第49回日本理学療法学術大会

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発表演題 ポスター » 神経理学療法 ポスター

脳損傷理学療法13

Fri. May 30, 2014 5:10 PM - 6:00 PM ポスター会場 (神経)

座長:松尾篤(畿央大学健康科学部理学療法学科)

神経 ポスター

[0647] 急性期脳梗塞患者における離床時の収縮期血圧低下に関する因子の検討

石橋和博1, 水田幸平1, 井口貴文1, 春田峻也1, 陣内達也2, 一ツ松勤3 (1.社会医療法人天神会新古賀病院リハビリテーション部, 2.社会医療法人天神会こがケアアベニュー通所リハビリテーションセンター, 3.社会医療法人天神会新古賀病院脳卒中脳神経センター)

Keywords:急性期脳梗塞, 離床, 収縮期血圧

【はじめに,目的】
現在の急性期リハビリテーションでは廃用症候群予防や入院期間短縮のために一般的に早期離床を勧められ,また脳卒中ガイドライン2009においても十分なリスク管理のもと早期離床が推進されている。しかし急性期には脳循環の自動調節能(autoregulation)が障害され脳血流循環は全身血圧に依存するといわれており,血圧低下は血行力学的機序による梗塞巣拡大や新鮮梗塞の発生など神経症状の増悪リスクと考えられている。今回の研究は,介入前の患者情報より急性期理学療法のリスク管理向上を目的に,早期離床時の収縮期血圧低下に関与する因子の検討を行った。
【方法】
平成25年6月から9月に当院に入院し,脳梗塞急性期(発症後3日以内)にリハビリテーションにて坐位もしくは立位まで実施した脳梗塞患者のうち,データ欠損のない63名(アテローム血栓性31名,心原性22名,ラクナ10名)を対象とした。脳梗塞発症後3日以内に安静臥位,初回端座位,初回立位後の収縮期血圧を測定し,初回端坐位もしくは初回立位後での収縮期血圧が安静臥位での収縮期血圧から20mmHg以上低下した群(血圧低下群)と,20mmHg未満の群(非血圧低下群)の2群に分類した。検討項目は,意識障害(JCS10以上か否か),安静時収縮期血圧(140mmHg以上か否か),重症度(入院時NIHSS5点以上か否か),心機能(LVEF40%以下か否か),年齢(75歳以上か否か),脳梗塞病型,諸既往(糖尿病,高血圧症など)の有無,頚動脈有意狭窄の有無とし,2群間で比較した。各検討事項と収縮期血圧との関連についてクロス集計表を作成し,その関連についてχ2検定を行った。統計分析にはSPSS19.0を使用し,有意水準は5%とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
本研究はヘルシンキ宣言に則り,患者または家族に十分な説明を行い,同意を得た上で実施した。
【結果】
血圧低下群は13名,非血圧低下群は50名であった。また2群間で有意な相関を示した項目は,安静時収縮期血圧,重症度,年齢の3項目であった。安静時収縮期140mmHg以上は27名で,血圧低下群では13名中9名(69.2%),非血圧低下群は50名中18名(36%)であった(χ2=4.652,df=1,p<0.05)。入院時NIHSS5点以上は25名で,血圧低下群は13名中9名(69.2%),非血圧低下群は50名中16名(32%)であった(χ2=5.975,df=1,p<0.05)。年齢75歳以上は37名で,血圧低下群は13名中11名(84.6%),非血圧低下群は50名中26名(52%)であった(χ2=4.528,df=1,p<0.05)。意識障害,心機能,脳梗塞病型,諸既往の有無,頚動脈狭窄の有無では有意差はなかった。
【考察】
急性期脳梗塞患者では,安静時収縮期血圧140mmHg以上,入院時NIHSS5点以上,年齢75歳以上の場合には,離床時における収縮期血圧20mmHg以上の低下に関連していることが示唆された。
脳血管障害の急性期には脳浮腫などの影響により中枢自律神経線維網の機能不全に陥り,全身の交感神経機能亢進による自律神経障害を呈し,起立性低血圧とともに臥位性高血圧を示す。また脳血管障害の重症度(NIHSS値)の上昇と,全体的自律神経調節の消失,交感神経優位への移行に関連しているとされている。今回,高血圧症の既往に差はなかったが安静時収縮期血圧140mmHg以上の場合やNIHSS5点以上の場合において有意な差を認めたことから,脳血管障害の急性期の自律神経障害を呈していたと考える。一方,起立性低血圧に関与すると思われた頭蓋内圧亢進・糖尿病性自律神経障害合併症例や心拍出量低下に関係する項目には単独での差はなかった。しかし高齢者には複数の既往を有する患者が高率に含まれており,また明らかな神経症状が存在しない場合でも,圧受容器機能の低下による起立性低血圧を起こすとされており,75歳以上の群に有意な差を認めたと考える。
今後も早期離床を推進していく中で,上記該当患者では自律神経障害を伴った離床後の収縮期血圧低下が予測され,離床前後の自覚症状や他覚所見を注意深くモニタリングしていくことが重要であり,また脳梗塞発症の病型に限らず,血行力学性機序による梗塞巣拡大や新鮮梗塞などの危険性を伴う病態への把握をした上で,リスク管理と対策の検討が重要と考える。
【理学療法学研究としての意義】
早期離床時の収縮期血圧低下に関する因子の把握により,介入前の患者情報から起立性低血圧を予測でき,より安全に急性期理学療法を実施できるものと考える。