第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

運動制御・運動学習10

2014年5月30日(金) 17:10 〜 18:00 ポスター会場 (基礎)

座長:木村貞治(信州大学医学部保健学科理学療法学専攻)

基礎 ポスター

[0608] 歩き始めにおける下腿三頭筋の収縮動態

佐藤貴徳1, 工藤慎太郎2, 久田智之1 (1.老人保健施設和合の里リハビリテーション科, 2.国際医学技術専門学校理学療法学科)

キーワード:歩行開始, 下腿三頭筋, 超音波画像診断装置

【はじめに,目的】
歩行開始時の力学的特徴は下腿三頭筋の活動低下とそれに続く前脛骨筋の活動による足圧中心(以下COP)の後方移動である。このCOPの後方移動により,前方への回転が生じることで重心が前方に移動する。また,Hallidayらは,高齢者やパーキンソン病(以下PD)ではこのCOPの後方移動が少なくなることを報告している。特にPD患者においては,下腿三頭筋と前脛骨筋のアンバランスや姿勢不良などから,歩行開始時間の延長やすくみ足といった,いわゆるfreezing gaitが認められ問題となる。この歩行開始時における先行研究は,HallidayらのCOPの移動に関するものや,Elbleらの筋電図を用いた研究により,下腿三頭筋の張力が低下することが示唆されている。Schmidtは運動学習を促すには異なる2つの課題間の類似性が重要になると述べている。そのため,PDや高齢者の歩行開始時の動作を変容するためには,その動作に類似した課題を設定すべきである。しかし,歩行開始時の下腿三頭筋の動態を示した研究は見当たらない。そこで本研究の目的は,歩行開始時における下腿三頭筋の収縮動態を,超音波画像診断装置を用いて検討することである。
【方法】
対象は下肢に整形外科的疾患の無い健常成人13名(男性9名,女性4名,平均年齢23.9±5.7歳)とした。超音波撮影部位は右腓腹筋内側頭近位1/3とした。動作課題は安静立位から測定肢から歩き始める“振り出し側課題(以下swing task)”と測定肢で支持し,対側下肢から歩き始める“支持側課題(以下support task)”の2つとした。その際,第一歩目の歩幅は身長の36%と規定した。超音波画像診断装置は株式会社日立メディコ社製のMy Lab.25を使用した。記録した動画をAviUtlにて静止画に変換後,Image-Jにて筋厚と羽状角を求め,三角関数を用いて筋線維束長を算出した。各課題はビデオカメラにて撮影し,動画をAviUtlにて静止画に変換後,安静立位から歩行開始までの静止画を抽出した。この両者を同期して安静立位から歩行開始までの腓腹筋内側頭の動態の変化を追った。求心性方向への変化を正,遠心性方向への変化を負として,安静立位時筋線維束長と歩行開始時筋線維束長との差を筋線維束長変化量として算出し,swing task,support taskごとに比較検討した。統計学的手法にはwilcoxonの順位和検定を用いて有意水準5%未満で検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には,本研究の趣旨,対象者の権利を十分説明し,紙面上にて同意を得た。
【結果】
swing taskにおける筋線維束長は,安静時が56.5(48.5-62.5)mm,歩行開始時が66.1(53.9-79.2)mmとなり,有意差を認めた(p<0.001)。筋線維束長変化量は-8.6±5.5mmであった。support taskにおける筋線維束長は,安静時が52.9(48.3-58.7)mm,歩行開始時が60.8(48.1-72.1)mmとなり,有意差を認めた(p<0.05)。筋線維束長変化量は-5.8±7.2mmであった。swing taskでは全例で負の変化のみを認めたが,support taskでは負の変化のみを認めるものと,正への変化後に負の変化をするものとの2通りが認められたため,ばらつきが大きくなっていた。後者における正への筋線維束長変化量は5.9±3.4mmであった。
【考察】
歩行は下腿三頭筋の活動低下とそれに続く前脛骨筋の活動により開始される。今回,swing task,support taskともに安静時-歩行開始時に有意差を認め,変化量が負を示した。つまり,下腿三頭筋の筋活動が低下する際に筋線維束は伸張されることが示唆された。swing taskでは全例においてこのような動態が認められた。しかしながら,support taskでは,swing taskと同様に,運動開始時に下腿三頭筋が伸張されるものと,一旦,短縮した後に伸張されるものの2通りを認めた。後者について,測定時の左右脚荷重量の差による可能性が考えられた。つまり,安静立位において,振り出し側の荷重量が支持側より多くなっていて,振り出す際に,支持側への荷重量が増加したため筋活動が出現し,一旦短縮したものと考えた。その後COPの後方移動が起きたため,下腿三頭筋が伸長された可能性が考えられた。本研究の限界は,COPと荷重量を計測していないことである。そのため,左右の脚への荷重量を統一しきれず,特にsupport taskでばらつきが生じた可能性が考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
正常歩行の歩き始めは,定常歩とは異なる運動力学的特性を示す。姿勢保持から動作への運動が変化する際には,COPや床反力ベクトルが刻々と変化する。その際の運動力学的変化を導くことが,PDや高齢者における転倒リスクの軽減につながると考えている。今回の研究により,その運動力学的変化をもたらす下腿三頭筋の動態を示したことで,運動療法により,導くべき筋収縮の動態を示すことができたと考える。