[0627] 軽介護度者の介護度重度化に関連する影響因子の抽出と基準値の特定
キーワード:通所介護, 介護度, 5m歩行時間
【はじめに,目的】
近年,介護予防事業に重点化した施策が打出され数年が経過している。しかし,H22年以降,介護区分変化の推移は軽介護度(要支援1~要介護1)を中心に介護度重度化割合の増加を認める(介護給付費実態調査の概況,厚生労働省)。第29回東海北陸理学療法学術大会において,当施設長期継続利用者(以下,継続者)の介護度重度化に至る要因分析の報告を行った。結果,介護度重度化の要因として,年齢や疾患に関わらず予防給付認定を中心とした軽介護度者,かつ,週のサービス利用回数が少ない群が抽出された。軽介護度者は廃用症候群が起因となっている者が多く(国民生活基礎調査,H16),介護サービス受給は生活支援(IADL)に関する内容が主と報告されている(社会保障審議会,H25)。従って,予防給付を中心とする軽介護認定者は,介護予防サービスへの依存心が強い者が多く,生活機能維持に対する自助意識の低さを推察した。
今回,継続者の中からサービス利用開始時軽介護度者を対象とし,介護度重度化に関連する要因を分析した。さらに,生活機能の影響因子である歩行能力について,介護度重度化となる基準値を特定することを目的とした。
【方法】
対象は,継続者(2010年度~2012年度)の中から,2010年度利用開始時介護度(以下,2010年度介護度)が軽介護度であった44名(男:女,22:22)を選定した。選定者は,2012年度更新認定結果後の介護度を参考に,2010年度介護度からの介護度変化について重度化群(10名),非重度化群(34名)に分類した。介護度重度化の影響因子として,性別,年齢,主病名,罹患年数,2010年度介護度,1週間辺りの当施設利用回数(以下,利用回数),利用開始時5m歩行時間[快適歩行速度(以下,5m歩行時間)]を情報録より抜粋した。
方法は,介護度重度化の有無による各変数の群間比較を行った。次に,介護度重度化の有無(従属変数)と各変数(独立変数)の影響度合について,多重ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を行った。さらに,抽出された変数に関して介護度重度化の有無を判断するカットオフ値を検討するため,Receiver Operating-Characteristic(ROC)曲線からArea Under the Curve(AUC)と感度,特異度,陽性的中率(以下,PPV),陰性的中率(以下,NPV)を算出し,回帰モデルの適合性を判定した。なお,統計処理には統計解析ソフトSPSS Ver.14.0 for Windowsを使用し,有意水準は全て危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,所属施設の倫理委員会の承認を受け実施した(承認番号:14)。対象者には,研究主旨及び目的を口頭と書面で説明し同意を得た。
【結果】
介護度重度化の有無と各変数の群間比較の結果,利用回数に有意差を認めた(p<0.01)。影響度合いについて,関連要因として2010年度介護度[Odds Ratio(OR)=0.08(p<0.01)]と5m歩行時間[OR=1.19(p=0.08)]が抽出された(判断的中率80%)。抽出された変数から介護度重度化に影響を与える5m歩行時間のカットオフ値は,6.4秒(AUC=0.52,感度=0.70,特異度=0.47,PPV=0.28,NPV=0.84,OR=2.07)となった。
【考察】
軽介護度者の介護度重度化に関連する要因として,2010年度介護度が抽出され,ORから,より軽度な介護認定者に強く影響することを確認した。生活機能の指標となる歩行能力について,介護度重度化の判断基準に5m歩行時間のカットオフ値を算出した。結果より,AUC=0.52(95%CI:0.31-0.73)であることから,軽介護度者における介護度重度化の判断基準として,算出されたカットオフ値=6.4秒は低い判断力であることが明確となった。すなわち,5m歩行時間≧カットオフ値と介護度重度化の関連性は弱く,判断基準として精度が低いといえる。しかし,NPV=0.84(OR=5.26)であることから,6.4秒未満における介護度非重度化の的中率が高値であると判断した。これは,当施設を利用される軽介護度者において,利用開始時5m歩行時間が6.4秒未満であれば,2年後介護度を維持可能な確率が8割を超えると判断できる。従って,サービス利用開始時5m歩行時間の測定は,軽介護度者における介護度維持の判断材料として有用性を支持する指標であると推察した。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,予防給付を中心とした軽介護度者について,二次予防事業参加開始時の歩行能力から数年後の介護予防効果を予測できる指標を特定した。今後,介護予防サービスの主務である介護度重度化対策として,介入前の歩行能力評価を予測因子として適応できる可能性を示した。
近年,介護予防事業に重点化した施策が打出され数年が経過している。しかし,H22年以降,介護区分変化の推移は軽介護度(要支援1~要介護1)を中心に介護度重度化割合の増加を認める(介護給付費実態調査の概況,厚生労働省)。第29回東海北陸理学療法学術大会において,当施設長期継続利用者(以下,継続者)の介護度重度化に至る要因分析の報告を行った。結果,介護度重度化の要因として,年齢や疾患に関わらず予防給付認定を中心とした軽介護度者,かつ,週のサービス利用回数が少ない群が抽出された。軽介護度者は廃用症候群が起因となっている者が多く(国民生活基礎調査,H16),介護サービス受給は生活支援(IADL)に関する内容が主と報告されている(社会保障審議会,H25)。従って,予防給付を中心とする軽介護認定者は,介護予防サービスへの依存心が強い者が多く,生活機能維持に対する自助意識の低さを推察した。
今回,継続者の中からサービス利用開始時軽介護度者を対象とし,介護度重度化に関連する要因を分析した。さらに,生活機能の影響因子である歩行能力について,介護度重度化となる基準値を特定することを目的とした。
【方法】
対象は,継続者(2010年度~2012年度)の中から,2010年度利用開始時介護度(以下,2010年度介護度)が軽介護度であった44名(男:女,22:22)を選定した。選定者は,2012年度更新認定結果後の介護度を参考に,2010年度介護度からの介護度変化について重度化群(10名),非重度化群(34名)に分類した。介護度重度化の影響因子として,性別,年齢,主病名,罹患年数,2010年度介護度,1週間辺りの当施設利用回数(以下,利用回数),利用開始時5m歩行時間[快適歩行速度(以下,5m歩行時間)]を情報録より抜粋した。
方法は,介護度重度化の有無による各変数の群間比較を行った。次に,介護度重度化の有無(従属変数)と各変数(独立変数)の影響度合について,多重ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を行った。さらに,抽出された変数に関して介護度重度化の有無を判断するカットオフ値を検討するため,Receiver Operating-Characteristic(ROC)曲線からArea Under the Curve(AUC)と感度,特異度,陽性的中率(以下,PPV),陰性的中率(以下,NPV)を算出し,回帰モデルの適合性を判定した。なお,統計処理には統計解析ソフトSPSS Ver.14.0 for Windowsを使用し,有意水準は全て危険率5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は,所属施設の倫理委員会の承認を受け実施した(承認番号:14)。対象者には,研究主旨及び目的を口頭と書面で説明し同意を得た。
【結果】
介護度重度化の有無と各変数の群間比較の結果,利用回数に有意差を認めた(p<0.01)。影響度合いについて,関連要因として2010年度介護度[Odds Ratio(OR)=0.08(p<0.01)]と5m歩行時間[OR=1.19(p=0.08)]が抽出された(判断的中率80%)。抽出された変数から介護度重度化に影響を与える5m歩行時間のカットオフ値は,6.4秒(AUC=0.52,感度=0.70,特異度=0.47,PPV=0.28,NPV=0.84,OR=2.07)となった。
【考察】
軽介護度者の介護度重度化に関連する要因として,2010年度介護度が抽出され,ORから,より軽度な介護認定者に強く影響することを確認した。生活機能の指標となる歩行能力について,介護度重度化の判断基準に5m歩行時間のカットオフ値を算出した。結果より,AUC=0.52(95%CI:0.31-0.73)であることから,軽介護度者における介護度重度化の判断基準として,算出されたカットオフ値=6.4秒は低い判断力であることが明確となった。すなわち,5m歩行時間≧カットオフ値と介護度重度化の関連性は弱く,判断基準として精度が低いといえる。しかし,NPV=0.84(OR=5.26)であることから,6.4秒未満における介護度非重度化の的中率が高値であると判断した。これは,当施設を利用される軽介護度者において,利用開始時5m歩行時間が6.4秒未満であれば,2年後介護度を維持可能な確率が8割を超えると判断できる。従って,サービス利用開始時5m歩行時間の測定は,軽介護度者における介護度維持の判断材料として有用性を支持する指標であると推察した。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,予防給付を中心とした軽介護度者について,二次予防事業参加開始時の歩行能力から数年後の介護予防効果を予測できる指標を特定した。今後,介護予防サービスの主務である介護度重度化対策として,介入前の歩行能力評価を予測因子として適応できる可能性を示した。