[0610] 脳損傷患者の視覚依存と非麻痺側片脚立位の運動学習効果の関係
Keywords:脳損傷, 視覚依存, 運動学習
【はじめに,目的】
脳損傷患者は,脳機能の障害などの理由から姿勢制御能力が低下し,非麻痺側を中心とした片脚立位においても介助を要することがある。その原因については様々な研究報告があるが,近年では感覚戦略の考え方に基づき,視覚系に対する依存度による姿勢制御能力の相違についての報告がみられる。しかし,症例報告や視覚依存と姿勢制御能力に着目した報告はあるが,多症例から視覚依存度と非麻痺側の片脚立位に対する介入効果との関連をみた報告はみられない。そこで,本研究では,脳損傷患者において非麻痺側片脚立位の練習効果に影響を与える因子を明らかにするために,視覚依存度と非麻痺側片脚立位の練習効果の関連を調査した。
【方法】
対象は,急性期大学病院にて理学療法を実施した脳損傷患者35名とした。対象者の属性は,年齢(mean±SD)が60.6±15.1歳,発症からの日数(mean±SD)が19.9±13.5日,麻痺側が右24名・左11名であった。介入・重心動揺測定は非麻痺側での片脚立位姿勢とし,介入は休憩を含んだ10分間の片脚立位練習とし,その前後で重心動揺測定を行った。測定項目は,重心動揺計による重心動揺測定,下肢筋力,運動麻痺,感覚障害,注意障害とした。重心動揺測定で得られた,重心位置や重心動揺面積などの結果を理学療法士が総合的に判断し,介入前後での変化を「改善度」として6段階で評価した(1:著しく不安定になった,2:不安定になった,3:少し不安定になった,4:少し安定した,5:安定した,6:著しく安定した)。この評価法の級内相関係数はICC(2.1)0.896であった。介入前の重心動揺測定は開眼・閉眼の2条件で行い,上記と同様の方法で開眼条件に対する閉眼条件での変化を「視覚依存度」として6段階で評価した(1:著しく視覚に依存している,2:視覚に依存している,3:少し視覚に依存している,4:あまり視覚に依存していない,5:視覚に依存していない,6:全く視覚に依存していない)。この評価法の級内相関係数はICC(2.1)0.951であった。分析は,改善度と各測定項目の関連をスピアマンの順位相関係数,χ2検定を用いて検討し,関係の強かった項目については,ROC曲線を用いて非麻痺側片脚立位の改善の有無を予測するカットオフ値を推定した。統計解析には,IBM SPSS Statistics Ver.22.0を用い,全ての検定において有意水準はp=0.05とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属機関の倫理委員会による承認を受けており(承認番号:752),全対象に研究内容の説明を行い,書面にて同意を得たうえで実施した。
【結果】
非麻痺側片脚立位の改善度と各項目の相関係数をみると,視覚依存度ではr=0.465(p<0.01),下肢筋力ではr=-0.29(p=0.08),運動麻痺ではr=-0.246(p=0.15),表在覚ではr=-0.26(p=0.13),深部覚ではr=-0.76(p=0.66)となり,非麻痺側片脚立位の改善度と視覚依存度の間にのみ有意な相関を認めた。視覚依存度のカットオフ値は3.5となった。視覚依存度が3.5未満の群では6/15例(40%)で改善を示したのに対し,視覚依存度が3.5以上の群では16/20例(80%)で改善を示した。視覚依存度による非麻痺側片脚立位の改善を判定する予測値を示すROC曲線の曲線下面積は0.698であり,感度は0.727,特異度は0.692であった。
【考察】
小泉らは視覚情報に過度に依存した症例に対して視覚情報に頼らず体性感覚情報に注意を向けさせて動作練習を行う事で,姿勢過緊張と歩行時のふらつきが軽減したと報告している。しかし,このような報告は症例報告であるため,どの程度の視覚依存があるときに練習効果に差が出るのかは明らかでなかった。今回,我々は多症例での検討から,視覚依存度4以上とすることで,短時間の片脚立位練習によって即時的な姿勢制御能力の改善を予測値0.698で予測できることを明らかにした。今後は,視覚依存度を評価する事でより効果的な理学療法プログラムを立案できるようになることが期待されるが,片脚立位能力以外の姿勢や基本動作能力に対する視覚依存度の評価の意義や視覚依存の程度による最適な理学療法の確立については今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】
脳損傷患者における非麻痺側の片脚立位練習の即時効果に視覚依存度が影響を与えるを明らかにし,即時効果を判定する具体的指標を算出した。
脳損傷患者は,脳機能の障害などの理由から姿勢制御能力が低下し,非麻痺側を中心とした片脚立位においても介助を要することがある。その原因については様々な研究報告があるが,近年では感覚戦略の考え方に基づき,視覚系に対する依存度による姿勢制御能力の相違についての報告がみられる。しかし,症例報告や視覚依存と姿勢制御能力に着目した報告はあるが,多症例から視覚依存度と非麻痺側の片脚立位に対する介入効果との関連をみた報告はみられない。そこで,本研究では,脳損傷患者において非麻痺側片脚立位の練習効果に影響を与える因子を明らかにするために,視覚依存度と非麻痺側片脚立位の練習効果の関連を調査した。
【方法】
対象は,急性期大学病院にて理学療法を実施した脳損傷患者35名とした。対象者の属性は,年齢(mean±SD)が60.6±15.1歳,発症からの日数(mean±SD)が19.9±13.5日,麻痺側が右24名・左11名であった。介入・重心動揺測定は非麻痺側での片脚立位姿勢とし,介入は休憩を含んだ10分間の片脚立位練習とし,その前後で重心動揺測定を行った。測定項目は,重心動揺計による重心動揺測定,下肢筋力,運動麻痺,感覚障害,注意障害とした。重心動揺測定で得られた,重心位置や重心動揺面積などの結果を理学療法士が総合的に判断し,介入前後での変化を「改善度」として6段階で評価した(1:著しく不安定になった,2:不安定になった,3:少し不安定になった,4:少し安定した,5:安定した,6:著しく安定した)。この評価法の級内相関係数はICC(2.1)0.896であった。介入前の重心動揺測定は開眼・閉眼の2条件で行い,上記と同様の方法で開眼条件に対する閉眼条件での変化を「視覚依存度」として6段階で評価した(1:著しく視覚に依存している,2:視覚に依存している,3:少し視覚に依存している,4:あまり視覚に依存していない,5:視覚に依存していない,6:全く視覚に依存していない)。この評価法の級内相関係数はICC(2.1)0.951であった。分析は,改善度と各測定項目の関連をスピアマンの順位相関係数,χ2検定を用いて検討し,関係の強かった項目については,ROC曲線を用いて非麻痺側片脚立位の改善の有無を予測するカットオフ値を推定した。統計解析には,IBM SPSS Statistics Ver.22.0を用い,全ての検定において有意水準はp=0.05とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は所属機関の倫理委員会による承認を受けており(承認番号:752),全対象に研究内容の説明を行い,書面にて同意を得たうえで実施した。
【結果】
非麻痺側片脚立位の改善度と各項目の相関係数をみると,視覚依存度ではr=0.465(p<0.01),下肢筋力ではr=-0.29(p=0.08),運動麻痺ではr=-0.246(p=0.15),表在覚ではr=-0.26(p=0.13),深部覚ではr=-0.76(p=0.66)となり,非麻痺側片脚立位の改善度と視覚依存度の間にのみ有意な相関を認めた。視覚依存度のカットオフ値は3.5となった。視覚依存度が3.5未満の群では6/15例(40%)で改善を示したのに対し,視覚依存度が3.5以上の群では16/20例(80%)で改善を示した。視覚依存度による非麻痺側片脚立位の改善を判定する予測値を示すROC曲線の曲線下面積は0.698であり,感度は0.727,特異度は0.692であった。
【考察】
小泉らは視覚情報に過度に依存した症例に対して視覚情報に頼らず体性感覚情報に注意を向けさせて動作練習を行う事で,姿勢過緊張と歩行時のふらつきが軽減したと報告している。しかし,このような報告は症例報告であるため,どの程度の視覚依存があるときに練習効果に差が出るのかは明らかでなかった。今回,我々は多症例での検討から,視覚依存度4以上とすることで,短時間の片脚立位練習によって即時的な姿勢制御能力の改善を予測値0.698で予測できることを明らかにした。今後は,視覚依存度を評価する事でより効果的な理学療法プログラムを立案できるようになることが期待されるが,片脚立位能力以外の姿勢や基本動作能力に対する視覚依存度の評価の意義や視覚依存の程度による最適な理学療法の確立については今後の課題である。
【理学療法学研究としての意義】
脳損傷患者における非麻痺側の片脚立位練習の即時効果に視覚依存度が影響を与えるを明らかにし,即時効果を判定する具体的指標を算出した。