[0611] 随意的咳嗽力に影響を及ぼす関連因子
キーワード:誤嚥性肺炎, 随意的咳嗽力, 関連因子
【はじめに,目的】
肺炎は日本人の死因第3位であり,肺炎入院患者のうち誤嚥性肺炎が占める割合は高い。誤嚥性肺炎では摂食・嚥下機能低下とともに咳嗽機能低下も認める。咳嗽機能低下は,誤嚥時や喀痰時に喉頭侵入物や分泌物の喀出を困難にする。咳嗽機能は咳嗽反射と咳嗽力に分けられ,咳嗽力は栄養状態や肺活量,呼吸筋力などとの関係性が報告されている。しかし,咳嗽メカニズムの各相に影響すると予測される胸郭可動域や声門閉鎖機能は,咳嗽力との関連性の報告が少なく,誤嚥性肺炎発症に関係する口腔乾燥は咳嗽力との関連性は明らかでない。
本研究では随意的咳嗽力に影響を及ぼす関連因子を検討することを目的とした。
【方法】
対象はBarthel Index100点かつ嚥下障害のない48~72歳の中高年者16名である(平均年齢56.5±7.1歳,身長161.7±9.6cm,体重57.4±13.7kg)。意思疎通困難な認知症と高次脳機能障害,脳卒中,慢性閉塞性肺疾患,肺結核後遺症,活動性の呼吸器疾患を有する者は除外した。
咳嗽力に関連する予測因子は,胸郭可動域を反映する胸郭拡張差,声門閉鎖機能を反映する最長発声持続時間(以下MPT),口腔乾燥を反映する口腔湿潤度,肺活量などの呼吸機能,呼吸筋力を反映する最大吸気圧(以下PImax),最大呼気圧(以下PEmax)とした。測定肢位は背もたれのある椅子座位とした。咳嗽力は随意的咳嗽力を反映する咳嗽時最大呼気流速(以下CPF)を指標とし,アセスピークフローメータ(フィリップス・レスピロニクス合同会社)にフェイスマスクを接続したものを用いて測定した。測定時には空気漏れを防ぐため測定器具を顔面に密着させ,最大吸気位からの随意的でかつ全力での咳嗽を行うよう指示し,3回測定して最高値を採用した。胸郭拡張差は最大吸気時と最大呼気時における両側腋窩高と剣状突起高の胸郭周径をテープメジャーにて1回測定した。MPTは最大吸気位から発声を始め,また途中で発声を止めず最後まで発声の努力を続けるよう指示し,ストップウオッチにて1回測定した。口腔湿潤度は口腔水分計ムーカスR(ライフ社)を用いて測定した。5分間の安静後,ムーカスを用いて200g程度の測定圧で圧接して測定し,測定部位は舌先端から約10 mmの舌背部の舌粘膜とした。3回測定して中央値を採用した。呼吸機能,呼吸筋力はオートスパイロAS-507(ミナト医科学)を使用し,ノーズクリップ装着,マウスピースをくわえさせて肺活量(以下VC),努力性肺活量(以下FVC),一秒量(以下FEV1.0),最大呼気流量(以下PEFR),PImax,PEmaxを求めた。測定回数は1回とした。PImaxは残気量位から最大吸気努力を,PEmaxは最大吸気位から最大呼気努力を促し,それぞれ3秒保持させた。
CPFと各因子との関係はSpearman順位相関を用いて分析し,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,兵庫医療大学倫理審査委員会の承認(第12016号)を得て実施した。全ての対象者には紙面および口頭で本研究の趣旨と目的等の説明を十分に行い,本研究への参加について本人の自由意思による同意を文書にて取得した。
【結果】
CPFと関係性を認めたのはMPT(r=0.53,p<0.05),VC(r=0.6,p<0.05),FVC(r=0.71,p<0.01),FEV1.0(r=0.68,p<0.01),PEFR(r=0.65,p<0.01),PImax(r=0.6,p<0.05),PEmax(r=0.61,p<0.05)であった。
CPFと胸郭拡張差(腋窩高,剣状突起高),口腔湿潤度は関係性を認めなかった。口腔湿潤度は28.1±1.4%でやや乾燥状態を示した。
【考察】
VC,FVC,FEV1.0,PEFR,PImax,PEmaxは先行研究と同様にCPFと関係性を認めた。MPTもCPFと関係性を認め,咳嗽メカニズムの第3相(圧縮)に関与し,咳嗽に必要な声門閉鎖を簡便に評価できる測定法であると考えられた。胸郭拡張差は第2相(吸気)に関与すると考えたが関係性はみられなかった。第2相では胸郭可動域よりも吸気筋力の及ぼす影響が大きいと推測される。しかし,吸気筋力が弱い場合,吸気量は胸郭可動域に影響を受けると推測されるため,今後も引き続き検討が必要である。口腔湿潤度は咳嗽力に直接関係しないもののやや乾燥を示した。更なる加齢や何らかの疾患イベントの発症によって口腔乾燥は悪化し,痰が存在する場合,その性状に影響を及ぼして喀痰を困難にする可能性があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
随意的咳嗽力の関連因子を検討することは,咳嗽力改善による誤嚥性肺炎予防・改善を図るための基礎的研究であり意義のあるものと考える。
肺炎は日本人の死因第3位であり,肺炎入院患者のうち誤嚥性肺炎が占める割合は高い。誤嚥性肺炎では摂食・嚥下機能低下とともに咳嗽機能低下も認める。咳嗽機能低下は,誤嚥時や喀痰時に喉頭侵入物や分泌物の喀出を困難にする。咳嗽機能は咳嗽反射と咳嗽力に分けられ,咳嗽力は栄養状態や肺活量,呼吸筋力などとの関係性が報告されている。しかし,咳嗽メカニズムの各相に影響すると予測される胸郭可動域や声門閉鎖機能は,咳嗽力との関連性の報告が少なく,誤嚥性肺炎発症に関係する口腔乾燥は咳嗽力との関連性は明らかでない。
本研究では随意的咳嗽力に影響を及ぼす関連因子を検討することを目的とした。
【方法】
対象はBarthel Index100点かつ嚥下障害のない48~72歳の中高年者16名である(平均年齢56.5±7.1歳,身長161.7±9.6cm,体重57.4±13.7kg)。意思疎通困難な認知症と高次脳機能障害,脳卒中,慢性閉塞性肺疾患,肺結核後遺症,活動性の呼吸器疾患を有する者は除外した。
咳嗽力に関連する予測因子は,胸郭可動域を反映する胸郭拡張差,声門閉鎖機能を反映する最長発声持続時間(以下MPT),口腔乾燥を反映する口腔湿潤度,肺活量などの呼吸機能,呼吸筋力を反映する最大吸気圧(以下PImax),最大呼気圧(以下PEmax)とした。測定肢位は背もたれのある椅子座位とした。咳嗽力は随意的咳嗽力を反映する咳嗽時最大呼気流速(以下CPF)を指標とし,アセスピークフローメータ(フィリップス・レスピロニクス合同会社)にフェイスマスクを接続したものを用いて測定した。測定時には空気漏れを防ぐため測定器具を顔面に密着させ,最大吸気位からの随意的でかつ全力での咳嗽を行うよう指示し,3回測定して最高値を採用した。胸郭拡張差は最大吸気時と最大呼気時における両側腋窩高と剣状突起高の胸郭周径をテープメジャーにて1回測定した。MPTは最大吸気位から発声を始め,また途中で発声を止めず最後まで発声の努力を続けるよう指示し,ストップウオッチにて1回測定した。口腔湿潤度は口腔水分計ムーカスR(ライフ社)を用いて測定した。5分間の安静後,ムーカスを用いて200g程度の測定圧で圧接して測定し,測定部位は舌先端から約10 mmの舌背部の舌粘膜とした。3回測定して中央値を採用した。呼吸機能,呼吸筋力はオートスパイロAS-507(ミナト医科学)を使用し,ノーズクリップ装着,マウスピースをくわえさせて肺活量(以下VC),努力性肺活量(以下FVC),一秒量(以下FEV1.0),最大呼気流量(以下PEFR),PImax,PEmaxを求めた。測定回数は1回とした。PImaxは残気量位から最大吸気努力を,PEmaxは最大吸気位から最大呼気努力を促し,それぞれ3秒保持させた。
CPFと各因子との関係はSpearman順位相関を用いて分析し,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,兵庫医療大学倫理審査委員会の承認(第12016号)を得て実施した。全ての対象者には紙面および口頭で本研究の趣旨と目的等の説明を十分に行い,本研究への参加について本人の自由意思による同意を文書にて取得した。
【結果】
CPFと関係性を認めたのはMPT(r=0.53,p<0.05),VC(r=0.6,p<0.05),FVC(r=0.71,p<0.01),FEV1.0(r=0.68,p<0.01),PEFR(r=0.65,p<0.01),PImax(r=0.6,p<0.05),PEmax(r=0.61,p<0.05)であった。
CPFと胸郭拡張差(腋窩高,剣状突起高),口腔湿潤度は関係性を認めなかった。口腔湿潤度は28.1±1.4%でやや乾燥状態を示した。
【考察】
VC,FVC,FEV1.0,PEFR,PImax,PEmaxは先行研究と同様にCPFと関係性を認めた。MPTもCPFと関係性を認め,咳嗽メカニズムの第3相(圧縮)に関与し,咳嗽に必要な声門閉鎖を簡便に評価できる測定法であると考えられた。胸郭拡張差は第2相(吸気)に関与すると考えたが関係性はみられなかった。第2相では胸郭可動域よりも吸気筋力の及ぼす影響が大きいと推測される。しかし,吸気筋力が弱い場合,吸気量は胸郭可動域に影響を受けると推測されるため,今後も引き続き検討が必要である。口腔湿潤度は咳嗽力に直接関係しないもののやや乾燥を示した。更なる加齢や何らかの疾患イベントの発症によって口腔乾燥は悪化し,痰が存在する場合,その性状に影響を及ぼして喀痰を困難にする可能性があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
随意的咳嗽力の関連因子を検討することは,咳嗽力改善による誤嚥性肺炎予防・改善を図るための基礎的研究であり意義のあるものと考える。