[0640] MNA-SFを用いた大腿骨近位部骨折患者の受傷前栄養状態の評価とADLとの関連
キーワード:大腿骨近位部骨折, 栄養状態, 多施設共同研究
【はじめに,目的】
「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン改定第2版」は大腿骨近位部骨折患者の予後予測因子として年齢,認知症,受傷前歩行能力などを挙げている。しかし,国外における先行研究では観察研究において,血清データから栄養状態を定義し,低栄養状態が死亡率の上昇やせん妄の遷延,在院日数延長の予後に寄与している事を明らかにしている。簡易栄養状態評価表(以下MNA-SF)は質問紙を用いて栄養状態を3段階に分類し,血清データを含む客観的な指標とも関連が強い点で簡便で有益な評価法である。本疾患におけるMNA-SFを用いた術後ADLやリハビリテーション経過に関する報告はない。そこで本研究はMNA-SFを用いて受傷前栄養状態を評価し,術後ADLとの関連を検証した。
【方法】
第3次救急総合病院1施設,第2次救急総合病院2施設の計3施設で前向き調査を行った。それぞれ2013年6月から順次調査を開始し,10月31日までに入院した患者を調査対象とした。対象者は65歳以上の大腿骨近位部骨折患者58名のうち,転倒以外の受傷機転例,術後荷重制限例,MNA-SF聴取不可例を除外した35名とした。対象者をMNA-SFにより低栄養群(0-7point),リスク群(8-11point),良好群(12-14point)に分類し,年齢,性別,BMI,骨折部位,手術名,受傷前歩行能力,既往歴,入院時血清アルブミン値(以下Alb値),ヘモグロビン値(以下Hb値),CRP,下腿周径,握力を評価した。アウトカムとしてFIM(術後2日目,退院時),術後2週でのTimed Up and Go test(以下TUG),5chair stand(以下5CS)を測定した。また各歩行練習開始に要した日数,理学療法単位数,在院日数,転帰を調査した。統計学的解析はone-way ANOVA,Kruskal-Wallis検定を行い,事後検定としてTukey-Kramer法,Steel-Dwass法を用いた。カテゴリー変数はχ2検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は各施設における倫理委員会の承諾を得て行った。また対象者には実験の目的と方法を説明し,同意を得た上で実施した。
【結果】
対象者はMNA-SFにより,低栄養群4名(11.4%),リスク群13名(37.2%),良好群18名(51.4%)に分類された。各群を比較した結果,Alb値がリスク群(3.7±0.4 g/dl:平均±標準偏差),良好群(3.9±0.5g/dl)ともに低栄養群(2.5±1.1 g/dl)に比べ有意に高かった(P<0.01)。Hb値は良好群(12.7±1.8g/dl)が低栄養群(9.2±1.7g/dl)に比べ有意に高かった(P<0.05)。下腿周径はリスク群(27.1±1.5cm)と良好群(29.6±3.0cm)が低栄養群(26.0±1.2cm)との間に有意差を認めた(P<0.05)。握力に差はなかった。メインアウトカムであるFIMは運動項目において術後は差を認めなかったが,退院時に低栄養群47.0±15.7点,リスク群49.1±18.4点,良好群70.0±14.4点となり良好群とリスク群との間で有意差を認めた(P<0.05)。TUG,5CSに差はなかった。手術-歩行器歩行開始までの日数が低栄養群16.0±11.0日,リスク群9.8±5.5日,良好群5.3±2.6日で低栄養群と良好群間に有意差を認めた(P<0.05)。単位数,在院日数に差はなかった。
【考察】
本研究でMNA-SFを用いて評価した受傷前栄養状態が術後ADLとリハビリテーション経過に影響を与える事を明らかにした。またAlb値とHb値において3群間に差を認めた事は,MNA-SFの客観的指標としての有用性を示唆している。本疾患のMNAを用いた介入研究では入院中の評価で低栄養群0-3%,リスク群28-29%,良好群69-71%とし,適切な栄養介入により入院期間中の栄養摂取量の改善や3か月後のQOL低下を軽減させたと報告している。また,70歳以上の股関節骨折患者を対象とした介入研究で介入群におけるせん妄の短期化と在院日数の短縮を報告している。本研究では受傷前栄養状態と術後ADLとの関連を明らかにし,MNA-SFの予後予測としての有用性を明らかにしたが今後は最終的な歩行能力の把握など長期的予後との関連を検証する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
MNA-SFは短時間で簡便に実施でき,本疾患の機能予後を評価する事ができる点で臨床上有益な評価法であると考える。
「大腿骨頚部/転子部骨折診療ガイドライン改定第2版」は大腿骨近位部骨折患者の予後予測因子として年齢,認知症,受傷前歩行能力などを挙げている。しかし,国外における先行研究では観察研究において,血清データから栄養状態を定義し,低栄養状態が死亡率の上昇やせん妄の遷延,在院日数延長の予後に寄与している事を明らかにしている。簡易栄養状態評価表(以下MNA-SF)は質問紙を用いて栄養状態を3段階に分類し,血清データを含む客観的な指標とも関連が強い点で簡便で有益な評価法である。本疾患におけるMNA-SFを用いた術後ADLやリハビリテーション経過に関する報告はない。そこで本研究はMNA-SFを用いて受傷前栄養状態を評価し,術後ADLとの関連を検証した。
【方法】
第3次救急総合病院1施設,第2次救急総合病院2施設の計3施設で前向き調査を行った。それぞれ2013年6月から順次調査を開始し,10月31日までに入院した患者を調査対象とした。対象者は65歳以上の大腿骨近位部骨折患者58名のうち,転倒以外の受傷機転例,術後荷重制限例,MNA-SF聴取不可例を除外した35名とした。対象者をMNA-SFにより低栄養群(0-7point),リスク群(8-11point),良好群(12-14point)に分類し,年齢,性別,BMI,骨折部位,手術名,受傷前歩行能力,既往歴,入院時血清アルブミン値(以下Alb値),ヘモグロビン値(以下Hb値),CRP,下腿周径,握力を評価した。アウトカムとしてFIM(術後2日目,退院時),術後2週でのTimed Up and Go test(以下TUG),5chair stand(以下5CS)を測定した。また各歩行練習開始に要した日数,理学療法単位数,在院日数,転帰を調査した。統計学的解析はone-way ANOVA,Kruskal-Wallis検定を行い,事後検定としてTukey-Kramer法,Steel-Dwass法を用いた。カテゴリー変数はχ2検定を行った。有意水準は5%未満とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は各施設における倫理委員会の承諾を得て行った。また対象者には実験の目的と方法を説明し,同意を得た上で実施した。
【結果】
対象者はMNA-SFにより,低栄養群4名(11.4%),リスク群13名(37.2%),良好群18名(51.4%)に分類された。各群を比較した結果,Alb値がリスク群(3.7±0.4 g/dl:平均±標準偏差),良好群(3.9±0.5g/dl)ともに低栄養群(2.5±1.1 g/dl)に比べ有意に高かった(P<0.01)。Hb値は良好群(12.7±1.8g/dl)が低栄養群(9.2±1.7g/dl)に比べ有意に高かった(P<0.05)。下腿周径はリスク群(27.1±1.5cm)と良好群(29.6±3.0cm)が低栄養群(26.0±1.2cm)との間に有意差を認めた(P<0.05)。握力に差はなかった。メインアウトカムであるFIMは運動項目において術後は差を認めなかったが,退院時に低栄養群47.0±15.7点,リスク群49.1±18.4点,良好群70.0±14.4点となり良好群とリスク群との間で有意差を認めた(P<0.05)。TUG,5CSに差はなかった。手術-歩行器歩行開始までの日数が低栄養群16.0±11.0日,リスク群9.8±5.5日,良好群5.3±2.6日で低栄養群と良好群間に有意差を認めた(P<0.05)。単位数,在院日数に差はなかった。
【考察】
本研究でMNA-SFを用いて評価した受傷前栄養状態が術後ADLとリハビリテーション経過に影響を与える事を明らかにした。またAlb値とHb値において3群間に差を認めた事は,MNA-SFの客観的指標としての有用性を示唆している。本疾患のMNAを用いた介入研究では入院中の評価で低栄養群0-3%,リスク群28-29%,良好群69-71%とし,適切な栄養介入により入院期間中の栄養摂取量の改善や3か月後のQOL低下を軽減させたと報告している。また,70歳以上の股関節骨折患者を対象とした介入研究で介入群におけるせん妄の短期化と在院日数の短縮を報告している。本研究では受傷前栄養状態と術後ADLとの関連を明らかにし,MNA-SFの予後予測としての有用性を明らかにしたが今後は最終的な歩行能力の把握など長期的予後との関連を検証する必要があると考える。
【理学療法学研究としての意義】
MNA-SFは短時間で簡便に実施でき,本疾患の機能予後を評価する事ができる点で臨床上有益な評価法であると考える。