[0616] 腹壁を膨隆させた腹圧上昇課題が腹横筋及び骨盤底筋に与える影響
キーワード:腹圧, 腹横筋, 骨盤底筋
【はじめに,目的】
近年,骨盤底筋群や腹横筋の基礎研究が進み,腰痛症や尿失禁などのコア機能不全症例に対するトレーニングとして積極的に用いられている。体幹スタビリティーを獲得するためには,腹横筋を介して行うよりも骨盤底筋群からの介入の方が適しているとの報告がある(山本ら2006)。コアトレーニングにおいて腹壁を膨隆させて腹圧を上昇させようする場合もある。腹壁が膨隆する場合には,腹横筋は伸張され,骨盤底筋は下降している可能性があり,本来のコア機能を発揮できない。
本研究の目的は,超音波画像診断装置及び3次元動作解析装置を用い,意図的に腹壁を膨隆させた腹圧上昇課題(以下,膨隆腹圧上昇課題)を行い,腹横筋及び骨盤底筋の変化と腹壁形状の変化を評価することである。
【方法】
対象は腹部及び骨盤内臓器の手術歴の既往がない健常成人男性6名(平均年齢44.3±9.5歳)とした。腹横筋及び骨盤底筋群の測定には超音波画像診断装置(Sono Site社製MicroMaxx)を用いた。腹横筋は肋骨下端と腸骨稜の間で右前腋窩線に直行する長軸像とし,安静呼気終末と膨隆腹圧上昇課題時に筋の厚さを測定した。骨盤底筋はWhittakerらの手技に準じ,背臥位で恥骨結合の上部にプローブを当て,膀胱後面の動きを骨盤底筋の動きとし,安静呼気終末と膨隆腹圧上昇課題時における膀胱後面の下方向への動きを測定した。膨隆腹圧上昇課題時の腹壁の動きは3次元動作解析装置(VICON社製)を用いて,剣状突起,両肋骨下端,両肋骨下端の正中点,臍,左右肋骨下端と上前腸骨棘(以下,ASIS)の中点,両側ASIS中点にマーカーを置き測定した。膨隆腹圧上昇課題は事前に練習を行い測定した。統計学的分析は安静呼気終末時の腹横筋の筋厚と腹壁から膀胱後下面までの距離を基準として,膨隆腹圧上昇課題時の腹横筋の伸張率と膀胱後面の下降率を算出し比較した。腹壁の動きは安静呼気終末の腹壁を基準として膨隆腹圧上昇課題時の正中線上の各ポイントにおける矢状面方向の最大値の変化量を算出した。さらに,腹横筋の伸張率及び膀胱下降率と4つの腹壁中央点との相関を確認した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験に対する説明を事前に行い,同意を得た。測定中は対象者の評価部位のみが露出させ倫理的に配慮した。
【結果】
腹横筋の安静呼気時の厚さは2.91±0.2mmであった。膨隆腹圧上昇課題時における腹横筋の筋の伸張率は80.1±14.8%であり,安静呼気に比べて有意に伸張されていた。また同様の課題時の骨盤底筋の下降率は128.2±8.9%であり,安静呼気時に比べて有意に下降していた。腹壁の変化率は臍151.2±25.7%,両側ASIS中点153.7±22.3,両肋骨下端の正中点143.5±17.1%,剣状突起109.53±6.1%の順に伸張されていた。各ポイントにおける変化率には有意な差はなかった。膨隆腹圧上昇課題時の腹壁の動きとして2パターンの動きを確認できた。1つは正中線上のポイントが全て矢上面上に増大していく動き,もう一つは胸郭を引き下げて下腹部を膨隆させていく動きである。後者の場合のみ腹横筋は伸張せず,肥大した。しかし,骨盤底筋は他の腹壁の動き方をした群と同様に下降を示した。腹横筋の伸張率と骨盤底筋の下降率,および,腹横筋の伸張率,骨盤底筋の下降率と4つの腹壁中央点の腹部変化率との間に相関はなかった。
【考察】
腹圧上昇課題時に腹壁が膨隆している場合,腹横筋は伸張位,骨盤底筋は下降することがわかった。骨盤底筋群の収縮運動を指導する際,腹壁全体を膨隆させていきみように収縮を行う場合と,腹斜筋群により胸郭を引き下げ,下腹部を膨隆させる場合がある。いずれにしても,いきみのように腹部を膨隆させている場合は,骨盤底筋群の挙上運動ではなく,押し出す方向に運動しているため,下腹部を膨隆させないように運動指導する必要があると考える。骨盤底筋群の適切な運動指導を行う手段としては,膣圧センサーを用いる場合と超音波画像診断装置を用いて行う手法が紹介されている。後者は非侵襲的であり,臨床的にも簡便で使用しやすいものの高価であり導入しづらい。コアトレーニングで,超音波画像診断装置を用いない場合には臍下の下腹部を膨隆させず指導することがポイントと考える。今後症例数を増やし,腹壁の動き方の違いによる腹横筋及び骨盤底筋への影響や骨盤底筋群の収縮時の腹壁の動きを測定し,適切な体幹のスタビリティートレーニングを行うための指標を検討する。
【理学療法学研究としての意義】
コアトレーニングを実践していく際に,超音波画像診断装置を用いない場合でも,腹壁の動きを確認することで,運動の効果判定として有効に活用できると考える。
近年,骨盤底筋群や腹横筋の基礎研究が進み,腰痛症や尿失禁などのコア機能不全症例に対するトレーニングとして積極的に用いられている。体幹スタビリティーを獲得するためには,腹横筋を介して行うよりも骨盤底筋群からの介入の方が適しているとの報告がある(山本ら2006)。コアトレーニングにおいて腹壁を膨隆させて腹圧を上昇させようする場合もある。腹壁が膨隆する場合には,腹横筋は伸張され,骨盤底筋は下降している可能性があり,本来のコア機能を発揮できない。
本研究の目的は,超音波画像診断装置及び3次元動作解析装置を用い,意図的に腹壁を膨隆させた腹圧上昇課題(以下,膨隆腹圧上昇課題)を行い,腹横筋及び骨盤底筋の変化と腹壁形状の変化を評価することである。
【方法】
対象は腹部及び骨盤内臓器の手術歴の既往がない健常成人男性6名(平均年齢44.3±9.5歳)とした。腹横筋及び骨盤底筋群の測定には超音波画像診断装置(Sono Site社製MicroMaxx)を用いた。腹横筋は肋骨下端と腸骨稜の間で右前腋窩線に直行する長軸像とし,安静呼気終末と膨隆腹圧上昇課題時に筋の厚さを測定した。骨盤底筋はWhittakerらの手技に準じ,背臥位で恥骨結合の上部にプローブを当て,膀胱後面の動きを骨盤底筋の動きとし,安静呼気終末と膨隆腹圧上昇課題時における膀胱後面の下方向への動きを測定した。膨隆腹圧上昇課題時の腹壁の動きは3次元動作解析装置(VICON社製)を用いて,剣状突起,両肋骨下端,両肋骨下端の正中点,臍,左右肋骨下端と上前腸骨棘(以下,ASIS)の中点,両側ASIS中点にマーカーを置き測定した。膨隆腹圧上昇課題は事前に練習を行い測定した。統計学的分析は安静呼気終末時の腹横筋の筋厚と腹壁から膀胱後下面までの距離を基準として,膨隆腹圧上昇課題時の腹横筋の伸張率と膀胱後面の下降率を算出し比較した。腹壁の動きは安静呼気終末の腹壁を基準として膨隆腹圧上昇課題時の正中線上の各ポイントにおける矢状面方向の最大値の変化量を算出した。さらに,腹横筋の伸張率及び膀胱下降率と4つの腹壁中央点との相関を確認した。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本実験に対する説明を事前に行い,同意を得た。測定中は対象者の評価部位のみが露出させ倫理的に配慮した。
【結果】
腹横筋の安静呼気時の厚さは2.91±0.2mmであった。膨隆腹圧上昇課題時における腹横筋の筋の伸張率は80.1±14.8%であり,安静呼気に比べて有意に伸張されていた。また同様の課題時の骨盤底筋の下降率は128.2±8.9%であり,安静呼気時に比べて有意に下降していた。腹壁の変化率は臍151.2±25.7%,両側ASIS中点153.7±22.3,両肋骨下端の正中点143.5±17.1%,剣状突起109.53±6.1%の順に伸張されていた。各ポイントにおける変化率には有意な差はなかった。膨隆腹圧上昇課題時の腹壁の動きとして2パターンの動きを確認できた。1つは正中線上のポイントが全て矢上面上に増大していく動き,もう一つは胸郭を引き下げて下腹部を膨隆させていく動きである。後者の場合のみ腹横筋は伸張せず,肥大した。しかし,骨盤底筋は他の腹壁の動き方をした群と同様に下降を示した。腹横筋の伸張率と骨盤底筋の下降率,および,腹横筋の伸張率,骨盤底筋の下降率と4つの腹壁中央点の腹部変化率との間に相関はなかった。
【考察】
腹圧上昇課題時に腹壁が膨隆している場合,腹横筋は伸張位,骨盤底筋は下降することがわかった。骨盤底筋群の収縮運動を指導する際,腹壁全体を膨隆させていきみように収縮を行う場合と,腹斜筋群により胸郭を引き下げ,下腹部を膨隆させる場合がある。いずれにしても,いきみのように腹部を膨隆させている場合は,骨盤底筋群の挙上運動ではなく,押し出す方向に運動しているため,下腹部を膨隆させないように運動指導する必要があると考える。骨盤底筋群の適切な運動指導を行う手段としては,膣圧センサーを用いる場合と超音波画像診断装置を用いて行う手法が紹介されている。後者は非侵襲的であり,臨床的にも簡便で使用しやすいものの高価であり導入しづらい。コアトレーニングで,超音波画像診断装置を用いない場合には臍下の下腹部を膨隆させず指導することがポイントと考える。今後症例数を増やし,腹壁の動き方の違いによる腹横筋及び骨盤底筋への影響や骨盤底筋群の収縮時の腹壁の動きを測定し,適切な体幹のスタビリティートレーニングを行うための指標を検討する。
【理学療法学研究としての意義】
コアトレーニングを実践していく際に,超音波画像診断装置を用いない場合でも,腹壁の動きを確認することで,運動の効果判定として有効に活用できると考える。