第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 基礎理学療法 ポスター

身体運動学4

Fri. May 30, 2014 5:10 PM - 6:00 PM ポスター会場 (基礎)

座長:豊田和典(JAとりで総合医療センターリハビリテーション部)

基礎 ポスター

[0614] 正常歩行時の側腹筋群の動態

三津橋佳奈1, 工藤慎太郎2, 前沢智美3, 川村和之2 (1.伊東整形外科リハビリテーション科, 2.国際医学技術専門学校理学療法学科, 3.四軒家整形外科クリニックリハビリテーション科)

Keywords:超音波画像診断装置, 歩行, 側腹筋群

【はじめに,目的】
石井によると,重力環境において状況に応じてダイナミックに,また調節的に運動させるためには,体幹の動的安定性は非常に重要である,と述べている。動作時の体幹の安定性の低下は,身体重心の過剰な動揺による動作効率を低下させるため問題となる。また,安定性の低下を代償するために,骨盤や腰椎の運動性を低下させ,腰痛を引き起こしている症例に遭遇することもある。Neumannによると,歩行中,身体は二つの機能的単位である“パッセンジャー(上半身と骨盤)”と“ロコモーター(骨盤と下半身)”に分けられるとし,“パッセンジャー”の唯一の機能は自らの姿勢を保つこと,と述べている。つまり,歩行中の体幹筋には自らの姿勢を保つ為のDynamicな調節が求められる。このような筋収縮を動作中に発揮するためのトレーニングには,運動学習理論が必要になる。Schmidtは,運動学習において,運動を転移させるには,2つの運動課題の類似性が重要としている。つまり,歩行中の体幹筋の収縮をトレーニングするには,その体幹筋の収縮に類似したトレーニングが必要になる。臨床において腹筋群のトレーニングとして,sit-upやブリッジ,コアエクササイズなどが用いられている。しかしそれらのトレーニングが歩行時の腹筋群の動態を再現しているかは疑問が残る。この疑問を解決するには,まず歩行中の体幹筋の動態を明らかにしなくてはならない。そこで本研究の目的は歩行中の体幹筋の動態を示すこととした。
【方法】
対象は健常成人男性9名の左側とした。超音波画像診断装置には,日立メディコ社製MyLab25を用いて,Bモード,12MHzのリニアプローブを使用した。臍レベルで腹直筋の外側端,外腹斜筋(EO),内腹斜筋(IO),腹横筋(TrA)の筋腹が超音波画像として同時に得られる部位を,体幹の長軸に対して短軸走査となるように自作した固定装置を用いて,プローブを固定した。超音波画像診断装置とデジタルビデオカメラを同期し,トレッドミル上での歩行(4.7km/h)を左側から観察した。歩行は,ランチョ・ロス・アミーゴ方式を用いて細分化した。得られた歩行周期中の超音波の画像から,初期接地(IC)と立脚終期(TSt)の3筋の内側端の座標と,各筋の筋厚の最大値をImage-Jを用いて測定した。ICを基準としたときのTStでの内側端の内・外側方向への移動距離と筋厚の変化量(筋厚変化量)をそれぞれ計測した。統計学的手法として,各筋のICとTStの移動距離・筋厚変化量の違いについては,Wilcoxsonの順位和検定を,移動距離,筋厚の変化量の三筋間の比較にはFriedman検定(P<0.05)を用いて検討した。また,各筋の筋厚変化量とIC時,TSt時の筋厚の関係をspearmanの順位相関係数を用いて検討した。なお,統計解析にはSPSS ver.18を用いて,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には本研究の目的と趣旨を口頭にて十分に説明し,紙面上にて同意を得た。
【結果】
Friedman検定の結果,移動距離は,EO-0.38(-0.53-0.20)mm,IO0.48(-1.33-0.56)mm,TrA0.38(-0.79-0.85)mmで有意差はなかった。また,筋厚変化量も,EO0.07(0.04-0.17)mm,IO0.40(0.21-0.58)mm,TrA0.35(0.29-0.39)mmで有意差はなかった。TrAの変化量はIC時の筋厚と相関係数-0.9の負の相関関係を認めた。
【考察】
本研究結果から,側腹筋群の移動距離,筋厚ともに動態が乏しいことが分かった。しかし,EO・IOに比べて,TrAの変化量が大きい傾向にあった。この原因を調べるため,相関係数を検討したところ,TrAのIC時の筋厚と筋厚変化量に負の相関がみられた。つまり,ICで筋厚の薄いものほど,TStでは筋厚が増大するといえる。そのため,ICでの筋厚が他の2筋に比べて薄いため,若干の筋厚の増大でも相関がみられたと考えられる。また,先行研究における歩行中の体幹筋の筋電図学的変化と,今回の筋の動態は関連が乏しい。すなわち,体幹筋の筋厚を計測することで,筋活動の指標としている研究の妥当性を再考する必要性が考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
歩行時,体幹は“パッセンジャー”として姿勢を保つために働いている。臨床では,腰部安定化エクササイズなど様々な体幹トレーニングが行われているが,その課題特異性を考慮した歩行時の腹筋群のトレーニングの再考が必要となる。歩行時の側腹筋群の動態は乏しい。先行研究においてわれわれは片脚ブリッジ運動時の下肢支持側と下肢挙上側の腹筋群の動態を報告している。その結果,支持側で見られた動態は今回歩行において見られた動態と類似していた。一方,下肢挙上側の筋厚は変化量が大きかった。以上のことから,歩行中の体幹筋の動態に近い運動は下肢支持側での片脚ブリッジ動作であり,今後介入効果を検討していきたい。