[0636] 大腿骨近位部骨折術後患者における理学療法への参加状況の初期評価と機能予後との関連
Keywords:大腿骨近位部骨折術後患者, 参加状況, 機能予後
【はじめに,目的】
リハビリテーション患者において,リハビリテーションへの参加状況は機能予後と関連することが報告されている。前回われわれは,認知症合併例を含めた大腿骨近位部骨折術後患者において,理学療法への参加状況と機能予後が関連することを明らかにした。これまで,参加状況の評価は理学療法を実施した期間中の各セッションで行われ,全入院期間中の評価スコアの平均値が参加状況の指標として用いられているが,初期評価の有用性は明らかにされていない。今回われわれは,大腿骨近位部骨折術後患者において,参加状況の変動の有無や評価期間が全入院期間の参加状況や機能予後に及ぼす影響を検討した。
【方法】
対象はX年6月~X+2年6月の間にA病院回復期リハビリテーション病棟に入院した大腿骨近位部骨折(頚部骨折および転子部骨折)術後105例のうち,重篤な合併症または脳疾患の既往を有する例,リハビリテーション中断例,そして受傷前歩行に介助を要した例を除外した40例である。対象の内訳は,男性/女性が13/27例,年齢は80.8歳±9.1歳(平均±SD),術式は人工骨頭置換術/骨接合術が11/29例,受傷前の歩行に補装具なし/一本杖使用が34/6例であった。機能評価にはFunctional Independence Measureの運動項目(以下mFIM)を用い,入院時と退院時に評価した。理学療法への参加状況の評価にはPittsburgh Rehabilitation Participation Scale(以下PRPS)を用いた。これは,理学療法介入毎に担当療法士が患者の参加状況を1~6の6段階でスコア化する観察評価尺度である。PRPSスコアが入院期間中常に一定であった例をPRPS変動なし群,全入院期間中に少しでも変化した例をPRPS変動あり群とした。PRPSスコアについては,入院から5日目,7日目,10日目,14日目まで,および全入院期間の平均値をそれぞれ算出した。変動ありなし両群の入院日数,総単位数,入院時mFIM,退院時mFIM,および全入院期間のPRPSスコアをマン・ホイットニーのU検定を用いて比較した。全入院期間のPRPSスコアと他の期間のPRPSスコアとの相関,および,退院時mFIMと各PRPSスコアとの相関は,スピアマン順位相関係数を用いて検定した。なお,有意水準はいずれも5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を尊重して企画し,当院倫理委員会の承認を得た。対象者の個人情報の取り扱いについては,入院時に対象患者およびその家族に口頭または書面を以って説明し,同意を得た。
【結果】
対象者全体において,入院日数は78.4±15.5(平均±SD)日,総単位数は183.8±68.1単位,MMSEスコアは18.6±6.9点であり,全入院期間のPRPSスコアは5(3.7-5.0)(中央値(IQR)),入院時と退院時のmFIMは,それぞれ52.5(40.0-66.5)と75(55.5-80.5)であった。PRPS変動なし群は20例で,PRPSスコアは5(5.0-6.0),PRPS変動あり群は20例で,PRPSスコアは3.7(2.9-4.8)であった。両群を比較すると,入院日数と入院時mFIMには有意差を認めなかったが,PRPSスコア,総単位数および退院時mFIMはPRPS変動あり群の方が変動なし群よりも有意に低かった(p<0.05)。PRPS変動あり群のうち,入院から5日までに変動があったのは6/20例(30%),7日までは11/20例(55%),10日までは16/20例(80%),14日までは16/20例(80%)に変動を認めた。残りの4例では入院後1ヶ月以上経過してから変動していた。全入院期間のPRPSスコアと他の期間のPRPSスコアとの間には,いずれも強い相関を認めた(rho=0.96~0.97,p<0.01)。退院時mFIMは,全入院期間のPRPSスコアとは有意に相関し(rho=0.60,p<0.01),各PRPSスコアとの相関も有意であった(rho=0.59~0.62,p<0.01)。
【考察】
本研究において,入院当初のPRPSスコアは全入院期間のPRPSスコアと相関が高く,退院時mFIMとも有意に相関していた。入院期間中にPRPSスコアが変動した患者数は対象者の半数であり,そのほとんどの例でPRPSスコアは5を上回ることはなかった。つまり,理学療法に際して最大限の努力をしない患者では参加状況が不良で変動しやすい。その結果,PRPSは低く,総単位数も少なくなり,機能予後が不良となったと考えられる。PRPSスコアが入院当初には変動しなかったが,入院後11日目以降に初めて変動を認めたのは4例(10%)であった。したがって,入院後10日目までの期間で算出したPRPSスコアの平均値は,大腿骨近位部骨折術後リハビリテーションの初期評価として有用であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,大腿骨近位部骨折術後の入院患者において,入院当初の理学療法への参加状況は,全入院期間の参加状況や機能予後との関連が強く,初期評価の一つに加えるべき有用な評価指標である可能性が示された。
リハビリテーション患者において,リハビリテーションへの参加状況は機能予後と関連することが報告されている。前回われわれは,認知症合併例を含めた大腿骨近位部骨折術後患者において,理学療法への参加状況と機能予後が関連することを明らかにした。これまで,参加状況の評価は理学療法を実施した期間中の各セッションで行われ,全入院期間中の評価スコアの平均値が参加状況の指標として用いられているが,初期評価の有用性は明らかにされていない。今回われわれは,大腿骨近位部骨折術後患者において,参加状況の変動の有無や評価期間が全入院期間の参加状況や機能予後に及ぼす影響を検討した。
【方法】
対象はX年6月~X+2年6月の間にA病院回復期リハビリテーション病棟に入院した大腿骨近位部骨折(頚部骨折および転子部骨折)術後105例のうち,重篤な合併症または脳疾患の既往を有する例,リハビリテーション中断例,そして受傷前歩行に介助を要した例を除外した40例である。対象の内訳は,男性/女性が13/27例,年齢は80.8歳±9.1歳(平均±SD),術式は人工骨頭置換術/骨接合術が11/29例,受傷前の歩行に補装具なし/一本杖使用が34/6例であった。機能評価にはFunctional Independence Measureの運動項目(以下mFIM)を用い,入院時と退院時に評価した。理学療法への参加状況の評価にはPittsburgh Rehabilitation Participation Scale(以下PRPS)を用いた。これは,理学療法介入毎に担当療法士が患者の参加状況を1~6の6段階でスコア化する観察評価尺度である。PRPSスコアが入院期間中常に一定であった例をPRPS変動なし群,全入院期間中に少しでも変化した例をPRPS変動あり群とした。PRPSスコアについては,入院から5日目,7日目,10日目,14日目まで,および全入院期間の平均値をそれぞれ算出した。変動ありなし両群の入院日数,総単位数,入院時mFIM,退院時mFIM,および全入院期間のPRPSスコアをマン・ホイットニーのU検定を用いて比較した。全入院期間のPRPSスコアと他の期間のPRPSスコアとの相関,および,退院時mFIMと各PRPSスコアとの相関は,スピアマン順位相関係数を用いて検定した。なお,有意水準はいずれも5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を尊重して企画し,当院倫理委員会の承認を得た。対象者の個人情報の取り扱いについては,入院時に対象患者およびその家族に口頭または書面を以って説明し,同意を得た。
【結果】
対象者全体において,入院日数は78.4±15.5(平均±SD)日,総単位数は183.8±68.1単位,MMSEスコアは18.6±6.9点であり,全入院期間のPRPSスコアは5(3.7-5.0)(中央値(IQR)),入院時と退院時のmFIMは,それぞれ52.5(40.0-66.5)と75(55.5-80.5)であった。PRPS変動なし群は20例で,PRPSスコアは5(5.0-6.0),PRPS変動あり群は20例で,PRPSスコアは3.7(2.9-4.8)であった。両群を比較すると,入院日数と入院時mFIMには有意差を認めなかったが,PRPSスコア,総単位数および退院時mFIMはPRPS変動あり群の方が変動なし群よりも有意に低かった(p<0.05)。PRPS変動あり群のうち,入院から5日までに変動があったのは6/20例(30%),7日までは11/20例(55%),10日までは16/20例(80%),14日までは16/20例(80%)に変動を認めた。残りの4例では入院後1ヶ月以上経過してから変動していた。全入院期間のPRPSスコアと他の期間のPRPSスコアとの間には,いずれも強い相関を認めた(rho=0.96~0.97,p<0.01)。退院時mFIMは,全入院期間のPRPSスコアとは有意に相関し(rho=0.60,p<0.01),各PRPSスコアとの相関も有意であった(rho=0.59~0.62,p<0.01)。
【考察】
本研究において,入院当初のPRPSスコアは全入院期間のPRPSスコアと相関が高く,退院時mFIMとも有意に相関していた。入院期間中にPRPSスコアが変動した患者数は対象者の半数であり,そのほとんどの例でPRPSスコアは5を上回ることはなかった。つまり,理学療法に際して最大限の努力をしない患者では参加状況が不良で変動しやすい。その結果,PRPSは低く,総単位数も少なくなり,機能予後が不良となったと考えられる。PRPSスコアが入院当初には変動しなかったが,入院後11日目以降に初めて変動を認めたのは4例(10%)であった。したがって,入院後10日目までの期間で算出したPRPSスコアの平均値は,大腿骨近位部骨折術後リハビリテーションの初期評価として有用であると考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,大腿骨近位部骨折術後の入院患者において,入院当初の理学療法への参加状況は,全入院期間の参加状況や機能予後との関連が強く,初期評価の一つに加えるべき有用な評価指標である可能性が示された。