[0637] 大腿骨近位部骨折術後の平行棒内立ち上がり動作獲得と維持期の歩行能力との関連について
Keywords:平行棒内立ち上がり動作, 維持期, 歩行能力
【はじめに,目的】当院では大腿骨近位部骨折に対して地域連携パス(以下,パス)を使用し急性期の治療を行っている。理学療法(以下,PT)では早期から歩行予後を考慮する必要がある。診療ガイドラインにおいて歩行予後に影響する因子として年齢,受傷前歩行能力,認知症,骨折型(不安定型),筋力が報告されている。急性期の運動機能評価としては病棟で患肢の体重支持能力を評価した起立テスト(伊藤ら,2006)や平行棒内歩行(寺島ら,2009)が報告されている。本研究ではPTにおいて簡便に確認が可能である平行棒内立ち上がり(以下,立ち上がり)動作に着目した。本研究では,PT室来室初日の立ち上がり動作獲得有無と維持期の歩行能力との関連を検討し,立ち上がり動作の歩行予後予測因子としての有用性を明らかにすることを目的とした。
【方法】2009年4月から2011年6月の間に大腿骨頸部または転子部骨折で当院において手術を施行し,パスが維持期まで継続可能であった者を母集団とした。対象の条件は65歳以上,人工骨頭か骨接合術(short femoral nail)施行,受傷前自宅に居住し独歩か杖で歩行自立,術後3日目以内のPT室来室,維持期居住が自宅または施設入所に該当する者とした。術後全荷重不許可例,合併症による転科例,再骨折例は除外した。対象の性別は男性4名,女性33名,平均年齢は81.97歳,当院でのPT施行日数は平均5.64日,パス継続期間は術後平均156.58日であった。対象は術後2日目からPT室来室が許可され,立ち上がり動作を行い能力に応じて平行棒内歩行練習を行った。PT室来室初日に平行棒につかまり立ち上がり動作を介助なくできた場合,立ち上がり動作を獲得したと判断した。パス用紙から維持期の歩行能力として独歩または杖歩行の獲得有無(以下,独歩・杖歩行獲得)を調査した。立ち上がり動作獲得有無と維持期の独歩・杖歩行獲得との関連についてFisherの正確確率検定を用いて検討を行った。次に立ち上がり動作獲得有無が維持期の歩行能力の予測因子になるのか,従属変数を独歩・杖歩行獲得,独立変数を立ち上がり動作獲得有無,年齢,長谷川式簡易知能評価スケール(以下,HDS-R),受傷前の認知症高齢者の日常生活自立度の判定基準(以下,自立度)とし多重ロジスティック回帰解析を用いて検討した。変数の選択は尤度比検定による変数増加法を用いた。また,立ち上がり動作獲得不可能例を独歩・杖歩行獲得した群と獲得しなかった群の2群に分けて年齢,HDS-R,自立度に差があるのかMann-Whitney検定を用いて検討した。統計ソフトはSPSS ver.16を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を得てヘルシンキ宣言に沿って行った。本研究で扱う評価項目は診療に必要なもので実験的介入は行っていない。
【結果】立ち上がり動作を獲得できた者は15名,獲得できなかった者は22名であった。維持期に独歩・杖歩行を獲得した者は30名,獲得しなかった者は7名であった。立ち上がり動作と維持期の歩行能力には関連がみられ(p<0.05),立ち上がり動作を獲得できた15名すべてが独歩・杖歩行を獲得した。立ち上がり動作獲得不可能であった22名中15名が独歩・杖歩行を獲得し7名が獲得しなかった。独歩・杖歩行獲得に影響する変数としてはHDS-Rのみが選択された。モデルはχ2=6.00,p<0.05で,判別的中率は91.4%であった。Hosmer-Lemeshow検定の結果p=0.27で,オッズ比は1.17であった。立ち上がり動作獲得不可能例で独歩・杖歩行を獲得した群は81歳,獲得しなかった群は85歳で年齢(中央値)のみに有意差がみられた(p<0.05)。
【考察】先行研究で示されている歩行予後予測因子に立ち上がり動作を加えて検討した結果,認知症が歩行予後に影響することが示唆された。立ち上がり動作と維持期の歩行能力には関連があり,立ち上がり動作獲得例すべてが維持期に独歩・杖歩行を獲得していた。そのため,立ち上がり動作獲得により,維持期の歩行能力が独歩ないし杖歩行よりも低下しないことが早期に予測できる可能性がある。また,立ち上がり動作獲得不可能例の半数以上は維持期に独歩・杖歩行を獲得したが,独歩・杖歩行の獲得には年齢が関与していた。高齢な症例が立ち上がり動作を早期獲得できない場合,受傷前よりも歩行能力が低下する可能性がある。今回の検討により,立ち上がり動作は有用な予測因子とは断定できないが,歩行能力を予測する上での目安にはなると考える。
【理学療法学研究としての意義】PT室来室初日の立ち上がり動作は急性期の限られた期間に確認が可能で,セラピストの能力差が影響しない評価項目と考えられる。急性期の立場で歩行予後を検討することは地域連携において意義があると考える。
【方法】2009年4月から2011年6月の間に大腿骨頸部または転子部骨折で当院において手術を施行し,パスが維持期まで継続可能であった者を母集団とした。対象の条件は65歳以上,人工骨頭か骨接合術(short femoral nail)施行,受傷前自宅に居住し独歩か杖で歩行自立,術後3日目以内のPT室来室,維持期居住が自宅または施設入所に該当する者とした。術後全荷重不許可例,合併症による転科例,再骨折例は除外した。対象の性別は男性4名,女性33名,平均年齢は81.97歳,当院でのPT施行日数は平均5.64日,パス継続期間は術後平均156.58日であった。対象は術後2日目からPT室来室が許可され,立ち上がり動作を行い能力に応じて平行棒内歩行練習を行った。PT室来室初日に平行棒につかまり立ち上がり動作を介助なくできた場合,立ち上がり動作を獲得したと判断した。パス用紙から維持期の歩行能力として独歩または杖歩行の獲得有無(以下,独歩・杖歩行獲得)を調査した。立ち上がり動作獲得有無と維持期の独歩・杖歩行獲得との関連についてFisherの正確確率検定を用いて検討を行った。次に立ち上がり動作獲得有無が維持期の歩行能力の予測因子になるのか,従属変数を独歩・杖歩行獲得,独立変数を立ち上がり動作獲得有無,年齢,長谷川式簡易知能評価スケール(以下,HDS-R),受傷前の認知症高齢者の日常生活自立度の判定基準(以下,自立度)とし多重ロジスティック回帰解析を用いて検討した。変数の選択は尤度比検定による変数増加法を用いた。また,立ち上がり動作獲得不可能例を独歩・杖歩行獲得した群と獲得しなかった群の2群に分けて年齢,HDS-R,自立度に差があるのかMann-Whitney検定を用いて検討した。統計ソフトはSPSS ver.16を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を得てヘルシンキ宣言に沿って行った。本研究で扱う評価項目は診療に必要なもので実験的介入は行っていない。
【結果】立ち上がり動作を獲得できた者は15名,獲得できなかった者は22名であった。維持期に独歩・杖歩行を獲得した者は30名,獲得しなかった者は7名であった。立ち上がり動作と維持期の歩行能力には関連がみられ(p<0.05),立ち上がり動作を獲得できた15名すべてが独歩・杖歩行を獲得した。立ち上がり動作獲得不可能であった22名中15名が独歩・杖歩行を獲得し7名が獲得しなかった。独歩・杖歩行獲得に影響する変数としてはHDS-Rのみが選択された。モデルはχ2=6.00,p<0.05で,判別的中率は91.4%であった。Hosmer-Lemeshow検定の結果p=0.27で,オッズ比は1.17であった。立ち上がり動作獲得不可能例で独歩・杖歩行を獲得した群は81歳,獲得しなかった群は85歳で年齢(中央値)のみに有意差がみられた(p<0.05)。
【考察】先行研究で示されている歩行予後予測因子に立ち上がり動作を加えて検討した結果,認知症が歩行予後に影響することが示唆された。立ち上がり動作と維持期の歩行能力には関連があり,立ち上がり動作獲得例すべてが維持期に独歩・杖歩行を獲得していた。そのため,立ち上がり動作獲得により,維持期の歩行能力が独歩ないし杖歩行よりも低下しないことが早期に予測できる可能性がある。また,立ち上がり動作獲得不可能例の半数以上は維持期に独歩・杖歩行を獲得したが,独歩・杖歩行の獲得には年齢が関与していた。高齢な症例が立ち上がり動作を早期獲得できない場合,受傷前よりも歩行能力が低下する可能性がある。今回の検討により,立ち上がり動作は有用な予測因子とは断定できないが,歩行能力を予測する上での目安にはなると考える。
【理学療法学研究としての意義】PT室来室初日の立ち上がり動作は急性期の限られた期間に確認が可能で,セラピストの能力差が影響しない評価項目と考えられる。急性期の立場で歩行予後を検討することは地域連携において意義があると考える。