実施した。測定順は,初期の下肢筋機能,課題運動時のNIRS,最終の下肢筋機能とした。
【説明と同意】本研究は国際医療福祉大学倫理委員会の承認を得て,対象者に実験内容を十分に説明し,書面による同意を得た後に実施した。
【結果】受傷脚におけるE-BF後のVM/VL値は,E-BF前と比較して52.9%の有意な増加がみられた(p<0.05)。Oxy-Hb最大振幅値は,対側運動関連領野で課題運動前半に比べ後半で増加がみられ,対側運動関連領野前部で有意な増加があった(p<0.05)。またE-BF後の等尺性膝伸展筋力は有意差がなかった。
【考察】VM/VL値はE-BF後に増加した。短期間での筋出力増加は,運動単位の動員数や発火頻度の増加および同期化による神経系に起因するとされている。また筋出力の増加により対側一次運動野の活動が増加するとの報告がある。E-BFによる選択的筋収縮課題は,中枢および末梢での神経性要因を誘発し,VM/VL値を増加させたと考えられる。また対側運動関連領野のOxy-Hb最大振幅値は課題運動中に増加がみられた。視覚へのフィードバックは,運動学習初期に頭頂皮質-運動前野のネットワークの働きを増加させるとの報告がある。運動学習過程において,運動前野は運動プログラムを企図し,小脳が実際の運動との誤差によるフィードバック誤差学習を担い,補足運動野が学習記憶に基づいた運動実行機能を担うとされる。また補足運動野は学習後期に多く関与するとの報告もある。今回,E-BF実施中の運動関連領野前部におけるOxy-Hbの有意な増加は,選択的筋収縮の運動学習過程における脳循環動態の変化を観察できた可能性がある。本研究の結果,E-BFを用いたVMの選択的課題運動は,運動学習過程に関与する運動関連領野の活動に影響を及ぼすことが示唆された。今後,対象者を増やすとともに長期における運動学習過程での運動関連領野の活動の変化を検討したい。
【理学療法学研究としての意義】運動学習過程における運動関連領野の活動を調査することは,臨床現場において効果的なフィードバック方法や運動課題を選択,提供する上で重要である。
【方法】対象は膝疾患既往者7名(男性4名,女性3名)とし,平均年齢25.9±6.5歳であった。下肢筋機能の測定として,等尺性膝伸展筋力はBIODEX SYSTEM3(BIODEX),VMおよび外側広筋(VL)の筋電活動は表面筋電図(Electromyography:EMG)Km-818T(メディエリアサポート)を使用した。測定肢位は,座位で腕を胸の前で組み,膝関節屈曲20°とした。等尺性膝伸展筋力は,収縮時間5秒間で2回測定し,最大値を代表値とした。EMGは,VLおよびVMに電極を接地しRoot Mean Squareを算出し,VLに対するVMの筋電活動の値(VM/VL値)を代表値とした。運動関連領野の酸素化ヘモグロビン(Oxy-Hb)は,光トポグラフィー装置(Near-infrared spectroscopy:NIRS)ETG-4000(日立メディコ)を使用した。NIRSの測定は,全44チャネル(左右大脳半球各22チャネル)を国際10-20法のC3,C4を基準として運動関連領野前部(補足運動野,運動前野)と後部(一次運動野)などを覆うように配置し,頭部が動かないように固定した。Oxy-Hbは,安静時5秒間の平均値をベースラインとして加算平均を行い,Oxy-Hbの最大振幅値を代表値とした。E-BFは,筋測くんMA-2000W(追坂電子機器)を用い,膝伸展等尺性収縮時に60~80%MVCを出力するように聴覚および視覚にフィードバックした。課題運動は,端座位から股関節外転20°,外旋20°,足関節背屈の膝伸展位を終了肢位とし,膝伸展2秒間,等尺性収縮6秒間,屈曲2秒間の順で実施した。運動プロトコールは,課題運動5施行を1セットとして,セットごとに3分間の休息をとり4セット実施した。測定順は,初期の下肢筋機能,課題運動時のNIRS,最終の下肢筋機能とした。
【説明と同意】本研究は国際医療福祉大学倫理委員会の承認を得て,対象者に実験内容を十分に説明し,書面による同意を得た後に実施した。
【結果】受傷脚におけるE-BF後のVM/VL値は,E-BF前と比較して52.9%の有意な増加がみられた(p<0.05)。Oxy-Hb最大振幅値は,対側運動関連領野で課題運動前半に比べ後半で増加がみられ,対側運動関連領野前部で有意な増加があった(p<0.05)。またE-BF後の等尺性膝伸展筋力は有意差がなかった。
【考察】VM/VL値はE-BF後に増加した。短期間での筋出力増加は,運動単位の動員数や発火頻度の増加および同期化による神経系に起因するとされている。また筋出力の増加により対側一次運動野の活動が増加するとの報告がある。E-BFによる選択的筋収縮課題は,中枢および末梢での神経性要因を誘発し,VM/VL値を増加させたと考えられる。また対側運動関連領野のOxy-Hb最大振幅値は課題運動中に増加がみられた。視覚へのフィードバックは,運動学習初期に頭頂皮質-運動前野のネットワークの働きを増加させるとの報告がある。運動学習過程において,運動前野は運動プログラムを企図し,小脳が実際の運動との誤差によるフィードバック誤差学習を担い,補足運動野が学習記憶に基づいた運動実行機能を担うとされる。また補足運動野は学習後期に多く関与するとの報告もある。今回,E-BF実施中の運動関連領野前部におけるOxy-Hbの有意な増加は,選択的筋収縮の運動学習過程における脳循環動態の変化を観察できた可能性がある。本研究の結果,E-BFを用いたVMの選択的課題運動は,運動学習過程に関与する運動関連領野の活動に影響を及ぼすことが示唆された。今後,対象者を増やすとともに長期における運動学習過程での運動関連領野の活動の変化を検討したい。
【理学療法学研究としての意義】運動学習過程における運動関連領野の活動を調査することは,臨床現場において効果的なフィードバック方法や運動課題を選択,提供する上で重要である。