[0642] 内側型両変形性膝関節症患者の歩行の特徴について
キーワード:変形性膝関節症, 歩行速度, 床反力前後成分
【はじめに,目的】変形性膝関節症(以下,膝OA)は中高年者の運動器疾患の中でも特に有病率が高く,65歳以上では約13%が罹患している。これまでに膝OA患者を対象に歩行速度と関連のある因子が多数報告されている。一方,膝OA患者の歩行は着床初期の衝撃吸収が不十分であると考えられているが,歩行速度に関与し,制動期と駆動期に分けられることからどちらの周期に機能低下が生じているか検討できる床反力前後成分について,健常者と膝OA患者とを比較した報告はない。
本研究の目的は,膝OA患者における歩行速度と床反力前後成分の制動期力積値,駆動期力積値の関係を検討し,健常者と比較することで膝OA患者の歩行の特徴を明らかにすることである。
【方法】
対象は,内側型両膝OAと診断され,全人工膝関節置換術施行目的で当院に入院した女性10例,20肢(以下,OA群:年齢76.7±4.8歳,身長150.1±5.8cm,BMI 25.5±2.6 kg/m2)である。被検者は全て術前に10m以上独歩可能であった。被検者除外基準は股・足関節に変形性関節症を合併する者,下肢・脊椎骨折,脳血管障害の既往のある者,腰椎ヘルニアなど末梢神経症状を呈する者とした。OA群の各足は,術予定側(以下,術側:膝屈曲ROM 117.0±17.7度,伸展-10.5±6.0度)と反対側(以下,非術側:屈曲131.0±9.1度,伸展-5.0±4.7度)に分けた。
コントロールとして,整形外科的に両下肢に障害を有さない健常女性12例,24肢(以下,C群:年齢25.2±2.3歳,身長157.8±5.1cm,BMI 21.1±2.4 kg/m2)を計測した。C群の各足はボールを蹴る足を利き足(右11例,左1例)とし,全例利き手側であった。
被検者は約8mの直線歩行路で自由歩行を行った。計測には床反力計(Kistler社製)2基を用いて,サンプリング周波数1000Hzにて計測した。歩行速度は,歩行路の中央にある床反力計1.2m間にかかる時間を矢状面映像から求め,その区間の平均値を算出した。平均力積は,着床初期から立脚中期の床反力前後成分の面積を制動期時間で除した値を制動期平均力積値(Braking Mean Amplitude;以下,BA),立脚中期から前遊脚期の面積を駆動期時間で除した値を駆動期平均力積値(Propulsive Mean Amplitude;以下,PA)とした。
検討項目は,歩行速度,各足のBA・PAとした。統計学的方法として,BA,PAについて各足間でt検定を用いて比較検討した。また,歩行速度とBA,PAの関係をPearson積率相関係数検定にて検討した。有意水準は5%未満とし,解析にはR version 2.12.2を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に則り,被検者には研究の目的と内容を説明し,書面にて研究参加に同意を得た上で計測を行った。
【結 果】
歩行速度はOA群(0.84±0.20m/s)でC群(1.25±0.13m/s)に比べ有意に低下していた。BA,PAは,OA群(BA;術側32.7±8.4N,非術側35.0±8.4N,PA;術側40.3±11.0N,非術側39.9±11.8N),C群(BA;利き足50.4±10.7N,非利き足48.3±10.4N,PA;利き足60.1±13.1,非利き足62.6±13.1N)ともに各足間において有意差は認められなかった。しかし,歩行速度との関係は,C群は歩行速度と利き足BA(r=0.41,p=0.046),利き足PA(r=0.41,p=0.048)に相関関係がみられ,非利き足BA(r=0.27,p=0.19),非利き足PA(r=0.35,p=0.085)には相関関係がみられなかった。一方,OA群は歩行速度と術側BA(r=0.50,p=0.026),非術側PA(r=0.63,p=0.0028)に相関関係がみられ,術側PA(r=0.410,p=0.072),非術側BA(r=0.44,p=0.051)には相関関係がみられなかった。
【考 察】
健常者と同様,膝OA患者でも各足のBAとPAには有意差がみられなかった。この理由として,膝関節ROMに左右差があっても,衝撃吸収と推進が各足ともに同程度行えていることが考えられた。歩行速度とBA,PAの関係について,健常者では利き足BA,PAに相関関係があり,膝OA患者では術側BA,非術側PAに相関関係がみられた。健常者では自由歩行をする際,主に利き足の制動期で推進力を維持し,駆動期で推進力を生み出していることが考えられるが,一方,膝OA患者では非術側の駆動期で推進力を生み出し,その推進力を維持するために術側制動期で衝撃吸収し,下肢を安定させて推進力を維持し,同側駆動期へ荷重の受け継ぎを行っていると考えられた。
以上より,膝OA患者の歩行の特徴として,より関節機能の低下した術側下肢でも衝撃吸収が行えるように,非術側下肢は推進力を制御し,歩行速度を低下させていることが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,歩行速度と床反力前後成分力積値の関係に着目し,内側型両膝OA女性患者の歩行の特徴を示した。これは罹患者の治療戦略を立てる上で重要な知見となると考える。
本研究の目的は,膝OA患者における歩行速度と床反力前後成分の制動期力積値,駆動期力積値の関係を検討し,健常者と比較することで膝OA患者の歩行の特徴を明らかにすることである。
【方法】
対象は,内側型両膝OAと診断され,全人工膝関節置換術施行目的で当院に入院した女性10例,20肢(以下,OA群:年齢76.7±4.8歳,身長150.1±5.8cm,BMI 25.5±2.6 kg/m2)である。被検者は全て術前に10m以上独歩可能であった。被検者除外基準は股・足関節に変形性関節症を合併する者,下肢・脊椎骨折,脳血管障害の既往のある者,腰椎ヘルニアなど末梢神経症状を呈する者とした。OA群の各足は,術予定側(以下,術側:膝屈曲ROM 117.0±17.7度,伸展-10.5±6.0度)と反対側(以下,非術側:屈曲131.0±9.1度,伸展-5.0±4.7度)に分けた。
コントロールとして,整形外科的に両下肢に障害を有さない健常女性12例,24肢(以下,C群:年齢25.2±2.3歳,身長157.8±5.1cm,BMI 21.1±2.4 kg/m2)を計測した。C群の各足はボールを蹴る足を利き足(右11例,左1例)とし,全例利き手側であった。
被検者は約8mの直線歩行路で自由歩行を行った。計測には床反力計(Kistler社製)2基を用いて,サンプリング周波数1000Hzにて計測した。歩行速度は,歩行路の中央にある床反力計1.2m間にかかる時間を矢状面映像から求め,その区間の平均値を算出した。平均力積は,着床初期から立脚中期の床反力前後成分の面積を制動期時間で除した値を制動期平均力積値(Braking Mean Amplitude;以下,BA),立脚中期から前遊脚期の面積を駆動期時間で除した値を駆動期平均力積値(Propulsive Mean Amplitude;以下,PA)とした。
検討項目は,歩行速度,各足のBA・PAとした。統計学的方法として,BA,PAについて各足間でt検定を用いて比較検討した。また,歩行速度とBA,PAの関係をPearson積率相関係数検定にて検討した。有意水準は5%未満とし,解析にはR version 2.12.2を使用した。
【倫理的配慮,説明と同意】
ヘルシンキ宣言に則り,被検者には研究の目的と内容を説明し,書面にて研究参加に同意を得た上で計測を行った。
【結 果】
歩行速度はOA群(0.84±0.20m/s)でC群(1.25±0.13m/s)に比べ有意に低下していた。BA,PAは,OA群(BA;術側32.7±8.4N,非術側35.0±8.4N,PA;術側40.3±11.0N,非術側39.9±11.8N),C群(BA;利き足50.4±10.7N,非利き足48.3±10.4N,PA;利き足60.1±13.1,非利き足62.6±13.1N)ともに各足間において有意差は認められなかった。しかし,歩行速度との関係は,C群は歩行速度と利き足BA(r=0.41,p=0.046),利き足PA(r=0.41,p=0.048)に相関関係がみられ,非利き足BA(r=0.27,p=0.19),非利き足PA(r=0.35,p=0.085)には相関関係がみられなかった。一方,OA群は歩行速度と術側BA(r=0.50,p=0.026),非術側PA(r=0.63,p=0.0028)に相関関係がみられ,術側PA(r=0.410,p=0.072),非術側BA(r=0.44,p=0.051)には相関関係がみられなかった。
【考 察】
健常者と同様,膝OA患者でも各足のBAとPAには有意差がみられなかった。この理由として,膝関節ROMに左右差があっても,衝撃吸収と推進が各足ともに同程度行えていることが考えられた。歩行速度とBA,PAの関係について,健常者では利き足BA,PAに相関関係があり,膝OA患者では術側BA,非術側PAに相関関係がみられた。健常者では自由歩行をする際,主に利き足の制動期で推進力を維持し,駆動期で推進力を生み出していることが考えられるが,一方,膝OA患者では非術側の駆動期で推進力を生み出し,その推進力を維持するために術側制動期で衝撃吸収し,下肢を安定させて推進力を維持し,同側駆動期へ荷重の受け継ぎを行っていると考えられた。
以上より,膝OA患者の歩行の特徴として,より関節機能の低下した術側下肢でも衝撃吸収が行えるように,非術側下肢は推進力を制御し,歩行速度を低下させていることが考えられた。
【理学療法学研究としての意義】
本研究は,歩行速度と床反力前後成分力積値の関係に着目し,内側型両膝OA女性患者の歩行の特徴を示した。これは罹患者の治療戦略を立てる上で重要な知見となると考える。