第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 内部障害理学療法 ポスター

呼吸7

2014年5月30日(金) 17:10 〜 18:00 ポスター会場 (内部障害)

座長:田平一行(畿央大学健康科学部理学療法学科)

内部障害 ポスター

[0621] 安静呼吸中のchest wall運動に与える姿勢と性の影響について

川﨑友里菜1, 野添匡史3, 高嶋幸恵2, 高山雄介3, 松下和弘3, 間瀬教史2 (1.甲南加古川病院, 2.甲南女子大学看護リハビリテーション学部, 3.兵庫医科大学ささやま医療センターリハビリテーション室)

キーワード:姿勢, 性, 胸郭運動

【目的】
我々理学療法士は呼吸器疾患患者を中心に体位変換や離床練習を頻繁に実施する。その際の効果判定の一つとしてchest wall運動の評価を行うことがあるが,治療介入で用いられるさまざまな体位が,実際のchest wall運動に与える影響については十分知られていない。また,このchest wall運動は性の影響を受けることも知られているが,姿勢が変化したときに,性の違いがchest wall運動にどのような影響を与えるかも十分検討されていない。姿勢と性の違いがchest wall運動に与える影響を検討することは,臨床場面でさまざまな患者に対してchest wall運動を評価する際の一助になりうると考えられる。本研究の目的は,3次元動作解析装置を用いて健常男性及び女性における背臥位,側臥位,座位の3姿勢において安静呼吸中のchest wall体積変化を測定し,性や姿勢によってchest wall運動がどのような影響を受けるか検討することである。
【方法】
対象は健常成人24名(男性12名:年齢27.5±4.1(歳),%肺活量99.0±14.1(%),BMI21.6±1.9(kg/m2),女性12名:年齢24±4.7(歳),BMI20.6±1.5(kg/m2),%肺活量100.6±13.6(%))。測定肢位は背臥位,右側臥位(側臥位),端座位(座位)の3肢位とし,各肢位において安静時呼吸2分間の測定を行った。対象者にはCalaら(1996),Alivertiら(2001)の方法に準じて,体表面に背臥位66個,側臥位81個,座位86個の反射マーカーを貼り付け,8台の赤外線カメラからなる3次元動作解析システム(Motion Analysis社製Mac 3D system)を用いてマーカー位置を測定した。データはサンプリング周波数100Hzで専用の解析ソフトに取り込み,反射マーカーの継時的な座標データを算出した。得られた継時的な座標データからchest wall全体の体積変化及びchest wallを上部胸郭・下部胸郭・腹部に分画した際の各部位の体積変化を算出し,各肢位で安定した任意の3~5呼吸を抽出し解析対象とした。解析は,chest wall全体,上部胸郭,下部胸郭,及び腹部の体積変化量(それぞれΔVCW,ΔVRCp,ΔVRCa,ΔVAB)を算出し,これらの指標に関して姿勢及び性の違いが与える影響を分散分析を用いて検討した。また,分散分析で有意差が認められたときは多重比較を行った。すべての検定は統計ソフトSPSS ver18.0を用いて行い,有意水準はp<0.05とした。
【倫理的配慮】
本研究は甲南女子大学倫理委員会の承認を得て実施しており,対象者には本研究の趣旨を説明し,書面による同意を得た上で実施した。
【結果】
姿勢が与える影響について,全対象者においてΔVCWは全姿勢で有意な差は認められなかったが(504±125ml:482±115ml:507±130ml=背臥位:側臥位:座位),ΔVRCpは背臥位(127±54ml),側臥位(133±48ml)と比べて座位(176±49ml)で有意に高値を示し(p<0.01),ΔVRCaは背臥位(86±37ml),座位(103±35ml)と比べて側臥位(60±27ml)で有意に低値を示し(p<0.001),ΔVABは背臥位(290±99ml),側臥位(288±84ml)と比べて座位(228±98ml)で有意に低値を示した(p<0.001)。また,性が与える影響について,ΔVCW,ΔVRCp,ΔVRCa,ΔVABのすべてにおいて交互作用は認められなかった。しかし,ΔVRCaは背臥位(106±38ml:67±22ml=男性:女性,p<0.01),側臥位(72±26ml:49±22m,p<0.05),座位(118±33ml:89±31ml,p<0.05)と全姿勢において男性の方が女性より有意に高値を示し,ΔVABについても背臥位(361±81ml:219±56ml,p<0.01),側臥位(337±85ml:239±46m,p<0.01),座位(303±81ml:153±38ml,p<0.01)と同様に全姿勢において男性の方が女性より有意に高値を示したが,結果的にΔVCW(背臥位=587±108ml:421±78ml,側臥位=544±100ml:420±94ml,座位=592±119ml:423±74ml)は全姿勢で男性の方が有意に高値を示した。一方,ΔVRCpは全姿勢で性差は認められなかった(背臥位=120±44ml:135±50ml,側臥位=135±50ml:133±47ml,座位=170±41ml:182±56ml)。
【考察】
背臥位,側臥位の臥位2姿勢と比べて座位で上部胸郭運動が大きく,腹部運動が小さくなるのは,座位では横隔膜運動が減少し,腹部コンプライアンスが変化するためと考えられた。一方,側臥位では他の2姿勢と比べて荷重側胸郭の横方向の運動が床面によって制限され,下部胸郭運動が小さくなったと考えられた。また,全姿勢において下部胸郭,腹部運動が女性より男性で大きかったのは,男女間における呼吸筋力の違いや肋骨の形状の違いが影響していると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】本研究結果は,さまざまな姿勢においてchest wall運動を評価する際の基礎データになりうると考えられた。