[0641] 大腿骨頸部・転子部骨折術後患者における入院期の下肢筋力変化量について
キーワード:大腿骨頸部・転子部骨折, 筋力改善量, 下肢筋力
【はじめに,目的】
昨年,我々は大腿骨頸部・転子部骨折(大腿骨骨折)術後患者の術後1週目における退院時の歩行自立度予測因子として,膝関節伸展筋力(患側)が関連すること報告した(武市ら,2012)。また,その筋力水準については,歩行自立群が歩行非自立群に比し高値であることを示した(武市ら,2012)。しかし,先行研究は,歩行自立度別における下肢筋力の差異について,一時点で検討した横断研究であり,筋力の経時的変化量に差異があるかについて検討したものは極めて少ない。そこで,我々は,急性期病院入院中の下肢筋力変化量には,歩行自立度別に差異があるという仮説をたて,それを検証すべく以下の検討を行った。本研究の目的は,大腿骨骨折術後患者における歩行自立度別の下肢筋力変化量について明らかにすることである。
【方法】
対象は,2011年3月から2013年7月の間に,当院に大腿骨骨折のため手術目的で入院後,理学療法の依頼を受けた連続191例である。本研究における取り込み基準は,後述する初期および最終評価が実施可能かつ,除外基準に該当しない症例である。除外基準は,認知機能低下例(改訂長谷川式簡易認知機能検査:HDS-R;20点以下),入院前ADL低下例(屋外独歩困難),術後合併症例である。入院時の基本属性(年齢,性別,術式),手術から退院までの日数を診療記録より調査した。測定項目は初期評価(術後1週目)と最終評価(退院時)時に,疼痛および下肢筋力を測定した。疼痛は,VAS(visual analog scale)を用い,術創部の安静時および荷重時痛について調査した。下肢筋力の指標として我々は,膝関節伸展筋,股関節外転筋,股関節伸展筋を用いた。検者は,筋力計(アニマ株式会社,μ-tasF1)にて被検者の健側,患側の等尺性筋力値(kgf)を測定した。歩行自立度は,退院1日前に評価された。歩行自立度は,FIMの移動自立度(L-FIM)に従い,歩行自立群(L-FIM:6以上)と非自立群(L-FIM:6未満)に分類された。
統計解析として我々は,まず歩行自立度別の基本属性の差異について,対応のないt検定,χ2検定を用いた。次に,疼痛,下肢筋力の初期評価から最終評価にかけての経時的変化量に2群間(歩行自立,非自立群)で差異があるかを検討するため,対応のないt検定を用いた。また,下肢筋力変化量の差異に対する交絡因子の影響を検討するため,年齢,疼痛の変化量,初期評価時の下肢筋力を共変量とした,共分散分析を実施した。なお,統計学的有意差判定基準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院生命倫理委員会の承認を得て実施された(承認番号:第91号)。
【結果】
連続症例191例のうち,取り込み基準を満たす48例を本研究の最終対象者とした。そのうち,退院時における歩行自立群は31例,非自立群は17例であった。基本属性は,年齢(自立群71.1/非自立群82.2歳),性別(男性:29/18%),術式(人工骨頭置換術:61/53%)であり,年齢において2群間に差を認めた(p<0.05)。手術から退院までの日数は,歩行自立群:31.3±10.7,歩行非自立群:30.5±11.7日であり,2群間で差を示さなかった。歩行自立度別の初期評価から最終評価にかけての各要因の経時的変化量を示す。疼痛は,安静時VAS(自立群:-0.6±0.9,非自立群:-0.9±1.5),荷重VAS(自立群:-2.6±2.6,非自立群:-2.3±2.9)であり,両群ともに疼痛の改善を認めたが,変化量は両群間で差を認めなかった。下肢筋力は,膝関節伸展筋力(健側:3.8±5.3,2.7±3.2,患側:3.7±5.3,2.9±3.0kgf),股関節外転筋力(健側:3.8±3.1,1.7±2.8,患側:5.0±3.1,2.8±2.1 kgf),股関節伸展筋力(健側:3.8±4.5,3.4±3.3,患側:5.0±4.7,3.8±3.4kgf)であり歩行自立,非自立群ともに下肢筋力(健側,患側)の改善を認めた。変化量について2群間比較の結果,健側,患側の股関節外転筋力において,歩行自立群が歩行非自立群に比し有意に改善した(p<0.05)。膝関節伸展筋力,股関節伸展筋力の変化量は2群間で差を示さなかった。股関節外転筋力の変化量は,年齢,疼痛の変化量,初期評価時の健側,患側股関節外転筋力を共変量とした共分散分析においても,健側,患側ともに歩行自立群が有意に改善した(p<0.05)。
【考察】
本研究の結果,大腿骨骨折術後患者の入院期における下肢筋力変化量は,歩行自立度別に健側,患側の股関節外転筋力に差異があることが明らかとなった。また,共分散分析の結果,股関節外転筋力の変化量の差異には,年齢,疼痛,初期評価時の外転筋力が交絡因子として影響がない可能性が示された。したがって,退院時歩行自立度には,先行研究で予測因子として報告した膝関節伸展筋力に加え,股関節外転筋力が影響を与える因子となりうる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,大腿骨骨折術後患者において,歩行自立度別の筋力変化量は,股関節外転筋力に差異があることを示した点である。
昨年,我々は大腿骨頸部・転子部骨折(大腿骨骨折)術後患者の術後1週目における退院時の歩行自立度予測因子として,膝関節伸展筋力(患側)が関連すること報告した(武市ら,2012)。また,その筋力水準については,歩行自立群が歩行非自立群に比し高値であることを示した(武市ら,2012)。しかし,先行研究は,歩行自立度別における下肢筋力の差異について,一時点で検討した横断研究であり,筋力の経時的変化量に差異があるかについて検討したものは極めて少ない。そこで,我々は,急性期病院入院中の下肢筋力変化量には,歩行自立度別に差異があるという仮説をたて,それを検証すべく以下の検討を行った。本研究の目的は,大腿骨骨折術後患者における歩行自立度別の下肢筋力変化量について明らかにすることである。
【方法】
対象は,2011年3月から2013年7月の間に,当院に大腿骨骨折のため手術目的で入院後,理学療法の依頼を受けた連続191例である。本研究における取り込み基準は,後述する初期および最終評価が実施可能かつ,除外基準に該当しない症例である。除外基準は,認知機能低下例(改訂長谷川式簡易認知機能検査:HDS-R;20点以下),入院前ADL低下例(屋外独歩困難),術後合併症例である。入院時の基本属性(年齢,性別,術式),手術から退院までの日数を診療記録より調査した。測定項目は初期評価(術後1週目)と最終評価(退院時)時に,疼痛および下肢筋力を測定した。疼痛は,VAS(visual analog scale)を用い,術創部の安静時および荷重時痛について調査した。下肢筋力の指標として我々は,膝関節伸展筋,股関節外転筋,股関節伸展筋を用いた。検者は,筋力計(アニマ株式会社,μ-tasF1)にて被検者の健側,患側の等尺性筋力値(kgf)を測定した。歩行自立度は,退院1日前に評価された。歩行自立度は,FIMの移動自立度(L-FIM)に従い,歩行自立群(L-FIM:6以上)と非自立群(L-FIM:6未満)に分類された。
統計解析として我々は,まず歩行自立度別の基本属性の差異について,対応のないt検定,χ2検定を用いた。次に,疼痛,下肢筋力の初期評価から最終評価にかけての経時的変化量に2群間(歩行自立,非自立群)で差異があるかを検討するため,対応のないt検定を用いた。また,下肢筋力変化量の差異に対する交絡因子の影響を検討するため,年齢,疼痛の変化量,初期評価時の下肢筋力を共変量とした,共分散分析を実施した。なお,統計学的有意差判定基準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究は当院生命倫理委員会の承認を得て実施された(承認番号:第91号)。
【結果】
連続症例191例のうち,取り込み基準を満たす48例を本研究の最終対象者とした。そのうち,退院時における歩行自立群は31例,非自立群は17例であった。基本属性は,年齢(自立群71.1/非自立群82.2歳),性別(男性:29/18%),術式(人工骨頭置換術:61/53%)であり,年齢において2群間に差を認めた(p<0.05)。手術から退院までの日数は,歩行自立群:31.3±10.7,歩行非自立群:30.5±11.7日であり,2群間で差を示さなかった。歩行自立度別の初期評価から最終評価にかけての各要因の経時的変化量を示す。疼痛は,安静時VAS(自立群:-0.6±0.9,非自立群:-0.9±1.5),荷重VAS(自立群:-2.6±2.6,非自立群:-2.3±2.9)であり,両群ともに疼痛の改善を認めたが,変化量は両群間で差を認めなかった。下肢筋力は,膝関節伸展筋力(健側:3.8±5.3,2.7±3.2,患側:3.7±5.3,2.9±3.0kgf),股関節外転筋力(健側:3.8±3.1,1.7±2.8,患側:5.0±3.1,2.8±2.1 kgf),股関節伸展筋力(健側:3.8±4.5,3.4±3.3,患側:5.0±4.7,3.8±3.4kgf)であり歩行自立,非自立群ともに下肢筋力(健側,患側)の改善を認めた。変化量について2群間比較の結果,健側,患側の股関節外転筋力において,歩行自立群が歩行非自立群に比し有意に改善した(p<0.05)。膝関節伸展筋力,股関節伸展筋力の変化量は2群間で差を示さなかった。股関節外転筋力の変化量は,年齢,疼痛の変化量,初期評価時の健側,患側股関節外転筋力を共変量とした共分散分析においても,健側,患側ともに歩行自立群が有意に改善した(p<0.05)。
【考察】
本研究の結果,大腿骨骨折術後患者の入院期における下肢筋力変化量は,歩行自立度別に健側,患側の股関節外転筋力に差異があることが明らかとなった。また,共分散分析の結果,股関節外転筋力の変化量の差異には,年齢,疼痛,初期評価時の外転筋力が交絡因子として影響がない可能性が示された。したがって,退院時歩行自立度には,先行研究で予測因子として報告した膝関節伸展筋力に加え,股関節外転筋力が影響を与える因子となりうる可能性が示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
本研究の意義は,大腿骨骨折術後患者において,歩行自立度別の筋力変化量は,股関節外転筋力に差異があることを示した点である。