[0631] 介護老人保健施設利用高齢者の転倒時の状況と起居動作実施能力および坐位・立位保持能力について
Keywords:転倒, 起居動作, 立位保持
【はじめに,目的】
わが国の高齢化は急速に進行し,現在高齢化率21%を越えた超高齢社会となっている。高齢者の主要な健康問題は寝たきり等の要介護状態であり,これを予防し日常生活活動の能力やquality of life(QOL)をいかに維持するかが重要である。10年以上前から要介護状態予防のための個別診断の項目として「転倒」が取り上げられて,寝たきり状態の原因となる骨折を防ぐためには転倒事故を予防することが重要であることは周知のことである。
特別養護老人ホーム,介護老人保健施設および病院等での転倒は,必ずしも運動機能や認知機能のみで転倒しやすさを判断することは容易ではない。本研究では,施設利用高齢者の転倒時の状況と各起居動作実施能力および坐位・立位保持能力を検討し,転倒要因を明らかにすることを目的とした。
【方法】
2011年2月から2013年6月までの期間で,都内にあるS介護老人保健施設利用者を対象とし同施設で管理している転倒報告書に記載のある32症例38件について,必要な情報を臨床記録から抽出した。転倒報告書は施設職員が転倒時あるいは転倒を発見した際の記録であり,記録した職種は介護福祉士および看護師が主となっている。記録内容は,場所,時間,転倒時に目的としていた行動,転倒時の状況,発見職員が推測した原因,外傷の有無,通常での問題行動・危険認識および転倒時に職員がどのような位置にいたかなどであり,必要な項目を抽出した。
各起居動作実施能力および坐位・立位保持能力については理学療法士または作業療法士が評価した内容を元に分類し点数化した。坐位および立位保持能力,起居動作(寝返り,起き上がり,立ち上がり),移乗動作および歩行自立度を,1を下位,5を上位として5段階に分類点数化した。また,歩行を自立して実施可能なレベルを独歩,1本杖歩行,クラッチ,歩行器および平行棒に分類した。
本研究は,当該施設での運営会議で承認を得た後,対象者に説明し同意を得た。各データは個人識別ができないように処理して実施した。
【結果】
時間帯は深夜0時から6時間ごとに4区分として件数を集計したところ,夕刻から早朝までがやや少ないが1日の全体に分散していた。場所としては居室21件,廊下9件,その他8件。転倒により発生した外傷は骨折1件,創傷・打撲22件,無15件。職員との関係では利用者単独行動32件,その他6件。目的としていた行動は,トイレ13件,特になし・不明16件,その他9件。行っていた動作は歩行15件,移動7件,立ち上がり6件,立位保持・立位での動作中6件,その他3件であった。また,本人の転倒に対する危険認識が無かったものは30件,あったものは2件,不明が6件であった。
転倒時に行っていた動作や姿勢を実際に対象者が有する各起居動作実施能力および坐位・立位保持能力から検討したところ,平行棒レベルの歩行能力の者が行っていた歩行は,独歩12件,杖・歩行器・介助歩行各1件であった。単独での立ち上がり・移乗動作時に転倒した者ではその能力が自立と判定されていたものは2件であり,その他11件は見守りまたは介助が必要な者が該当した。職員が一時離れた場合を含む単独での立位保持・立位での動作中の6件では立位保持能力が支持なしで安定している者はおらずいずれも不安定な者が転倒していた。
【考察】
当該介護老人保健施設での転倒時の状況として,職員の目が届かない単独行動であること,リスクの認識が低下している者が多いこと,排泄を目的としている場合か又はとくに目的が無い場合が多いこと,動作としては立位動作・立ち上がり・移乗・歩行などを行っていて実際に有している能力を越えた動作を行っていたことを特徴としてあげることできる。単独行動,リスク認識低下,排泄目的など従来から指摘されていることとの一致とともに,動作の実施能力や立位保持能力を越えた動作を実施している場面で転倒していることが明らかとなり,利用者の動作や立位保持能力の把握とともに見守り体制,環境整備が重要であることが示唆されている。
【理学療法学研究としての意義】
介護老人保健施設などにおいて発生する実際の転倒場面での実施動作や姿勢と,本人が有する能力との関係を明らかにした本研究は,理学療法学の立場から問題点を明らかにするものであり,転倒予防に寄与するものと考える。
わが国の高齢化は急速に進行し,現在高齢化率21%を越えた超高齢社会となっている。高齢者の主要な健康問題は寝たきり等の要介護状態であり,これを予防し日常生活活動の能力やquality of life(QOL)をいかに維持するかが重要である。10年以上前から要介護状態予防のための個別診断の項目として「転倒」が取り上げられて,寝たきり状態の原因となる骨折を防ぐためには転倒事故を予防することが重要であることは周知のことである。
特別養護老人ホーム,介護老人保健施設および病院等での転倒は,必ずしも運動機能や認知機能のみで転倒しやすさを判断することは容易ではない。本研究では,施設利用高齢者の転倒時の状況と各起居動作実施能力および坐位・立位保持能力を検討し,転倒要因を明らかにすることを目的とした。
【方法】
2011年2月から2013年6月までの期間で,都内にあるS介護老人保健施設利用者を対象とし同施設で管理している転倒報告書に記載のある32症例38件について,必要な情報を臨床記録から抽出した。転倒報告書は施設職員が転倒時あるいは転倒を発見した際の記録であり,記録した職種は介護福祉士および看護師が主となっている。記録内容は,場所,時間,転倒時に目的としていた行動,転倒時の状況,発見職員が推測した原因,外傷の有無,通常での問題行動・危険認識および転倒時に職員がどのような位置にいたかなどであり,必要な項目を抽出した。
各起居動作実施能力および坐位・立位保持能力については理学療法士または作業療法士が評価した内容を元に分類し点数化した。坐位および立位保持能力,起居動作(寝返り,起き上がり,立ち上がり),移乗動作および歩行自立度を,1を下位,5を上位として5段階に分類点数化した。また,歩行を自立して実施可能なレベルを独歩,1本杖歩行,クラッチ,歩行器および平行棒に分類した。
本研究は,当該施設での運営会議で承認を得た後,対象者に説明し同意を得た。各データは個人識別ができないように処理して実施した。
【結果】
時間帯は深夜0時から6時間ごとに4区分として件数を集計したところ,夕刻から早朝までがやや少ないが1日の全体に分散していた。場所としては居室21件,廊下9件,その他8件。転倒により発生した外傷は骨折1件,創傷・打撲22件,無15件。職員との関係では利用者単独行動32件,その他6件。目的としていた行動は,トイレ13件,特になし・不明16件,その他9件。行っていた動作は歩行15件,移動7件,立ち上がり6件,立位保持・立位での動作中6件,その他3件であった。また,本人の転倒に対する危険認識が無かったものは30件,あったものは2件,不明が6件であった。
転倒時に行っていた動作や姿勢を実際に対象者が有する各起居動作実施能力および坐位・立位保持能力から検討したところ,平行棒レベルの歩行能力の者が行っていた歩行は,独歩12件,杖・歩行器・介助歩行各1件であった。単独での立ち上がり・移乗動作時に転倒した者ではその能力が自立と判定されていたものは2件であり,その他11件は見守りまたは介助が必要な者が該当した。職員が一時離れた場合を含む単独での立位保持・立位での動作中の6件では立位保持能力が支持なしで安定している者はおらずいずれも不安定な者が転倒していた。
【考察】
当該介護老人保健施設での転倒時の状況として,職員の目が届かない単独行動であること,リスクの認識が低下している者が多いこと,排泄を目的としている場合か又はとくに目的が無い場合が多いこと,動作としては立位動作・立ち上がり・移乗・歩行などを行っていて実際に有している能力を越えた動作を行っていたことを特徴としてあげることできる。単独行動,リスク認識低下,排泄目的など従来から指摘されていることとの一致とともに,動作の実施能力や立位保持能力を越えた動作を実施している場面で転倒していることが明らかとなり,利用者の動作や立位保持能力の把握とともに見守り体制,環境整備が重要であることが示唆されている。
【理学療法学研究としての意義】
介護老人保健施設などにおいて発生する実際の転倒場面での実施動作や姿勢と,本人が有する能力との関係を明らかにした本研究は,理学療法学の立場から問題点を明らかにするものであり,転倒予防に寄与するものと考える。