第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

身体運動学4

Fri. May 30, 2014 5:10 PM - 6:00 PM ポスター会場 (基礎)

座長:豊田和典(JAとりで総合医療センターリハビリテーション部)

基礎 ポスター

[0612] 舌筋力と口腔周囲筋力の関係

小串直也, 羽﨑完 (大阪電気通信大学医療福祉工学部)

Keywords:舌筋, 口腔周囲筋, 嚥下障害

【はじめに,目的】
舌は筋によって大部分が形成されており,咀嚼や嚥下,構音などに関係している。特に舌は嚥下において咽頭への食塊移送で重要な働きをする。舌筋力が低下すると,舌を口蓋に押しつけて食塊移送することが困難となり,口腔周囲筋が代償的に働くとされている。このことから,舌と口腔周囲は嚥下において密接に関係していると考える。舌と口腔周囲の関係について,先行研究では超音波やEMGを用いて検討されている。しかし,その関係を筋力の視点から検討した報告はない。そこで,本研究では舌筋力と口腔周囲筋力の関係について検討した。
【方法】
対象は,口腔機能に異常のない大学生31名(平均年齢20.5±0.8歳)とした。使用機器は,舌筋力の測定では舌筋力計(竹井機器工業株式会社製)と舌圧子(メディポートホック有限会社製)を用いた。口唇閉鎖力の測定では,舌筋力計とボタンプル運動用ボタン(新潟県歯科保健協会仕様)を用いた。測定は舌突出筋力と舌挙上筋力,ボタンプルによる口唇閉鎖力の3項目とし,順序は無作為として,各2回ずつ測定した。舌突出筋力の測定では口唇に舌圧子を当て,舌圧子に向かって舌を最大の力で突き出させた。舌挙上筋力の測定ではまず被験者に開口させ,検者は口腔内で舌圧子を固定した。そして,被験者に最大の力で舌を押し上げさせた。口唇閉鎖力の測定はまず,ボタンを歯列と口唇の間に入れさせ,口から出ないように保持させた。そして,検者はボタンにつけた糸をボタンが口から出るまで牽引した。測定肢位はすべて椅坐位とし,頭頸部はフランクフルト平面が床と平行になるよう眼球運動アゴ台(竹井機器工業株式会社製)に固定した。分析は各々の1回目と2回目の平均値を代表値として,舌突出筋力と口唇閉鎖力および舌挙上筋力と口唇閉鎖力のPearsonの積率相関係数を求めた。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者の個人情報は,本研究にのみ使用し個人が特定できるような使用方法はしないことや研究の趣旨などの説明を十分に行った上で,対象者の同意が得られた場合にのみ本研究を実施した。
【結果】
Pearsonの積率相関係数を求めた結果,舌突出筋力と口唇閉鎖力との相関係数は0.637,舌挙上筋力と口唇閉鎖力との相関係数は0.603となり,いずれも有意な強い正の相関が認められた(p<0.01)。
【考察】
今回の研究で舌筋力と口腔周囲筋力は有意な正の相関関係にあり,舌と口腔周囲は筋力においても密接に関係していることが明らかになった。一般的に舌筋力低下は嚥下障害における問題点の一つであるとされており,舌挙上筋力の低下は嚥下時の食物残留やむせと関係していると報告されている。そのため,臨床においても嚥下障害患者に対して舌負荷運動が実施されており,Robbinsらは嚥下障害患者に舌負荷運動を行い,舌筋力と嚥下能力の改善を認めている。それに対し,口腔周囲筋に関しては正常者の嚥下において口輪筋は口腔期・咽頭期に関与しており,嚥下時に口輪筋の活動を反映した口唇圧が発現すると報告されている。これらのことから,口輪筋は口腔期の食塊移送に関与しており,食塊移送時に主として働く舌筋群と協調して働いていると考える。Haggらは,嚥下障害患者に口唇負荷運動を行い,口唇筋力の増加と嚥下能力の改善を認めたとしている。このことについてGroherらは,口唇の負荷運動は嚥下の筋肉組織を強化し,嚥下機能を改善させる可能性があると述べている。本研究で舌と口腔周囲は筋力においても密接に関係していることが明らかになった。このことは,嚥下障害患者に対して口唇負荷運動の効果を証明したHaggらの報告を裏付けるものとなった。そのため,今後は嚥下における食塊移送は舌筋と口腔周囲筋の協調的な働きによって遂行されていると捉え,舌筋および口腔周囲筋に対してアプローチする必要がある。
【理学療法学研究としての意義】
近年,国内の高齢者人口は増加しており,それに伴い,嚥下諸器官の加齢変化により嚥下障害となる高齢者が増加している。また,脳血管障害や神経筋疾患などによる嚥下障害患者も増加しており,肺炎による死亡率は増加している。そのため,保健・医療分野において摂食・嚥下リハビリテーションに注目が集まっている。理学療法士は,姿勢保持や呼吸機能に関与しているものの,誤嚥につながる要因である口腔機能への視点は乏しい。今後は,嚥下障害を広く捉え,運動機能について専門性の高い理学療法士が,運動学に基づいたアプローチを舌や口腔周囲に対しても積極的に展開していく必要があると考える。その上で,本研究は舌筋力や口腔周囲筋力へのアプローチという嚥下障害に対しての理学療法の可能性を示すものとなったと考える。