[0618] 高齢者疑似体験装具を用いた傾斜杖歩行時の呼吸循環応答の検討
キーワード:高齢者疑似体験装具, トレッドミル, 呼吸循環応答
【目的】日本の高齢化が進行する中で,呼吸器疾患は疾患別死亡率で上位に位置する。また円背姿勢が高度になると胸郭の変形や肺機能の低下などを認めるとの報告もある。高齢者の日常生活に関する意識調査の結果によると「外出の頻度」は「ほとんど毎日」と答えた人が最も多く,さらに外出時に障害となるものは「道路に階段,段差,傾斜があったり,歩道が狭い」との回答が多い。先行研究では,高齢者疑似体験装具装着下での平地杖歩行による検討は行われているが,傾斜歩行時の杖使用による検討は行われていない。そこで我々は装具を装着した傾斜杖歩行の呼吸循環応答について検討することとした。
【方法】
対象は整形外科,呼吸器疾患の既往,喫煙経験のない健常女性20名とし,測定前2時間の食事と前日からの激しい運動を控えた上で実施した。トレッドミル歩行による運動負荷試験において,装具なし・杖なし条件(以下条件C),装具なし・杖あり条件(以下条件C・T),装具あり・杖なし条件(以下条件O),装具あり・杖あり条件(以下条件O・T)の4条件を測定条件とした。測定の順序はランダムとし,1日1条件の測定とした。身体疲労を考慮し,4条件間の測定に1日以上の休息をとらせた。杖は利き手で把持させ,杖歩行パターンは二動作歩行とした。運動負荷試験はトレッドミル(MAT-7000,フクダ電子)を用い,測定プロトコルは1分間の安静立位,2分間のウォーミングアップ,6分間の傾斜歩行(3.17km/h,Grade8%),3分間のクールダウンとした。歩行速度は健常高齢者の平均歩行速度とされる3.17km/hとした。傾斜はハートビル法で規定されている勾配1/12(Grade8%)の上り坂と設定した。装具は高齢者疑似体験装具(おいたろう,株式会社京都科学)を用いた。測定項目は呼気ガス分析装置(Cpex-1,インターリハ株式会社)を用い,開始時安静立位から終了時安静立位までの一回換気量(TV),酸素摂取量(VO2),二酸化炭素排出量(VCO2)などの換気指標を測定した。また心電図(DS-7100,フクダ電子株式会社)と呼気ガス分析装置を接続し,心拍数も同期させた。測定前後に血圧を測定し,さらに測定開始から終了まで1分ごとに,Borg scaleを用いて主観的運動強度を呼吸困難感と下肢疲労感に分けて聴取した。4回の測定終了後に4条件の主観的安楽順位を聴取した。統計方法はSPSS 21.0 Jを用いた。各換気指標に対する運動終了前1分間のデータ値の4条件間による違いには一元配置分散分析を,4条件間の比較にはBonferroni法の多重比較を用いた。また主観的運動強度から得られた結果にはFriedman検定を用い,主観的安楽順位にはX2検定を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,杏林大学倫理審査委員会の承認の下,すべての対象者に本研究の趣旨,内容,個人情報管理方法について十分に説明し,書面にて研究参加の同意を得た上で実施した。
【結果】
運動終了前1分間のTV,FETCO2,HR,VO2,VCO2,VO2/Wt,METsにおいて装具ありで有意差が認められ(p<0.05),多重比較においても同一指標で有意差が認められた(p<0.05)。主観的運動強度では呼吸困難感及び下肢疲労感において,装具ありで有意差が認められた。主観的安楽順位で最も安楽であると回答のあったのは条件Cで16名,2番目は条件C・Tで14名,3番目は条件Oで15名,4番目は条件O・Tで17名であった。
【考察】
装具の有無による呼吸循環応答への影響は認められたが,杖使用に関しては認められなかった。これは装具による負荷が体幹および上下肢に大きな筋活動を要求したため換気指標と主観的運動強度が高値を示したと考える。また身体的負荷に加え装具装着の圧迫感・違和感により,主観的安楽順位で高い疲労感を訴えたのではないかと考える。若年健常者が装具装着下で杖を使用することは杖を使用しない時に比べ,同一運動時の呼吸循環系への負担が軽減したとの報告もあり,我々の研究も同様の結果が得られるのではないかと予測された。しかし今回の検討では,杖への荷重量・接地位置の規定を行わず,事前指導・練習期間を設けなかったため杖に荷重をかけられず,機能的に使用することが出来なかったと考える。また装具装着下では手関節に重錘を装着し,杖を使用したことで上肢の筋活動が活発となり,疲労感が高い結果となったのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究にて傾斜歩行時の装具装着による負荷が呼吸循環応答に影響を与えることが解明された。今後高齢者の外出時における傾斜路が身体機能に与える影響を説明する一助となると考える。
【方法】
対象は整形外科,呼吸器疾患の既往,喫煙経験のない健常女性20名とし,測定前2時間の食事と前日からの激しい運動を控えた上で実施した。トレッドミル歩行による運動負荷試験において,装具なし・杖なし条件(以下条件C),装具なし・杖あり条件(以下条件C・T),装具あり・杖なし条件(以下条件O),装具あり・杖あり条件(以下条件O・T)の4条件を測定条件とした。測定の順序はランダムとし,1日1条件の測定とした。身体疲労を考慮し,4条件間の測定に1日以上の休息をとらせた。杖は利き手で把持させ,杖歩行パターンは二動作歩行とした。運動負荷試験はトレッドミル(MAT-7000,フクダ電子)を用い,測定プロトコルは1分間の安静立位,2分間のウォーミングアップ,6分間の傾斜歩行(3.17km/h,Grade8%),3分間のクールダウンとした。歩行速度は健常高齢者の平均歩行速度とされる3.17km/hとした。傾斜はハートビル法で規定されている勾配1/12(Grade8%)の上り坂と設定した。装具は高齢者疑似体験装具(おいたろう,株式会社京都科学)を用いた。測定項目は呼気ガス分析装置(Cpex-1,インターリハ株式会社)を用い,開始時安静立位から終了時安静立位までの一回換気量(TV),酸素摂取量(VO2),二酸化炭素排出量(VCO2)などの換気指標を測定した。また心電図(DS-7100,フクダ電子株式会社)と呼気ガス分析装置を接続し,心拍数も同期させた。測定前後に血圧を測定し,さらに測定開始から終了まで1分ごとに,Borg scaleを用いて主観的運動強度を呼吸困難感と下肢疲労感に分けて聴取した。4回の測定終了後に4条件の主観的安楽順位を聴取した。統計方法はSPSS 21.0 Jを用いた。各換気指標に対する運動終了前1分間のデータ値の4条件間による違いには一元配置分散分析を,4条件間の比較にはBonferroni法の多重比較を用いた。また主観的運動強度から得られた結果にはFriedman検定を用い,主観的安楽順位にはX2検定を行った。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,杏林大学倫理審査委員会の承認の下,すべての対象者に本研究の趣旨,内容,個人情報管理方法について十分に説明し,書面にて研究参加の同意を得た上で実施した。
【結果】
運動終了前1分間のTV,FETCO2,HR,VO2,VCO2,VO2/Wt,METsにおいて装具ありで有意差が認められ(p<0.05),多重比較においても同一指標で有意差が認められた(p<0.05)。主観的運動強度では呼吸困難感及び下肢疲労感において,装具ありで有意差が認められた。主観的安楽順位で最も安楽であると回答のあったのは条件Cで16名,2番目は条件C・Tで14名,3番目は条件Oで15名,4番目は条件O・Tで17名であった。
【考察】
装具の有無による呼吸循環応答への影響は認められたが,杖使用に関しては認められなかった。これは装具による負荷が体幹および上下肢に大きな筋活動を要求したため換気指標と主観的運動強度が高値を示したと考える。また身体的負荷に加え装具装着の圧迫感・違和感により,主観的安楽順位で高い疲労感を訴えたのではないかと考える。若年健常者が装具装着下で杖を使用することは杖を使用しない時に比べ,同一運動時の呼吸循環系への負担が軽減したとの報告もあり,我々の研究も同様の結果が得られるのではないかと予測された。しかし今回の検討では,杖への荷重量・接地位置の規定を行わず,事前指導・練習期間を設けなかったため杖に荷重をかけられず,機能的に使用することが出来なかったと考える。また装具装着下では手関節に重錘を装着し,杖を使用したことで上肢の筋活動が活発となり,疲労感が高い結果となったのではないかと考える。
【理学療法学研究としての意義】
本研究にて傾斜歩行時の装具装着による負荷が呼吸循環応答に影響を与えることが解明された。今後高齢者の外出時における傾斜路が身体機能に与える影響を説明する一助となると考える。