第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節13

Fri. May 30, 2014 5:10 PM - 6:00 PM ポスター会場 (運動器)

座長:生駒成亨(整形外科米盛病院リハビリテーション課)

運動器 ポスター

[0638] 認知症の行動心理学的症候が大腿骨近位部骨折術後の理学療法の参加状況と機能予後に及ぼす影響

武田賢二1, 相澤恵子1, 荒井香澄1, 相澤健大1, 白石明日香1, 岡本康平1, 庄司綾2, 市川信通1, 大浪更三1, 石井洋3, 田中尚文1,4 (1.医療法人仁泉会川崎こころ病院リハビリテーション科, 2.庄内医療生活協同組合鶴岡協立病院, 3.医療法人仁泉会川崎こころ病院, 4.東北大学大学院肢体不自由学分野)

Keywords:大腿骨近位部骨折, 認知症, 行動心理学的症候

【はじめに,目的】
大腿骨近位部骨折術後のリハビリテーションにおいて,認知症合併例であっても運動機能の向上は得られるが,非認知症例と比べて機能予後が不良であるとの報告が多い。われわれは前回の本学会において,大腿骨近位部骨折術後患者に対する入院理学療法後の退院時Functional Independence Measureの運動項目(以下mFIM)スコアは行動心理学的症候(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia,以下BPSD)の存在により低下すること,理学療法への参加状況は良好であるほど退院時mFIMスコアは高くなることを報告した。認知症には妄想や攻撃性といったBPSDを伴うことが多い。BPSDを有する認知症患者では理学療法への参加拒否もしばしば経験する。今回,われわれは,大腿骨近位部骨折術後のリハビリテーション目的で回復期リハビリテーション病棟へ入院した患者を対象にして,BPSDが理学療法への参加状況と機能予後に及ぼす影響を検討したので報告する。
【方法】
対象は,大腿骨近位部骨折術後にA病院の回復期リハビリテーション病棟へX年4月からX+2年4月まで入院した85例のうち,以下の組入基準を満たした35例である。組入基準は入院時Mini Mental State Examination(以下MMSE)23点以下,重篤な合併症なし,受傷前の歩行の自立とした。なお,本研究では入院時MMSEが23点以下を認知症ありとした。対象の内訳は,男性/女性が11/24例,平均年齢は84.4±6.0歳(75~96歳),術式では人工骨頭置換術/骨接合術が9/26例,平均入院日数は82.9±15.0日(35~126日),受傷前の歩行能力に関しては補助具なし/一本杖が31/4例であった。BPSDについては,症状の重症度と頻度を点数化して評価するBehavioral Pathology in Alzheimer’s Disease Frequency Weighted Severity Scale(以下BEHAVE-AD-FW)を用いて入院2週目に評価し,総点1点以上をBPSDありとした。理学療法への参加状況は,Pittsburgh Rehabilitation Participation Scale(以下PRPS)を用いて評価し,入院中の平均値を算出した。PRPSは,理学療法実施ごとに理学療法への参加状況を1点から6点の6段階で評価するもので,点数が高いほど参加が良好であることを示す。機能予後は,退院時のmFIMで評価した。本研究では,対象をBPSDなし群とBPSDあり群とに分け,退院時mFIM,MMSE,PRPSを比較した。そして各群でのPRPSと退院時mFIMとの関連を調べた。次に,BPSDあり群を,改善が良好である退院時mFIMが65点以上の群(以下改善良好群)と,そこまで到達しなかった64点以下の群(以下改善不良群)とに分け,その2群間でMMSE,PRPS,BEHAVE-AD-FWを比較した。統計手法はMann-WhitneyのU検定,Spearmanの順位相関係数を用い,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を尊重して企画し,当院倫理委員会の承認を得た。対象者の個人情報の取り扱い等については,入院時に対象患者及びその家族に口頭及び書面をもって説明し,同意を得た。
【結果】
BPSDは17例で認め,18例に認めなかった。BPSDあり群はBPSDなし群より,退院時mFIM,MMSE,PRPSが有意に低かった(p<0.01)。PRPSと退院時mFIMとの間には,BPSDなし群で有意な相関は認めなかったが(rho=0.14),BPSDあり群(rho=0.81,p<0.01)で正の相関を認めた。BPSDあり群を改善良好群と改善不良群に分けると,それぞれ6例と11例であった。改善不良群のPRPSは改善良好群よりも有意に低く(p<0.01),BEHAVE-AD-FWは有意に高かった(p<0.05)が,MMSEは両群間に有意差を認めなかった。
【考察】
本研究により,大腿骨近位部骨折術後の患者において,BPSDを認めた症例では,参加状況が悪く,機能予後も悪くなり,BPSDが重度である症例ほど理学療法への参加状況を悪化させる可能性があった。ただ,BPSDがみられる患者でも,理学療法への参加が得られる場合は機能改善が期待できることが示唆された。BPSDを認めない症例には参加状況と退院時mFIMとの間に相関が認められなかったが,これはBPSDを認めない症例では参加状況が概ね良好であったためと考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究により,大腿骨近位部骨折術後の認知症合併例において,BPSDが機能予後に影響する因子の一つであることが示唆された。したがって,認知症患者に対してBPSDの評価を実施し,BPSDへの対応を検討することは理学療法を行う上で重要と考える。