[0628] 地域の中高年者における立位での体そりかえり角度の3か月後の変化
Keywords:柔軟性, 体幹伸展, 立位アライメント
【はじめに,目的】立位での体幹伸展(以下,体そりかえり)角度は,代償動作を補正して測定することで,地域での中高年者を評価するのに有用な柔軟性の指標となりうる。我々は,地域での教室に参加した中高年女性を対象とした先行研究において,年齢と立位での膝肢位,膝伸展関節可動域との間の関連を確認し,膝伸展可動域が体そりかえり角度を予測するのに役立つことを明らかにした。柔軟性を測定する際には長座位体前屈を用いることが一般的で,体幹の伸展方向の柔軟性を評価することは少ない。地域での中高年者の体そりかえり角度の経時的な変化を評価することで,体そりかえり角度を評価することの意義が検討できるかもしれない。本研究の目的は,地域在住の中高年者を対象に,体そりかえり角度の測定により体幹の伸展方向の柔軟性の経時的変化とそれに関連する身体機能・構造の変化を明らかにすることである。
【方法】対象は,平成22,23年度にN市で行われた運動指導サポーター養成教室の参加者で初回の測定をしていないものを除外した女性92名のうち,教室最終回での測定に参加した75名(平均年齢68.1±5.7歳)である。体そりかえり角度の測定は,両足を肩幅に開いた立位で両手を胸の前で合わせた姿勢を開始姿勢とし,合図とともに前方を見たまま体を後ろにそりかえるよう指示し,できるところまでで数秒止めてから自力で元に戻ってもらうという流れとした。バランスを崩したり,介助が必要だった場合は再度測定したが,原則として1回の練習の後に1回で測定した。測定にはゴニオメーターを使用し,片方の外側方向から肩峰と大転子を結ぶ線と大転子と大腿骨外側上顆を結ぶ線(大腿骨軸)のなす鋭角の角度を5°単位で読み取り,体そりかえり角度とした。大腿骨軸の延長線上から肩峰が体幹の伸展方向にある場合を正,屈曲方向にある場合を負の値として記録した。立位での膝肢位は,同じ外側方向から大腿骨軸と大腿骨外側上顆と外果を結ぶ線のなす鋭角の角度を測定した。膝伸展可動域の測定は,治療台の上で後ろにもたれかかった長座位で,膝肢位と同じ側を測定した。いずれも,ゴニオメーターを使用し,5°単位で読み取り,大腿骨軸の延長線上から外果が膝の伸展方向にある場合を正,屈曲方向にある場合を負の値として記録した。初回の測定と最終回の測定との間の期間は約3か月で,参加者はワークショップや実技で構成される約2時間の講座を6回受講した。体そりかえり角度と立位での膝肢位,膝伸展可動域の初回と最終回の間でウィルコクソン符号順位和検定を用いて比較し,それぞれの変化量どうしの関連性をスピアマンの順位相関係数の検定を用いて分析した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,発表者の所属する大学の倫理委員会の承認を受けて実施され,参加者全員に説明の上,書面にて同意を受けた。
【結果】体そりかえり角度は,中央値で初回35°から最終回30°へと有意に減少した(p<0.01)。立位での膝肢位は,中央値で0°から-5°へと有意に屈曲位に変化した(p<0.05)。膝伸展可動域は,中央値で初回も最終回も5°と有意な差は認められなかった。変化量どうしの関連性を分析した結果,体そりかえり角度と立位での膝肢位の変化量どうしの間で有意な正の相関関係が認められた(rs=0.37,p=0.008)。体そりかえり角度と膝伸展可動域の変化量どうしの間では有意な関連性は認められなかった。
【考察】体そりかえり角度の減少は,体幹の伸展方向の柔軟性の低下を意味する。今回の対象者は,比較的元気な中高齢者で,自らが運動指導を行なうための教室参加者でありながら,3か月という期間で柔軟性の変化が認められた。他の身体機能・構造の経時的な変化の影響などを含め,さらに検討する必要がある。今回の研究では,体そりかえり角度の測定の開始姿勢でもある立位で,膝肢位が中間位から軽度屈曲位へと変化した。一方で,膝伸展可動域などには有意な変化は認められなかったことから,身体構造の変化というよりも立位姿勢の機能的な変化と考えられる。体そりかえり角度と立位での膝肢位との間で有意な正の相関関係が認められたことは,膝屈曲位の肢位となったことが体幹の伸展方向の柔軟性の低下と関連している可能性を示唆している。体そりかえり角度の測定では,股関節屈筋の充分な伸張ができない場合などに膝を屈曲する代償動作が起こるため,下肢の筋の伸張性の評価なども含めたさらなる研究が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,体そりかえり角度の測定により体幹の伸展方向の柔軟性を評価することを提案する新しい視点での研究である。
【方法】対象は,平成22,23年度にN市で行われた運動指導サポーター養成教室の参加者で初回の測定をしていないものを除外した女性92名のうち,教室最終回での測定に参加した75名(平均年齢68.1±5.7歳)である。体そりかえり角度の測定は,両足を肩幅に開いた立位で両手を胸の前で合わせた姿勢を開始姿勢とし,合図とともに前方を見たまま体を後ろにそりかえるよう指示し,できるところまでで数秒止めてから自力で元に戻ってもらうという流れとした。バランスを崩したり,介助が必要だった場合は再度測定したが,原則として1回の練習の後に1回で測定した。測定にはゴニオメーターを使用し,片方の外側方向から肩峰と大転子を結ぶ線と大転子と大腿骨外側上顆を結ぶ線(大腿骨軸)のなす鋭角の角度を5°単位で読み取り,体そりかえり角度とした。大腿骨軸の延長線上から肩峰が体幹の伸展方向にある場合を正,屈曲方向にある場合を負の値として記録した。立位での膝肢位は,同じ外側方向から大腿骨軸と大腿骨外側上顆と外果を結ぶ線のなす鋭角の角度を測定した。膝伸展可動域の測定は,治療台の上で後ろにもたれかかった長座位で,膝肢位と同じ側を測定した。いずれも,ゴニオメーターを使用し,5°単位で読み取り,大腿骨軸の延長線上から外果が膝の伸展方向にある場合を正,屈曲方向にある場合を負の値として記録した。初回の測定と最終回の測定との間の期間は約3か月で,参加者はワークショップや実技で構成される約2時間の講座を6回受講した。体そりかえり角度と立位での膝肢位,膝伸展可動域の初回と最終回の間でウィルコクソン符号順位和検定を用いて比較し,それぞれの変化量どうしの関連性をスピアマンの順位相関係数の検定を用いて分析した。有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,発表者の所属する大学の倫理委員会の承認を受けて実施され,参加者全員に説明の上,書面にて同意を受けた。
【結果】体そりかえり角度は,中央値で初回35°から最終回30°へと有意に減少した(p<0.01)。立位での膝肢位は,中央値で0°から-5°へと有意に屈曲位に変化した(p<0.05)。膝伸展可動域は,中央値で初回も最終回も5°と有意な差は認められなかった。変化量どうしの関連性を分析した結果,体そりかえり角度と立位での膝肢位の変化量どうしの間で有意な正の相関関係が認められた(rs=0.37,p=0.008)。体そりかえり角度と膝伸展可動域の変化量どうしの間では有意な関連性は認められなかった。
【考察】体そりかえり角度の減少は,体幹の伸展方向の柔軟性の低下を意味する。今回の対象者は,比較的元気な中高齢者で,自らが運動指導を行なうための教室参加者でありながら,3か月という期間で柔軟性の変化が認められた。他の身体機能・構造の経時的な変化の影響などを含め,さらに検討する必要がある。今回の研究では,体そりかえり角度の測定の開始姿勢でもある立位で,膝肢位が中間位から軽度屈曲位へと変化した。一方で,膝伸展可動域などには有意な変化は認められなかったことから,身体構造の変化というよりも立位姿勢の機能的な変化と考えられる。体そりかえり角度と立位での膝肢位との間で有意な正の相関関係が認められたことは,膝屈曲位の肢位となったことが体幹の伸展方向の柔軟性の低下と関連している可能性を示唆している。体そりかえり角度の測定では,股関節屈筋の充分な伸張ができない場合などに膝を屈曲する代償動作が起こるため,下肢の筋の伸張性の評価なども含めたさらなる研究が必要であると考える。
【理学療法学研究としての意義】本研究は,体そりかえり角度の測定により体幹の伸展方向の柔軟性を評価することを提案する新しい視点での研究である。