第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節13

Fri. May 30, 2014 5:10 PM - 6:00 PM ポスター会場 (運動器)

座長:生駒成亨(整形外科米盛病院リハビリテーション課)

運動器 ポスター

[0639] 大腿骨近位部骨折患者のサルコぺニア罹患割合と理学療法経過に関する検討

中馬優樹1, 山添忠史1, 井上達朗2, 坂本裕規3,4, 山田真寿実3, 岩田健太郎3, 田中利明2 (1.済生会兵庫県病院リハビリテーション科, 2.西神戸医療センターリハビリテーション技術部, 3.神戸市立医療センター中央市民病院リハビリテーション技術部, 4.神戸大学大学院保健学研究科)

Keywords:大腿骨近位部骨折, サルコぺニア, 多施設共同研究

【はじめに,目的】
大腿骨近位部骨折の予後因子として年齢や受傷前の歩行能力,認知症,栄養状態等との関連が報告がされている。「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン第2版」では2043年には約27万人の大腿骨近位部骨折が発生すると推計されている。これらの背景から急性期病院では早期回復・早期退院,地域連携パスの普及に伴い転院に向けた予後予測が必要となってくる。また近年,サルコペニアは高齢者の日常生活機能を低下させると報告されているが,対象は地域在住健常高齢者がほとんどであり,有疾患患者を対象とした報告は少ない。サルコペニアの判断アルゴリズムにはEuropean Working Group on Sarcopenia in Older People(EWGSOP)の基準や二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)やCTが用いられることが多いが,一般急性期病院が臨床現場で適応するのは難しい。しかし下方らが提唱している簡易基準は簡便にサルコペニアを分類可能である。そこで本研究は大腿骨近位部骨折患者を対象に簡易基準を用いてサルコペニアを分類し,術後ADLに与える影響を検証した。
尚,本研究は神戸市内急性期総合病院に勤務する理学療法士が多施設協力システムとデータベースを構築し調査を行った。
【方法】
研究デザインは前向き調査研究であり,第3次救急総合病院1施設,第2次救急総合病院2施設の計3施設で行った。それぞれ2013年6月から順次調査を開始し,10月31日までに入院した患者を調査対象とした。対象者は大腿骨近位部骨折の手術を施行した58症例のうち,65歳未満例,死亡・術後急性増悪例,受傷前歩行不能例,術後免荷期間を要した例を除いた35例(男性6名,女性29名,平均年齢83.9±6.7歳)を対象とした。対象者を下方らが定義した簡易基準に沿って握力が男性25kg未満,女性が20kg未満の患者を脆弱高齢者と判断し,脆弱高齢者のうちBMI18.5kg/m2未満もしくは下腿周径30cm未満をサルコペニアと判定し,サルコぺニア群と非サルコぺニア群に分類した。そして両群で年齢,性別,体組成(身長,体重,BMI),既往歴,骨折部位,術式,受傷原因,受傷前歩行能力,入院時血清データ(Alb・Hb・CRP値),下腿周径,握力,簡易栄養状態評価表(以下,MNA-SF)による分類,退院時歩行能力,FIM(術後,退院/転院時),在院日数,退院転機について比較した。統計学的解析には2群間の比較にはMann-Whitneyの検定と対応のないt-検定,カテゴリー変数にはχ²検定を用い,有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言を遵守し,各施設の倫理審査委員会の承認を得て調査を実施した。対象者には事前に研究の目的と方法を口頭で十分に説明し,同意が得られた者のみを対象とした。
【結果】
全対象者のうちサルコぺニア群は24名(68.6%),非サルコぺニア群は11名(31.4%)であった。サルコペニア群は有意に高齢(p<0.05)で,Alb・Hb値は低値を示し(p<0.05),MNA-SFでは低栄養のグループに偏りを認めた(p<0.01)。FIMでは退院転院時運動項目において非サルコペニア群は72.8±12.7であったのに対してサルコぺニア群は53.9±19.7と低値であったが(p<0.01),認知項目・術後運動項目では差を認めなかった。骨折部位,術式,在院日数,退院転機などその他項目については差を認めなかった。
【考察】
サルコぺニアは「進行性および全身性の骨格筋量および筋力の低下を特徴とする症候」と定義されている。先行研究では骨格筋は加齢とともに衰え,筋肉量は20歳から80歳の間に20~30%減少,筋力も30歳代から80歳代で約30~40%低下すると報告している。今回の結果でもサルコぺニア群は高齢であり,同様の結果となった。またAlb・Hb値ともに低値であり,MNA-SFでも低栄養のグループに偏りを認めた。このことからサルコぺニア患者は骨格筋量減少のみならず,低栄養状態である可能性が示唆された。
また退院転院時の運動項目FIMで有意に低下を認めており,骨格筋量の減少が大腿骨近位部骨折術後の機能改善を遅延させている可能性が示された。これは理学療法士が動作能力改善の予測に有用な情報であり,病棟スタッフとも情報を共有することで適切な介助量の把握やケアの充実にもつながると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
下方らの提唱している簡易基準を用いることで,サルコペニアを理学療法士単独で測定・分類が可能で,予後予測手段として有益である可能性が示された。また今回の調査では,大腿骨近位部骨折患者でサルコペニア罹患が退院転院時運動項目FIMを低下させている可能性が示された。これは早期地域連携,及び急性期病院入院中に多職種が専門性を発揮しチーム医療に携わる手掛かりになり,術前から評価できる機能予測の指標となる可能性がある。