[0622] Gatch up角度を変化させた際のMechanical insufflation-exsufflation施行時の換気量および胸腹部運動の三次元動作解析
Keywords:Gatch up, Mechanical insufflation-exsufflation, 三次元動作解析
【はじめに,目的】
Mechanical insufflation-exsufflation(以下MI-E)は,肺・胸郭コンプライアンスの維持や排痰補助を非侵襲的に行う機器として広く普及している。一方,体位排痰法は機器を使用しない呼吸理学療法として簡便に行うことができ,臨床上よく用いられる。以前我々はGatch up 0°(以下G0°)においてMI-E施行時の換気量及び胸腹部運動の三次元動作解析を行い,設定圧±30,40,50 cmH2Oにて肺活量(Vital Capacity:以下VC)と同等以上の換気量と胸郭コンプライアンスの確保ができる可能性について報告した。しかし現在MI-E施行時の姿勢による効果の差異を明確に示した報告はみられない。今回我々はMI-EとGatch upの併用効果を検証する目的で,G0°とGatch up 45°(以下G45°)で,MI-E施行時の換気量と三次元動作解析による胸腹部運動の特性を検討した。
【方法】
対象は同意を得た健常成人男性20名(平均31.3±4.6歳)。G0°とG45°の条件下で,それぞれVCの測定とMI-E(Respironics社製カフアシストCA-3000,設定圧:±20,30,40,50 cmH2O)による強制換気を行った。マスク装着下にミナト医科学社製呼吸モニタリングシステムエアロモニタを用いて換気量を測定した。また同時に胸骨頚切痕を上端,左右の上前腸骨棘を結ぶ線を下端として体幹に35個のマーカを貼付し,VICON社製三次元動作解析装置VICON MX systemにて周波数100Hzにて計測を行った。計測結果から,全体積(Total Volume:以下TV)とそれを細分化した上部胸郭体積(Upper Thorax:以下UT),下部胸郭体積(Lower Thorax:以下LT),腹部体積(Abdomen:以下AB)を算出し,それぞれ最大値を用いて比較した。検定は1元配置分散分析,2元配置分散分析,多重比較を行った(SPSS Ver.21。p<0.05)。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者には本研究の目的・方法を説明の後,書面にて同意を得た。なお本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得た。
【結果】
I換気量:G0°とG45°共に,VCに対して±40,50 cmH2Oで有意に増加した。Gatch upによる換気量の有意な差異は認められなかった。II体積:①TV:[G0°]VCに対して±40,50 cmH2Oで有意に増加した。[G45°]VCに対して±20,30 cmH2Oで有意に減少し,±20,30 cmH2Oに対して±40,50 cmH2Oで有意に増加した。Gatch upによる最大値の有意な差異が認められ,G45°は全ての設定圧でG0°を下回った。この傾向はLT・ABにおいても同様であった。②UT:[G0°]VCに対して±20 cmH2Oで有意に減少し,±20 cmH2Oに対して±30,40,50 cmH2Oは有意に増加した。[G45°]VCに対して±20,30 cmH2Oで有意に減少し,±20 cmH2Oに対して±40,50 cmH2Oは有意に増加した。Gatch upによる有意な差異は認められなかった。③LT:[G0°]VCに対して±40,50 cmH2Oで有意に増加した。[G45°]VCに対して±20,30,40 cmH2Oで有意に減少し,±20 cmH2Oに対して±40,50 cmH2Oは有意に増加した。④AB:[G0°]VCに対して±40,50 cmH2Oで有意に増加した。[G45°]VCに対して±20,30 cmH2Oで有意に減少し,±20 cmH2Oに対して±40,50 cmH2Oは有意に増加した。⑤減少率:G45°で得られた最大値は,全ての設定圧でVCを下回った。±50 cmH2O施行時の,VCに対する最大値の減少率を算出したところ,UT(0.5%)<LT(2.5%)<AB(3.3%)となった。
【考察】
I換気量:Gatch up角度に関わらず,設定圧±40,50 cmH2OではVCよりも多くの換気量を確保できると考えられる。II体積:G45°ではMI-Eを使用してもVC最大値を超えることはなかった。換気量はGatch upによる差異を認めないことから,Gatch upによる静脈還流量減少や,MI-Eの陰圧効果による残気量の減少などChest wall内での変化に起因するものと考えられる。またG45°のTV最大値はG0°と比較して減少した。減少率は下部へ向かうほど増加することから,G45°においては姿勢保持のために腹筋群の収縮が生じたことでVCに対して最大値が減少したと考えられる。一方G45°においてVCで最も腹部体積最大値が大きくなったのは,腹筋群が呼吸に同調して弛緩したことによって最大値を確保したと推測される。肋骨は下位の2対を除き胸椎と胸骨に連なっており,可動域の制限を受ける。また肋骨の運動軸と矢状面のなす角は上位ほど直角に近く,上位肋骨は前後径,下位肋骨は前後径・左右径の増大が主として生じる。よって本研究においてUT・LT・ABの順に骨性に可動域を制限する要素が少なくなることから,軟部組織の伸縮性により最大値に差が生じたと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
MI-Eを換気量の確保の目的で使用する際G0°とG45°に差は生じないが,G45°では胸腹部の拡張は小さくなる可能性がある。
Mechanical insufflation-exsufflation(以下MI-E)は,肺・胸郭コンプライアンスの維持や排痰補助を非侵襲的に行う機器として広く普及している。一方,体位排痰法は機器を使用しない呼吸理学療法として簡便に行うことができ,臨床上よく用いられる。以前我々はGatch up 0°(以下G0°)においてMI-E施行時の換気量及び胸腹部運動の三次元動作解析を行い,設定圧±30,40,50 cmH2Oにて肺活量(Vital Capacity:以下VC)と同等以上の換気量と胸郭コンプライアンスの確保ができる可能性について報告した。しかし現在MI-E施行時の姿勢による効果の差異を明確に示した報告はみられない。今回我々はMI-EとGatch upの併用効果を検証する目的で,G0°とGatch up 45°(以下G45°)で,MI-E施行時の換気量と三次元動作解析による胸腹部運動の特性を検討した。
【方法】
対象は同意を得た健常成人男性20名(平均31.3±4.6歳)。G0°とG45°の条件下で,それぞれVCの測定とMI-E(Respironics社製カフアシストCA-3000,設定圧:±20,30,40,50 cmH2O)による強制換気を行った。マスク装着下にミナト医科学社製呼吸モニタリングシステムエアロモニタを用いて換気量を測定した。また同時に胸骨頚切痕を上端,左右の上前腸骨棘を結ぶ線を下端として体幹に35個のマーカを貼付し,VICON社製三次元動作解析装置VICON MX systemにて周波数100Hzにて計測を行った。計測結果から,全体積(Total Volume:以下TV)とそれを細分化した上部胸郭体積(Upper Thorax:以下UT),下部胸郭体積(Lower Thorax:以下LT),腹部体積(Abdomen:以下AB)を算出し,それぞれ最大値を用いて比較した。検定は1元配置分散分析,2元配置分散分析,多重比較を行った(SPSS Ver.21。p<0.05)。
【倫理的配慮,説明と同意】
被験者には本研究の目的・方法を説明の後,書面にて同意を得た。なお本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得た。
【結果】
I換気量:G0°とG45°共に,VCに対して±40,50 cmH2Oで有意に増加した。Gatch upによる換気量の有意な差異は認められなかった。II体積:①TV:[G0°]VCに対して±40,50 cmH2Oで有意に増加した。[G45°]VCに対して±20,30 cmH2Oで有意に減少し,±20,30 cmH2Oに対して±40,50 cmH2Oで有意に増加した。Gatch upによる最大値の有意な差異が認められ,G45°は全ての設定圧でG0°を下回った。この傾向はLT・ABにおいても同様であった。②UT:[G0°]VCに対して±20 cmH2Oで有意に減少し,±20 cmH2Oに対して±30,40,50 cmH2Oは有意に増加した。[G45°]VCに対して±20,30 cmH2Oで有意に減少し,±20 cmH2Oに対して±40,50 cmH2Oは有意に増加した。Gatch upによる有意な差異は認められなかった。③LT:[G0°]VCに対して±40,50 cmH2Oで有意に増加した。[G45°]VCに対して±20,30,40 cmH2Oで有意に減少し,±20 cmH2Oに対して±40,50 cmH2Oは有意に増加した。④AB:[G0°]VCに対して±40,50 cmH2Oで有意に増加した。[G45°]VCに対して±20,30 cmH2Oで有意に減少し,±20 cmH2Oに対して±40,50 cmH2Oは有意に増加した。⑤減少率:G45°で得られた最大値は,全ての設定圧でVCを下回った。±50 cmH2O施行時の,VCに対する最大値の減少率を算出したところ,UT(0.5%)<LT(2.5%)<AB(3.3%)となった。
【考察】
I換気量:Gatch up角度に関わらず,設定圧±40,50 cmH2OではVCよりも多くの換気量を確保できると考えられる。II体積:G45°ではMI-Eを使用してもVC最大値を超えることはなかった。換気量はGatch upによる差異を認めないことから,Gatch upによる静脈還流量減少や,MI-Eの陰圧効果による残気量の減少などChest wall内での変化に起因するものと考えられる。またG45°のTV最大値はG0°と比較して減少した。減少率は下部へ向かうほど増加することから,G45°においては姿勢保持のために腹筋群の収縮が生じたことでVCに対して最大値が減少したと考えられる。一方G45°においてVCで最も腹部体積最大値が大きくなったのは,腹筋群が呼吸に同調して弛緩したことによって最大値を確保したと推測される。肋骨は下位の2対を除き胸椎と胸骨に連なっており,可動域の制限を受ける。また肋骨の運動軸と矢状面のなす角は上位ほど直角に近く,上位肋骨は前後径,下位肋骨は前後径・左右径の増大が主として生じる。よって本研究においてUT・LT・ABの順に骨性に可動域を制限する要素が少なくなることから,軟部組織の伸縮性により最大値に差が生じたと考えられる。
【理学療法学研究としての意義】
MI-Eを換気量の確保の目的で使用する際G0°とG45°に差は生じないが,G45°では胸腹部の拡張は小さくなる可能性がある。