第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 運動器理学療法 ポスター

骨・関節14

Fri. May 30, 2014 5:10 PM - 6:00 PM ポスター会場 (運動器)

座長:山中正紀(北海道大学大学院保健科学研究院機能回復学分野)

運動器 ポスター

[0643] 変形性膝関節症患者の歩行時の膝関節伸展筋群における質的筋活動分析

深井健司1, 羽田清貴1, 加藤浩2, 徳田一貫3, 奥村晃司1, 杉木知武1, 尾川貴洋4, 川嶌眞人4 (1.社会医療法人玄真堂川嶌整形外科病院リハビリテーション科, 2.学校法人熊本城北学園九州看護福祉大学看護福祉学部リハビリテーション学科, 3.社会医療法人玄真堂かわしまクリニックリハビリテーション科, 4.社会医療法人玄真堂川嶌整形外科病院整形外科)

Keywords:変形性膝関節症, 膝関節伸展筋群, EMGパワースペクトル解析

【目的】
人工膝関節全置換術(以下,TKA)前後の理学療法は,膝関節伸展筋群の筋力増強法が主体に実施されている。しかし,筋力増強法のみでは歩行動作改善に結びつきにくく,従来の筋力増強法に加え,筋の質的機能向上を図ることが歩行改善には重要であると考える。そこで本研究の目的は,TKA術前の変形性膝関節症(以下,膝OA)患者における歩行時の膝関節伸展筋群の質的な筋活動について明らかにすることである。
【対象と方法】
被検者は,過去に膝関節痛の経験を有さない健常女性9例9膝(平均年齢56.2±5.58歳,以下,健常群),当院で膝OAと診断されTKA目的で入院となった女性の膝OA患者8例9膝(平均年齢70.0±7.56歳,以下,膝OA群)であった。膝OA群の重症度の内訳はK/L分類にてgradeIII3膝,gradeIV6膝であった。至適速度での10m歩行路の自由歩行を課題動作とし,足底部(踵骨,母趾)にフットスイッチセンサーを貼付し,歩行時の立脚期及び1歩行周期を同定した。計測は1人当り3回実施し,歩き始めから5歩目以降のデータを解析対象とした。EMGの計測は,EMGマスターKm-Mercury(メディエリアサポート企業組合社製)を用いて,サンプリング周波数は1kHzとした。被検筋は内側広筋(以下,VM),大腿直筋(以下,RF)とし,計測肢は,健常群は右側,膝OA群は手術側とした。積分筋電図(以下,IEMG)解析は,任意に取り出した3歩行周期分のデータを1歩行周期100%になるよう補正し,その後歩行周期5%毎に加算平均した。そして,膝関節伸展の等尺性最大随意収縮時の筋活動にて,相対化した値(以下,%IEMG)を算出した。また,EMGパワースペクトル解析には,Gabor関数を用いたwavelet周波数解析(12.5~200 Hz)を行った。解析区間は,IEMG解析と同区間とした。そして,周波数帯域を低周波帯(以下,LFB)20-45Hz,高周波帯(以下,HFB)81-200Hzの2つに分類し,各筋のLFBのパワー密度に対するHFBのパワー密度(以下,H/L比)を算出。統計学的解析はDr.SPSSIIfor windowsを使用し,群内比較は多重比較法を用いて各歩行周期区間の差を検定。群間比較は,2標本t検定を用いて各歩行周期区間の両群間の差を検定した。また,共変量を年齢,固定因子を群,従属変数を%IEMG,H/L比とし,共分散分析を行い有意水準は5%未満とした。
【説明と同意】
研究に先立ち目的を十分に説明し,理解と協力の意思を確認して行った。尚,本研究はヘルシンキ宣言に基づき当院倫理委員会の承認を得て行った。
【結果】
%IEMGについて,群内比較では,健常群のVM,RFは共に歩行周期0~30%で有意に減少(p<0.01)し,80~100%で有意に増加した(p<0.01)。膝OA群のRFは80~100%でのみ有意に増加した(p<0.01)。群間比較では,膝OA群のRFは健常群と比較して10~20%,40%~50%,70~80%で有意に高値であった(p<0.01)。H/L比について,群内比較では健常群のVM,RFは共に0~15%,80~100%で有意に増加した(p<0.05)。膝OA群のVM,RFは共に80~100%でのみ有意に増加した(p<0.05)。2群間に有意差は認められなかった。共分散分析の結果,%IEMG,H/L比の値に年齢による差は認められなかった。
【考察】
本研究の結果から,歩行中の%IEMGにおいて膝OA群のRFは健常群と比較し,より高い筋活動が示され,膝OA群の歩行はRFの筋活動を増加させ,二関節筋優位の運動制御を行っていることが推測される。また,H/L比において,健常群のVM,RFは0~15%で有意に増加したが,%IEMGは有意に減少した。0~15%は荷重応答期であり,膝関節伸展筋群には遠心性収縮が要求され,LFBが低下し相対的にHFBの活動比率が高まったことが予測される。すなわち,筋活動としては選択的にLFBの運動単位のfiring rateが減少するため%IEMGは減少し,H/L比は増加したことが考えられる。健常群で認められたH/L比の増加は膝OA群には認められなかったことから,荷重応答期において健常群と膝OA群では明らかな質的筋活動の違いが示唆された。
【理学療法学研究としての意義】
TKA術前後の理学療法では,歩行中のRFの高い筋活動を抑制し,荷重応答期でVM,RFのHFBを積極的に動員するような質的な筋活動の改善が必要であることが示唆された。今後,筋の質的な視点に着目したTKA術前後の運動療法の効果の検証を行い確立していきたい。