第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

身体運動学4

2014年5月30日(金) 17:10 〜 18:00 ポスター会場 (基礎)

座長:豊田和典(JAとりで総合医療センターリハビリテーション部)

基礎 ポスター

[0613] 腰痛を呈する妊婦への超音波診断装置を用いた腹横筋エクササイズの効果

布施陽子1, 大野智子2, 浅香結実子2, 大和田沙和2, 矢崎高明2, 福井勉1 (1.文京学院大学, 2.東京北社会保険病院)

キーワード:腹横筋, 妊婦, 超音波診断装置

【はじめに,目的】
女性は妊娠によって様々な身体的変化を生じるが,妊婦は腹部が前方へ突出したsway-back姿勢となり易く,それに伴い骨盤帯機能が破綻し腰痛を生じてしまう可能性があると考えられる。骨盤帯機能を再構築するための方法のひとつに腹横筋エクササイズ(以下,EX)があり,従来検討を繰り返してきた(2009~2013布施)。今回,腰痛を呈する妊婦に対し,超音波診断装置を用いた腹横筋EXを実施し,身体機能に与える影響について検討したので報告する。
【方法】
対象者は腰痛を呈した妊婦8名(妊娠周期26.1±7.6週,平均年齢34.1±5.1歳,身長163.3±9.2cm,体重63.6±16.7kg,BMI=23.6±4.9kg/m2)とし,事前に医師による診察を実施し早産の危険性がないと判断された妊婦であった。対象者に対し,超音波診断装置による視覚的フィードバックを用いた腹横筋収縮学習を骨盤中間位の座位姿勢で実施した。収縮学習獲得後に10分間の腹横筋収縮を伴った呼吸運動を実施した。計測項目は,1)痛みスケール(VAS),2)右側腹筋群(外腹斜筋,内腹斜筋,腹横筋)筋厚,3)脊柱弯曲アライメント(胸椎後弯,腰椎前弯),4)周径(胸囲,アンダーバスト,腹囲,恥骨周囲径),5)筋硬度(L1,L3,L5レベルの右脊柱起立筋),6)頚管長の6項目とし,それぞれ目盛りのない10cm線,超音波診断装置(HITACHI Mylab Five),脊柱計測分析器Spinal Mouse(Index社製),メジャー,生体組織硬度計PEK-1(井元製作所製),経膣超音波(SIEMENS社製)を用いて計測し,1)は対象者による自己評価,2~5)は理学療法士による計測,そして6)は医師により実施された。頚管長測定は,介入による切迫の兆候の有無を確認するテストバッテリーとして実施した。また,計測肢位は2)骨盤中間座位,3,4,5)安静立位とした。2)はわれわれの先行研究で高い信頼性が得られた方法で実施した。すなわち上前腸骨棘と上後腸骨棘間の上前腸骨棘側1/3点を通る床と垂直な直線上で,肋骨下縁と腸骨稜間の中点にプローブを当てて,腹筋層筋膜が最も明瞭で平行線となるまで押した際の画像を静止画として記録した。記録した超音波静止画像上の筋厚は,筋膜の境界線を基準に左右それぞれについてScion Imageにて計測した。3)は第7頚椎から第3仙椎までの棘突起を計測し,胸椎後弯角と腰椎前弯角を算出し,分析には3回計測した結果の平均値を使用した。4,5)は各レベルでの値を3回計測し,その平均値を分析に使用した。以上6項目を,腹横筋EX介入前後に計測した。統計的解析はSPSSver18を使用し,対応のあるt検定を実施し有意水準5%未満で検討した。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は東京北社会保険病院医療倫理委員会の承認(承認番号:70)を得た上で,被験者に対して事前に研究趣旨について十分に説明した後,書面での同意を得て実施した。
【結果】
1.1)痛みスケール,2)右腹横筋厚,3)脊柱弯曲アライメント(胸椎後弯,腰椎前弯),4)恥骨周囲径,5)L1レベルの右脊柱起立筋硬度に有意差を認めた(p<0.05)。2.6)頸管長については差を認めなかった(p=0.097)。3.2)右内外腹斜筋厚,4)胸囲,アンダーバスト,腹囲,5)L3,5レベルの右脊柱起立筋硬度についても有意差を認めなかった(p>0.05)。
【考察】
本研究では,超音波診断装置による視覚的フィードバックを用いた腹横筋収縮学習を行い,その後腹横筋収縮を伴った呼吸運動を実施した結果,身体機能変化を認めた。腹横筋は姿勢保持作用・腹腔内圧調整作用を持つと言われているため,結果1より立位姿勢を保持するとき,腹横筋機能が向上することで背部筋群の活動が抑制され脊柱の過度な弯角が減少し痛みの減少に繋がったと考えられる。また,内外腹斜筋厚は変化せず腹横筋厚のみ増加したため,恥骨周囲径に変化を与えたと考えられる。L1レベルでのみ変化があった事については,子宮上端がL1レベルとなる被験者が多かった事によるものと考えられる。さらに,妊娠24週未満で頚管長が30mm以下であれば切迫早産の徴候であり,25mm以下では標準的な頚管長に比べ6倍以上早産になりやすいとされていることから,結果2より介入前後で頸管長に差を認めなかったことは,本研究での実施内容は早産リスクを高めるEXではないと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
本研究結果から超音波診断装置を用いた腹横筋EXが腰痛を呈した妊婦に対して安全かつ有効なEXであることが示された。腹横筋厚,脊柱アライメント,恥骨周囲径,筋硬度は,腰痛を呈する妊婦への身体機能評価項目として適当であると考えられる。今後,妊娠経過に伴う姿勢制御機能破綻から引き起こされる疼痛に対する予防的位置付けとして理学療法は貢献できると考えられる。